【週末シネマ】外から見たアメリカ考察としても秀逸、娘を探す父の執念を描くサスペンス

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『プリズナーズ』
(C) 2013 Alcon Entertainment, LLC. All rights reserved.
『プリズナーズ』
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『プリズナーズ』

ペンシルヴァニア州の小さな町で、感謝祭の日に2人の幼い女の子が失踪する。6歳と7歳の娘をそれぞれの家族は必死で捜すが、その姿はどこにもない。警察が捜査に乗り出し、すぐに容疑者が浮上するが、証拠不十分で釈放され、少女たちの行方はわからないまま。『プリズナーズ』は半狂乱でわが子を探す父親と、わずかな手がかりから真相へ迫ろうとする刑事が主人公のサスペンスだ。

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ヒュー・ジャックマンが、信心深く、21世紀の今も古き良きアメリカの強く頼れる父親像を体現する主人公・ケラーを演じる。釈放された青年・アレックスがささやいた言葉から彼が娘を誘拐したと確信した彼は、警察の捜査の手ぬるさに焦燥を募らせ、アレックスを拉致監禁し、娘たちの居場所を吐かせようと凄まじい拷問を始める。ジャックマンは、超人的な力も飛び抜けたカリスマ性もない普通の男が味わう極限をエモーショナルに表現し、見る者の心を激しく揺さぶる。

捜査にあたる敏腕刑事・ロキを演じるのはジェイク・ギレンホール。周辺地域で発生した別の事件や過去の幼児失踪事件、新たに浮上した容疑者、アレックスの複雑な生活環境など、バラバラに崩されたパズルのピースをはめ込むように核心へと迫っていく。北欧神話に登場する神と同じ名前の彼の首や手にほどこされた入れ墨、左手小指にはめたフリーメイソンの指輪などが思わせぶりに映し出される。

閑静な住宅街で白昼に忽然と姿を消した娘たち。ほんの一瞬目を離したばっかりに、と自責の念にかられる瞬間もありそうだが、ケラーにはその余裕すらない。

娘を救うためなら手段は辞さない。そう思わない親はいないだろう。だが、それを実行することが何をもたらすのか。劇中の「子供を消し去るのは神に対する戦いだ。人々に信仰心を失わせ、魔物にする」という台詞が端的に説明している。魔物になるという意味の重さは、自らの正義と善良さを疑ったことのない人々にどれだけの恐怖や罪深さを感じさせるのか。キリスト教の視点から見渡すと、この物語の衝撃度がまた違った様相を帯びてくる。

監督は『灼熱の魂』のドゥニ・ヴィルヌーヴ。カナダ出身で、これがハリウッド進出第1作。アーロン・グジコウスキのオリジナル脚本は緻密な構成で、台詞の1つひとつ、画面にちらりと登場する人や物すべてが謎を解く鍵になる。ポール・ダノの名演に見入るアレックスは10歳児程度のIQと診断された青年。そんな子供のような男が拷問で瀕死の状態になりながら、絶対に口を割らない。それは何故か。「最善を祈り、最悪に備えよ」という哲学、主の祈り、迷路、蛇。宗教性を帯びたミステリアスなモチーフの数々が少女2人の安否と犯人探しのサスペンス、そして深い人間ドラマを導き出す。アカデミー賞にノミネートされたロジャー・ディーキンスによる映像は、リアルな質感と光と闇のバランスが素晴らしく、重く過酷な物語に詩的な美しさを添える。

ヴィオラ・デイヴィス、マリア・ベロ、テレンス・ハワード、そしてメリッサ・レオといった実力派が共演し、男と女、あるいは大人と子供の持つ強さの中の弱さ、弱さの中の強さを紡ぎ出す。カナダ人の監督、オーストラリア人の主演俳優による、外から見たアメリカ考察としても秀逸だ。(文:冨永由紀/映画ライター)

『プリズナーズ』は5月3日より丸の内ピカデリーほかにて全国公開される。

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