【週末シネマ】82歳監督が執念で完成させた、ユニークすぎるリヴァー・フェニックス遺作

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『ダーク・ブラッド』
『ダーク・ブラッド』

『ダーク・ブラッド』

1993年のハロウィン前夜、ロサンゼルスの路上で衝撃的な死を遂げたリヴァー・フェニックスの遺作『ダーク・ブラッド』が、20年以上の時を経て日本公開されることになった。

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リヴァーが亡くなったのはクランクアップの11日前。重要なシーンの撮影も残した状況で、当時は製作中止となった。だが、ジョルジュ・シュルイツァー監督の執念で残った素材を集めて編集、撮影が叶わなかったクライマックス・シーンは似たような場面のスチル画像と監督による脚本のナレーションと解説で補完という凄まじいものを作り上げた。常識的には未完だが、ほかに類を見ない異色の作品だ。

アメリカの南西部で、かつて核実験場だった砂漠地帯にハリウッドのスター俳優のカップル、ハリーとバフィーがやって来る。車が故障し、助けを求めて彼らがたどり着いた家に1人で暮らすホピ族の血を引く青年・ボーイをリヴァーが演じる。ジュディ・デイヴィス演じるバフィーにひと目で惹かれ、夫妻を留め置こうと画策するボーイと、ジョナサン・プライス演じるハリー、そしてバフィーの緊迫感あふれる関係性を描く物語には、ネイティブ・アメリカン迫害の歴史や核の脅威といった要素も盛り込まれ、かなりの意欲作だったことがうかがえる。

ネイティブ・アメリカンの妻を白血病で亡くし、地下シェルターを作って間もなく訪れる世界の終わりに備えるボーイは無垢な優しさと邪悪さが共存し、髪を黒く染めて役に臨んだリヴァーの新しい一面を垣間見ることができただけに、改めてその夭折が惜しまれる。

映画の撮影途中で主演スターが亡くなることは、残念ながら少なくない。昨年も『ワイルド・スピード』シリーズ最新作の撮影中だったポール・ウォーカーが自動車事故で亡くなり、同作の製作が一時中断した。その後、脚本のリライトとポールの実弟2人(コディとケイレブ)が代役をつとめる形で撮影を再開し、映画は2015年4月に公開を予定している。テリー・ギリアム監督の『Dr.パルナサスの鏡』は主演のヒース・レジャーの急死を受けて、撮り残したシーンをジョニー・デップ、ジュード・ロウ、コリン・ファレルの3人が演じ分けるという離れ技で解決したことも記憶に新しい。

それにしても、ブルーレイやDVDソフトに付くような音声解説が標準仕様とは、シュルイツァー監督も思い切ったものだ。今年82歳の高齢で、本作を仕上げる決意を固めたのも大病を患ったのがきっかけだという。そのためか、失うものも恐れるものも何もないといった様子で、ストーリーのみならず撮影当時や完成に至るまでの過程での内情を赤裸々に語っている。これが実に面白い。将来を嘱望された若きスターが最後にフィルムに遺した姿を確認できるのはもちろん、フィクションでありドキュメンタリーであり、と一筋縄ではいかないユニークな作品として一見の価値ありだ。(文:冨永由紀/映画ライター)

『ダーク・ブラッド』は4月26日より公開。

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