「映画の政策のことは政治家や役人に任せておけばいい」で日本映画の衰退は止められるのか?

#日本映画界の問題点を探る#日本映画界の問題点を探る/世界標準から周回遅れの状況を変えるために#深田晃司

韓国映画界
当事者たちが声を上げたことで、ダイナミックに変わった韓国映画界/左:ソン・ガンホ、右上:パク・チャヌク監督、右下:ポン・ジュノ監督
韓国映画界
NPO法人映画業界で働く女性を守る会(swfi)
深田晃司

「これではダメだ!」とポン・ジュノ監督らが声を上げて大きく変わった韓国映画界

【日本映画界の問題点を探る/世界標準から周回遅れの状況を変えるために 4】ここまでハラスメントから助成金まで、日本映画界の中に根強くある問題について臆することなく語ってくれた深田晃司監督。国内外の状況を冷静に判断できる視点を持ち続けているからこそ、一つ一つの言葉には説得力がある。では、いまの状況を根本から改善するためにどういった変化が求められているのかについても聞いてみた。

【日本映画界の問題点を探る/世界標準から周回遅れの〜 2】都合良く使われる“演技論”は疑ってかかるべき

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「これまでも声を上げてきた人がいなかったわけではありませんが、業界の当事者からの声がまだまだ圧倒的に少ないと感じています。たとえば、これは僕自身にもよく起きることですが、問題について発信すると『映画監督は映画を作るのが仕事だから、そういったことは政治家や役人に任しておけばいい』と言われることも。そういった意識を持っている人が、いまでも多いのも原因となっているのかなと思っています」

深田監督によると、韓国は韓国映画振興委員会によって、ダイナミックに変わっていったというが、それは当事者たち自身の力によって起きたことだと解説する。

「過渡期となる20年ほど前に声を上げていたのは、ポン・ジュノ監督やパク・チャヌク監督、俳優のソン・ガンホたち。彼らが『韓国映画界はこれではダメだ!』と制度設計やアーティストたちの労働環境について訴え、その声を前提に専門家や学者がルールを設計していったという歴史があったと聞きます。いまの日本は、文化庁や経済産業省の方たちが映画業界のために様々な施策をしてくれている状態ですが、彼らは必ずしも文化の専門家や当事者ではないので、どうしても限界があります。いまこそ当事者である僕たちがこれまで以上に声を上げ、映画ファンや省庁にも声を届け、映画づくりのリアルに即した制度設計を進めていく必要があります」

昨年の11月には、NPO法人映画業界で働く女性を守る会(swfi)による「映像業界なぜやめた?」というアンケートが実施されたが、ここでも労働環境の悪さが明るみに出た。深田監督もこの点に関しては、深刻に捉えている。

NPO法人映画業界で働く女性を守る会(swfi)

NPO法人映画業界で働く女性を守る会(swfi)が行ったアンケート結果の一部

「すばらしいアンケートでしたね。才能とは一切関係のないところで、ハラスメントへの耐性が強い人が残れるとか、経済的な地盤があると残りやすいとか、男性というだけで有利になるといった多くの不平等がいまだにあると感じています。日本では年間600本以上の映画が制作されていますが、数が多いことだけが多様性なのでしょうか? 重要なのは、どれだけ多様な人間が表現に関われているかだと思います。その部分はまだまだ達成できていないと思います。実際、多くの女性は、結婚か映画か、子どもか映画か、と言った二者択一を迫られてやめていく方が多いのが現状です。ろう者が映画表現の当事者になりづらい状況も同様です」

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制作現場にも劇場にも課題は山積みだが「夢をもって目指せるような業界に変えていきたい」

そして、先のアンケートでも理由の1位となったのは、「長時間労働・休みがない」。予想通りでもあるが、長年にわたって叫ばれ続けている問題も、解決策がないわけではないと話す。

「映画の撮影においては長時間労働が多いと言われていますが、大きな原因となっているのが予算の問題。規模にもよりますが、例えば一般的な劇映画を作ろうしたら1日で300万円以上かかるとも言われています。ということは、もし予算が300万円でも増えれば撮影日を1日延ばすことができ、それだけで長時間労働を少し解消することにつながるわけです。人権に対する意識は大切ですが、実は労働環境が抱える問題の多くは、お金によって解決できたりします。だからこそ、映画のクリエイティブを支える製作環境や労働問題について考えるとき、精神論のみではなくお金の話をするのはとても重要で、その負担を個々人や企業のみに押し付けず、業界全体の問題と捉えて議論するのは非常に重要だと考えています」

しかし、映画業界で大変なのは現場だけではなく、映画館も同じように苦境に立たされていると訴える。

深田晃司

深田晃司

「特にミニシアターは経済的に厳しいところが多いので、コロナ禍で何ヵ月も観客が来なくなってしまったら潰れてしまうと訴えるところが大半でした。そんななか、ミニシアター・エイド基金を立ち上げたところ、全国の3万人を超える映画ファンのみなさんから3億3000万円もの寄付が集まりました。これは本当に映画ファンの力だったと感じていますが、映画業界としては『それでよかったね』で終わらせてはいけない。そもそも、『なぜ映画ファンに助けてもらう前に業界内で支えることができなかったのか』といったことを問題にするべきだと考えています。文化予算や助成金について話をしてきましたが、『共助』という意味では、映画業界の収入のうち数パーセントを一度回収して、再分配するという形を取るだけでも、いまより労働環境はよくなるのではないでしょうか」

ここまで日本映画界が抱える闇の部分にだけ焦点を当ててきたが、やはり映画には夢があり、日本映画にしかできないこともある。それだけに、これからの若い世代によってさらに盛り上げていって欲しい願いも込めて、最後に深田監督からメッセージをもらった。

「映画業界の労働環境が悪くなってしまったことについては、自分も含めてこれまで映画に関わってきた人たちの責任は大きいと思っています。今後はみなさんが同じような苦労をしないですむよう、少しでも何とかしたいですし、安心して夢をもって目指せるような業界に変えていきたいです。そのために、僕自身もがんばりたいです」(text:志村昌美)

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