東大から藝大へ、学歴エリート監督が次に狙う世界最高峰 その道のりを辿る

#アカデミー賞#ドライブ・マイ・カー#濱口竜介

8月20日から全国公開『ドライブ・マイ・カー』 (C)2021『ドライブ・マイ・カー』製作委員会
『ドライブ・マイ・カー』撮影現場での濱口竜介監督(左)

北米3大映画批評家協会も制覇、スピルバーグ監督にも比肩する偉業

日本時間の3月28日に発表される第94回アカデミー賞で、日本映画として同賞史上初の作品賞ノミネートを受け、さらに国際長編映画賞、監督賞、脚色賞の合わせて4部門で候補となった『ドライブ・マイ・カー』。

監督賞、そして大江祟充と共に脚色賞にもノミネートされた濱口竜介監督は、『ハッピーアワー』(15)、『寝ても覚めても』(18)、そしてヴェネチア国際映画祭銀獅子賞受賞(黒沢清監督)の『スパイの妻』(20)の共同脚本などで、その活躍はすでに国際的に注目されてきた。

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1978年生まれの濱口監督は東京大学へ入学後に自主映画を撮り始め、卒業後は映画の助監督やTVの経済番組のアシスタントディレクターを経て、2006年に東京藝術大学大学院映像研究科に入学、教授だった黒沢清監督に師事し、修了制作の『PASSION』(08)がサンセバスチャン国際映画祭や東京フィルメックスで高く評価された。2010年に東京藝術大学と韓国の韓国映画芸術アカデミー(KAFA)共同制作の『THE DEPTHS』、2011年の東日本大震災発生後に宮城県に赴き、現地で生活しながら地元住民に被災体験を語ってもらった『なみのおと』(12)『なみのこえ 新地町/気仙沼』(13)を酒井耕と共同監督した。

さらに上映時間255分の『親密さ』(12)、構想中の長編『FLOODS』の序章として撮った54分の『不気味なものの肌に触れる』を挟み、2015年には上映時間5時間17分の『ハッピーアワー』を発表。ロカルノ国際映画祭で受賞した主演の女性4人を含め、ほぼ全キャストが演技未経験者だった。監督は彼らが演じる人物の過去を掘り下げたサブテキストを書き、完成作には含まれない過去の会話も用意し、キャストはそれを演じたという。

商業映画デビュー作となった『寝ても覚めても』は芥川賞作家・柴崎友香の原作小説の映画化で、第71回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に選出された。
2019年にはフランスのパリでレトロスペクティブが開催された。

そして新型コロナウイルスによるパンデミックを経た2021年、まずは3月に行われたベルリン国際映画祭で『偶然と想像』が銀熊(審査員グランプリ)賞に輝き、続いて7月開催のカンヌ国際映画祭で監督にとって商業映画2作目となる『ドライブ・マイ・カー』が脚本賞ほか4冠に輝いた。

同作は3時間弱という長尺でセリフは日本語を中心とした多言語という条件にもかかわらず、欧米で高い評価を獲得。多くの評論家の年間ベスト作品として挙げられ、昨年末から各映画賞で38もの賞を受賞(3月3日現在)、2021年度の映画賞を締めくくるオスカー4部門ノミネートの快挙を成し遂げた。

村上春樹が2014年に発表した同名の短編小説が原作で、小説を収めた短編集「女のいない男たち」の他の収録作の要素も取り入れつつ、西島秀俊演じる主人公の家福がチェーホフの舞台劇を演出しながら、妻の死と向き合う姿が描かれる。

海外での評価は非常に高く、以前から人気の高かったヨーロッパはもちろん、アメリカでも絶賛され、3大映画批評家協会(ロサンゼルス、ニューヨーク、全米)全てで作品賞を受賞した。過去に同じ栄誉に輝いたのは、アカデミー賞作品賞を受賞した『シンドラーのリスト』(スティーヴン・スピルバーグ監督)や『ハートロッカー』(キャスリン・ビグロー監督)など5作品のみで、非英語作品としてはもちろん『ドライブ・マイ・カー』が初めてだ。

コロナ禍で困窮するミニシアター支援にも尽力

さらに、全米映画批評家協会賞では最優秀脚本賞と合わせて西島秀俊が最優秀男優賞を受賞している。

『ドライブ・マイ・カー』は、原作が海外でも人気の高い村上春樹によるものであることに加えて、劇中でチェーホフの「ワーニャ伯父さん」制作過程がじっくり描かれるのも大きなポイントだ。広島の国際演劇祭で上演する多言語劇という企画で、各国から集まった俳優たちとの台本の読み合わせは、セリフをそれぞれの言語で発し、さらに感情を一切入れずに棒読みする方式。家福(西島秀俊)が俳優たちに求める本読みのスタイルは「イタリア式リハーサル」と呼ばれ、フランスのジャン・ルノワール監督が取り入れたもので、濱口監督が実践しているものでもある。

『ドライブ・マイ・カー』は新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けて2020年3月の東京ロケの後に撮影が中断、4月に監督はコロナ禍で経営危機に見舞われたミニシアターを支援するクラウドファンディング「ミニシアター・エイド基金」を、深田晃司監督(『本気のしるし〈劇場版〉』20年、『LOVE LIFE』今秋公開)と共に発起人となって設立した。目標の1億円を大きく上回り、総額は3億3100万円を超える支援金が集まった。

『ドライブ・マイ・カー』がこれだけ広く愛された理由について、ニューヨーク・タイムズ紙のカイル・ブキャナン記者は「パンデミックの最中に、つながりたいと切望しながらもつながれないキャラクターたちを見ることが、よりいっそう影響を与えるのではないか」と分析している。同記者の取材に、『パラサイト 半地下の家族』で非英語作品として初めてアカデミー作品賞を受賞したポン・ジュノ監督は「最近のアカデミーは非英語映画にもより興味を示しているので、(『ドライブ・マイ・カー』は)良い結果を残すと期待しています」と語った。時代を反射する静かなる名作とその監督が、さらなる注目を集めるのは間違いない。

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