高杉真宙「優しいは褒め言葉じゃない」『架空の犬と嘘をつく猫』舞台挨拶で明かした“優しさ”の裏側
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共演者との関係性や役の繊細な心情表現に触れ、作品世界の核心に迫る
映画『架空の犬と嘘をつく猫』の舞台挨拶付き完成披露上映会が12月10日に開催され、主演の高杉真宙をはじめ、共演の伊藤万理華、深川麻衣、安藤裕子、向里祐香、安田顕、森ガキ侑大監督が登壇。撮影の舞台裏と作品への思いを語り合った。
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映画上映前、大勢の観客の前に立った高杉は「この映画は1年半ぐらい前に撮影したもので。こうしてようやく皆さまに届けられるということで本当にうれしく思います」とあいさつ。
森ガキ監督も「今日は久しぶりに役者陣の皆さんとお会いできて、この映画がようやく皆さんに観ていただけることになったなと思い、ちょっと熱い気持ちがこみ上げてきました。すごくハートフルな映画になっていると思いますので、今日は楽しんで帰ってください」と喜びを明かし、豪華キャスト陣が集結した舞台挨拶がスタートした。
冒頭、ヨーロッパ・エストニアで開催された「タリン・ブラックナイト映画祭」で最優秀撮影賞を獲得したことに触れられると、そのトロフィーが場内に運び込まれた。森ガキ監督は「これはスタッフ全員と、そして役者の皆さん全員で取れた賞だと思っています。ヨーロッパの方たちからは『すごく詩的で美しい映画だった』と評価していただきました」と誇らしげに語る。
温かい拍手が送られる中、トロフィーを見ながらコソコソ話で盛り上がる役者陣。その理由を問われると、安田が「素晴らしいんですけど、中(の絵柄)は犬なのか猫なのかオオカミなのかって。キャスト陣は誰も監督の話を聞いてなかった」と暴露し、会場は大笑い。作品タイトルに犬と猫が入っているだけに、つい気になってしまったようだ。ちなみに森ガキ監督によると、この絵柄は「オオカミ」だという。
本作で高杉が演じる山吹は、他者を思いやる優しい人物として描かれている。高杉がそんな役を演じるにあたり心がけたこととは何だったのだろうか。「彼を演じる中で、彼がどういう風に山吹という人になっていったのか、その過程は理解できるなと思います。きっと“優しい”という言葉が嫌いなんだろうなと思って演じていました」と役柄を分析。
さらに「僕自身は“優しい”という言葉はあまり褒め言葉だと思っていないというか…。客観的に見て、『優しい』と言ってもらえることって、意外と自分のためだったりすることも多いですからね」と自身の考えを明かすと、「優しい」という言葉に込められた深い心理を読み解く言葉に、場内からは唸り声が上がった。
一方、山吹の小学校時代の幼なじみ・頼を演じた伊藤と高杉は今回で3度目の共演となる。「もちろん役によって雰囲気がガラッと変わる方だなという印象はあるんですけど。でも、高杉さんは高杉さんだな、みたいな」と伊藤が信頼を寄せる言葉を口にし、高杉も「でも最初にご一緒した時よりお話することができたと思います。お互い大人になりました(笑)」と今回の撮影を振り返った。
山吹の初恋相手・かな子を演じた深川は、自身の役どころについて「分かりやすい言葉を使えば『あざとい』女性のくくりになるかもしれない」と語る。「でもそれだけじゃなくて、小さい頃からの母親との複雑な関係があったり…100%意識していたらあざといになるかもしれないですけど、無意識でやってしまっている部分もあるのかなと。かな子の人生をぜひ見届けてほしいです」と印象的な役柄をアピールした。
劇中のかな子は、山吹をめぐり伊藤演じる頼と三角関係のような関係性にあるが、実際の2人は大の仲良しだという。役柄上ほとんど会話シーンがなかったものの、撮影の合間には一緒に出かけることもあったそうで、高杉が「あ、そうだったんだ。へえ…」と驚いた表情を浮かべると、会場はクスクスと笑いに包まれた。伊藤も「同じシーンが少ないからこそかな、という感じです」と笑顔で付け加えていた。

山吹の姉・紅を演じた向里は、自身の子ども時代を演じた子役について「本当にそっくりですよね」としみじみ語った。彼らをキャスティングするにあたり、向里と高杉の幼い頃の写真を参考にオーディションを行ったと森ガキ監督が明かすと、向里はあらためて「幼少期の紅がなんとか家族を繋ぎ止めておかないとって踏ん張ってる感じがあって。常に力が入ってるんですよ。それがすごく良くて。それを見てるだけで私はもう、グッとしてしまいました」と語り、紅の子ども時代を演じた子役の芝居に心を動かされた様子を見せた。
さらに、一緒に共演した高杉について「本当に好青年ですよね。優しいし」と話すと、“優しい”という言葉に場内はドッと沸いた。高杉も「(優しいというのは)本当にそうか分からないですよ」と冗談めかしつつ、「そう言ってもらえるのはうれしいです」と素直な笑顔を見せていた。
山吹の母親・雪乃を演じた安藤も、「自分も母親なんですけど、こうあるべきではない姿というのを雪乃は辿ってしまうんです。きっと山吹がわたしにかけてくれる優しさが生きる術だったのかなと。普通の愛をあげられなかったのが残念です」と、傷ついたまま現実を受け入れられなかった雪乃という役柄について語った。
雪乃の夫であり山吹らの父・淳吾役を演じた安田は、森ガキ監督に「なぜ自分に淳吾役をオファーしたのか」と質問。その真意について「どうしようもない男だなって。それにキャスティングされたということは、ん? と思った」と自虐交じりにコメントし、場内には笑いが起きた。
問いを受けた森ガキ監督は「安田さんはどんな役でもできる方なので、その中で何も言わなくてもちょっと不穏な・ミステリアスな感じを漂わせたいと思った」とキャスティング理由を明かし、安田も安心した表情を見せていた。
イベント後半では、映画にちなみ「皆さんがこれまでについた『優しいうそ』を教えてください」というトークコーナーが設けられた。最初に向里が「カフェで店員さんにお茶をこぼされて、びしょ濡れになったけど『防水なので大丈夫です』とうそをついた」とエピソードを披露。「そこで変な空気になると、店員さんがバイト時間中、引きずったままになってしまうかなと思って」と語ると、その優しい配慮に登壇者たちから「優しい!」と感嘆の声が上がった。
母親役の安藤は、娘とのやりとりについて「これいいよ、ちょうだい」という可愛らしいイラストの会話文を紹介。「娘が食いしん坊で、おかずやスイーツを分け合っていても『もっとちょうだい』と言われると、自分は足りなくても『あ、いいよ』って差し出します」と、役柄とは対照的な親心あふれるエピソードを披露した。
深川は「コンビニに住んでいる」と回答。「仕事終わりにマネージャーさんに送ってもらった時に、家の近くのコンビニで降ろしてもらったんですけど、一緒に乗っていたマネージャーさんのお子さんに『コンビニに住んでるの?』と聞かれて。夢を壊しちゃいけないと思って『そうだよ、食べ物も飲み物も全部食べ放題なんだよ』とうそをつきました」と告白し、かわいいエピソードに会場はほっこりした空気に包まれた。
安田の回答は「大丈夫」。「『大丈夫』は魔法の言葉。やばいことがあっても『大丈夫だよ』と言うと安心するじゃないですか。ただし『大丈夫、大丈夫』と2回言うと大丈夫じゃないかもしれない(笑)」と語り、会場を沸かせた。
続いて森ガキ監督は「テイク2」と回答。「テイク1を撮った時に『今の良かったですよ。もう1回いってみましょう』と言う時の『良かったですよ』は、自分の中での優しいうそなのかな」と現場の裏話を明かすと、登壇者たちも「大丈夫なのかな」と心配しつつ笑っていた。
伊藤は「嘘というか、みんなが“あぁ〜”ということかなと思うんですけど…」と前置きしつつ、「初めて聞いたようなリアクションをした」と回答。これを聞いた瞬間、全員が“あぁ〜”とリアクションし、場内全体から共感の声が漏れた。

最後に高杉が「タクシー…」と回答。「空港までタクシーに乗った時、運転手さんがすごくおしゃべりな方で。その方の壮絶な人生の話を聞くことになったんです。到着予定時刻がギリギリになって『まずいな』と思ったんですが、運転手さんが話に夢中になっていて。そのタイミングで『時間大丈夫?』と聞かれたんですが、話の腰を折るのも悪いなと思って『大丈夫です』と答えました」と述懐。
さらに「タクシーの中で『もうこの人の面白い話を聞けるなら、次の飛行機でもいいかも』と覚悟を決めていました」とも付け加え、登壇者たちも「優しいを超えてますよ」と高杉の人柄に感嘆していた。

舞台あいさつも終盤となり、最後に高杉は「あらためて家族ってなんだろうと考えてみて…家族というのは、切っても切れないものなんだなと思いました。でも家族の24時間を全て知っているわけではないから、どこかで他人になっていたりもする。そんな中で、この映画は家族のことだけじゃなくて、隣にいる人のことも思いやれる映画なのかなと思っています。見えないだけで、いろんな人が事情を抱えて生きている。この映画は、そんな背景を考えさせてくれます。自分は映画とか作品というのは、人の人生を2時間でも1時間30分でも奪うものだと思っているので、見てくださった方たちが何か人生が変わるものがあればと思っているんですが、この映画は間違いなく、皆さんの価値観だったり人生というものを変える力がある作品だと思っています。どうぞよろしくお願いいたします」とメッセージ。高杉のあふれる思いに包まれながら、舞台挨拶は締めくくられた。
『架空の犬と嘘をつく猫』は2026年1月9日より全国公開。
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