自国イランでは上映が中止…冤罪で夫が死刑となったシングルマザーの衝撃の物語に「この事件は決して他人事ではない」

#アリレザ・サニファル#マリヤム・モガッダム#森達也#瀬々敬久#白い牛のバラッド#西川美和#死刑

71回ベルリン国際映画祭金熊賞&観客賞ノミネート作『白い牛のバラッド』が218日より全国公開される。今回、本編映像が公開された。

・ろうあの娘を抱えたシングルマザーに忍び寄る、亡き夫の“幼なじみ”の影…

批評家たちに称賛され瞬く間に注目を集めた衝撃の冤罪サスペンス

愛する夫を死刑で失い、ろうあの娘を育てながら必死で生活するシングルマザーのミナ(マリヤム・モガッダム)。1年後に突然、夫の無実が明かされ深い悲しみに襲われる。賠償金よりも判事に謝罪を求める彼女の前に、夫の友人を名乗る男レザ(アリレザ・サニファル)が現れる。ミナは親切な彼に心を開き、3人は家族のように親密な関係を育んでいくが、ふたりを結びつけるある秘密には気づいていなかった……。罪と償いの果てに、彼女が下した決断とは──。

衝撃の冤罪サスペンスである本作品。主人公で未亡人のミナを演じたのは本作品でメガホンをとり、脚本も手掛けた女優マリヤム。

本作品は、ファジル国際映画祭で数回上映された以降、劇場での上映を禁じられた。映画祭ではイランの巨匠アスガー・ファルハディ監督と並ぶ才能と、批評家たちに称賛され瞬く間に注目を集めた。

公開された本編映像は、死刑で夫を亡くしたミナに、夫が冤罪であったことを告げられるシーン。裁判所の男の口から淡々と説明される、第二の証人が真犯人で、夫の死刑は誤りだったという衝撃的な事実。「遺族に27,000万トマンが賠償金として支払われます」(日本円で2,500万円程)と告げられるミナは、ただ茫然とすることしかできない。そして、事実を把握した後、ミナが泣き叫ぶ姿で映像は終わる。マリヤムの迫真の演技が、観客までを悲劇の渦に巻き込む本作品において重要なシーンだ。

死刑制度が残る日本でも決して他人事ではない

ミナという複雑なキャラクターを演じたことについて、主演で監督のマリヤムは、「ミナの性格は私自身とはまるで違いますが、彼女の葛藤や自尊心は理解できますし、悲しみにも共感します。彼女はイラン映画によく見られる典型的な弱い女性ではなく、弱さと強さを併せ持った女性です」と語り、今までのイラン映画には登場しなかった、リアルな女性像を目指したことを明かした。

合わせて、各界からの著名人総勢10名から絶賛のコメントも到着した。

『菊とギロチン』(18年)や『友罪』(18年)で死刑を描いてきた瀬々敬久監督は「悲劇でありながら、悲しいと叫ぶことでは済まされない現実、それが突き刺さってくる」と述べる。

『ゆれる』(06年)や『すばらしき世界』(20年)など人間の罪に切り込んだ作品を多く手がける西川美和監督は「やむにやまれぬ人の繋がりと赦しを丹念に描いた素晴らしいドラマだった。イランの演じ手たちの演技の確かさにも息を飲んだ」とコメントした。

死刑制度についての本を多数出版する森達也監督は「先進国では例外的な死刑存置国の日本に暮らす僕たちにとって、この事件は決して他人事ではない」と熱の込もった言葉を残した。

『白い牛のバラッド』は、218日よりTOHOシネマズ シャンテほかで全国公開される。