吉沢亮と横浜流星がたどり着いた圧巻の美! 歌舞伎に青春を捧げた二人の生き様を描く
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(C)吉田修一/朝日新聞出版 (C)2025映画「国宝」製作委員会
「それがどうした」と挑む強さが美しい
【週末シネマ】吉田修一の原作を李相日監督が映画化した『国宝』は、任侠の家に生まれた少年が上方歌舞伎の家に預けられ、部屋子から家の大切な名跡を襲名し、やがて人間国宝となる一代記だ。堂々とした、大作という言葉がよく似合う。約3時間という長さをまったく感じさせない濃密な時間が流れる。
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筆者はまだほんの子どもだった1970年代から歌舞伎を観てきた。半世紀近く経っても、「きれい、かわいい、かっこいい」という感想しか出てこない浅いファンであり、主人公の喜久雄が襲名披露の口上で言う「すべてが楽しく美しく、夢のような年月でございました」は、まるで自身の観劇歴を言い当てられたように感じた。そんな目で見ると、この映画の描く歌舞伎は、やはり現実のものとは違うと感じる。そして、「それがどうした」と挑んでくる強さが美しい作品だ。
現実とは別物だが、それは難点ではなく、『国宝』という物語の世界にある“歌舞伎”が確立されているという意味で、本作の大きな美点だ。模倣するのではなく、似て非なる世界の真実を完璧に構築しているからこそ、観客はその中に浸れる。「歌舞伎役者がやれば歌舞伎になる」という当事者の哲学を聞いたことがあるが、この映画はまさに歌舞伎らしさというものについての一つの答えになっている。
(C)吉田修一/朝日新聞出版 (C)2025映画「国宝」製作委員会
才能と血筋、二人の青年がともに芸を磨き合う
喜久雄を演じるのは吉沢亮。人気役者の父が見出した喜久雄の才能に圧倒されつつ、ともに芸を磨き合う俊介を横浜流星が演じる。俊介の父で、上方歌舞伎の名女方・花井半二郎を演じるのは渡辺謙。
(C)吉田修一/朝日新聞出版 (C)2025映画「国宝」製作委員会
キャストは全員、適材適所だ。盤石という言葉では物足りないほどのベテランたちの支えが、吉沢と横浜をより輝かせる。渡辺謙は、女方というには威丈夫すぎるが、伝統の継承を使命とする者の覚悟を見せる。半二郎の妻・幸子役で出自のリアルをフィクションに昇華する寺島しのぶ、当代一の歌舞伎役者・小野川万菊役の田中泯は特に強い印象を残す。監督は六世中村歌右衛門をモデルに、歌舞伎を題材にした映画を構想したことがあるという。万菊から漂う得も言われぬ妖気に、幻の作品の片鱗を見る思いがした。
厳しい芸の道を突き進む喜久雄=花井東一郎と俊介=花井半弥に勝るとも劣らない真摯さをもって、歌舞伎役者を体現する吉沢と横浜の奮闘は、何かを会得することと、上っ面を真似ることの違いをこれでもかとわからせる。1年以上の稽古を積んだ2人は、この物語にふさわしい“型”を生み出し、見事というほかない圧巻の美を咲き誇らせている。
舞台で歌舞伎を演じるシーンには、喜久雄と俊介の関係性が重なる。複数回登場する演目「二人道成寺」と「曽根崎心中」には2人が築いた歴史とそれぞれの波乱に満ちた歩みが映し出される。観客席からの視点と同時に、幕内から見る感覚もある。芝居をする役者の心根がむき出しになったものが映っているようで、俊介の渾身の「曽根崎心中」はその最たるものだ。
本来の歌舞伎の舞台では役者が見得をする演出を、映画ではクローズアップという手法に置き換えて見せる。面白い効果だ。
(C)吉田修一/朝日新聞出版 (C)2025映画「国宝」製作委員会
原作は文庫本で上下巻のボリュームだが、映画は喜久雄と俊介が切磋琢磨し合う青年期に比重を置き、原作の主要な人物やエピソードも大胆にカットしている。
父から「血が守ってくれる」と言われる俊介は、「守ってくれる血がない」と嘆く喜久雄に「芸があるやないか」と声をかける。だが、そんな彼もまた「本物の役者になりたい」と声を震わせる。血が欲しいという喜久雄、本物の役者になりたいという俊介。喝采だけでは納得できない。本物とは、実は観客を必要としない境地なのではないか。喜久雄が、俊介が、やがてたどり着く先で見る景色を想像しながら、そんなことも考えた。
道を極めようとする者の世界を描く
衣装も装置も、歌舞伎の舞台を緻密に再現している。1960年代半ばから50年ほどの月日が流れる物語だが、中盤にあたる昭和後期の描写もリアルだ。花井半二郎邸の造りや、喜久雄たちの日常の装いなども時代を映している。
歌舞伎の知識は、あればより細部まで楽しめるが、映画が描くのはあくまでも、「悪魔と取り引き」してでも歌舞伎を極めようとする者の生き方だ。役者の物語であり、1人の人間の物語でもある。それはまっさらな状態で臨む人ほど没入できる、険しくも美しい世界だ。(文:冨永由紀/映画ライター)
『国宝』は、全国公開中。
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