ティモシー・シャラメの輝きと圧倒的な映像、示唆に満ちたドラマ、映画館で見るべき大作

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DUNE/デューン 砂の惑星
『DUNE/デューン 砂の惑星』
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DUNE/デューン 砂の惑星
DUNE/デューン 砂の惑星

“選ばれし者”にふさわしいスター性を持つシャラメが適役

【週末シネマ】劇場の大スクリーンで映画を楽しめる日常が戻りつつある今、映画館でこそ真の魅力を堪能できる大作、それが『DUNE /デューン 砂の惑星』だ。『メッセージ』『ブレードランナー2049』を手がけたドゥニ・ヴィルヌーヴ監督らしい、圧倒的な映像と深い示唆に満ちたドラマに彩られたSF大作となっている。

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1965年に発表されたフランク・ハーバートによる原作小説「砂の惑星」は『スター・ウォーズ』や『風の谷のナウシカ』などに影響を与えた傑作で、1980年代までに全6作が刊行された壮大なSFシリーズ。10191年という遠い未来を舞台に、宇宙帝国の皇帝の命を受けて惑星アラキス(砂の惑星)に移住したアトレイデス一族の後継者、ポールが主人公だ。

ティモシー・シャラメが演じるポール・アトレイデスは、民衆に愛される父・レト公爵と人智を超えた能力を持つ母・レディ・ジェシカの間に生まれ、自らも特別な力を受け継いでいる。まだ年若く、自分の力をコントロールしきれずに苦しみながら、父と対立するハルコンネン家との苛烈な権力闘争に巻き込まれていくポールは、英雄になることが運命づけられている。そんな“選ばれし者”というキャラクターに欠かせないスター性を持つのがシャラメだ。

こればかりは持って生まれた資質で、後から身につけられるものではない。追われる身となるも、やがて救世主となるカリスマを美しく、気高く演じている。10代の少年のような、ともすれば心もとない外見の内側に秘めた強さや激しさの表し方、壮大な戦いの中でアイデンティティを見出していくポールの成長もきめ細やかに見せる。

脇の人物が背負うドラマも丁寧に描くヴィルヌーヴの演出

豪華なキャストも見逃せない。ポールを囲む大人たちはシャラメとは対照的な屈強な風貌(ジョシュ・ブローリン、ジェイソン・モモア、ハビエル・バルデム)が揃い、オスカー・アイザックが演じる父親に勝る存在感を見せるのが、レベッカ・ファーガソンが演じるレディ・ジェシカだ。台湾のチャン・チェンが演じるユエ医師など、脇の登場人物が背負うドラマを疎かにしないのもヴィルヌーヴらしい演出だ。

自分の頭の中では描けない夢のような世界を味わってほしい

「砂の惑星」はかつて、鬼才監督アレハンドロ・ホドロフスキーが1970年代に映画化を試みながらも断念、1984年にデヴィッド・リンチが映画化したが、紆余曲折があり監督にとっても不本意な仕上がりだった。

この2作、そして今作を見ると、遠い未来が舞台のSFをどう脚色するのか、個々のアーティストの感性のみならず彼らが生きる時代の空気も少なからず影響することを痛感する。

物語で領家の争いのきっかけとなるのは、アラキスにしか存在しない香料「メランジ」だ。長寿や活力など多くの効能を持つ稀少な自然資源をめぐる覇権争いは、現実の世界に置き換えて見ることもできる。砂漠の中から突如出現する巨大生物サンドワーム、スパイスを採取する人々を搾取する植民地主義など、ハーバードが未来の物語に盛り込んだ寓話性を、ヴィルヌーヴはしっかりと汲み取っている。

広大な砂漠、人間が砂粒になったかのように思える巨大生物や施設、そして砂の音。さまざまな文化を取り込んだ衣装やセットも見事だ。

できるだけ大きな画面と良い音響で、映画の中に入り込む感覚を味わってもらいたい。自分の頭脳だけでは決して描けない夢のような世界に、2020年代の今が映し出されている。(文:冨永由紀/映画ライター)

『DUNE/デューン 砂の惑星』は2021年10月15日より公開。

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