“シェイン愛”が充満! ジョニー・デップが描くアイリッシュ・パンク創始者の生き様

#アイリッシュ・パンク#アイルランド#コラム#シェイン 世界が愛する厄介者のうた#シェイン・マガウアン#ジョニー・デップ#レビュー#映画を聴く

『シェイン 世界が愛する厄介者のうた』
(C) The Gift Film Limited 2020
『シェイン 世界が愛する厄介者のうた』
(C) The Gift Film Limited 2020
『シェイン 世界が愛する厄介者のうた』
(C) The Gift Film Limited 2020
シェイン 世界が愛する厄介者のうた
シェイン 世界が愛する厄介者のうた
シェイン 世界が愛する厄介者のうた
シェイン 世界が愛する厄介者のうた
シェイン 世界が愛する厄介者のうた

5歳で酒とタバコ…、ザ・ポーグスのフロントマン、シェイン・マガウアン

【映画を聴く】先日、とあるロックフェスに出演したミュージシャンが、泥酔状態でステージに上がった先輩ミュージシャンに対する批判コメントをSNSにアップ。両者のファンの間でちょっとした論争が巻き起こっていることが、ネットニュースに取り上げられた。「あの人は昔からそういう感じなんです。ファンとしてはそれもひとつの“お約束”として楽しんでいます」「いやいや、フェスだから他のミュージシャンのファンもたくさんいるし、それを常によしとするのはおかしいでしょ」などなど。別に、どちらが正しいと言いたいわけではないけれど、この騒動を知って最初に思ったのは「こういうことが通じない世界では、シェインはもう二度とステージに立てないだろうな」ということ。シェインとは、ここで取り上げるドキュメンタリー映画『シェイン 世界が愛する厄介者のうた』の主人公、シェイン・マガウアンのことである。

【映画を聴く】レジェンドに愛された街ローレル・キャニオン、音楽のメッカに迫るドキュメンタリー

軽快なアイリッシュ音楽にパンク・スピリットを注入したアイリッシュ・パンクのオリジネイター、ザ・ポーグスのヴォーカル&ソングライターであるシェイン・マガウアンは、1957年12月25日アイルランド生まれ。今年のクリスマスには65歳を迎えるが、本編で見られる現在の彼の姿は、実年齢よりもいささか老けて見える。5歳で酒とタバコを知り、高校入学時にはドラッグ依存症になっていたという不摂生すぎる生活が影響しているのだろう。50歳にしてほとんど抜け落ちてしまった歯こそ数年前の歯科手術で復元されたものの、車椅子に乗ってうつろな目つきで「シシシ……」と力なく笑う様子は、人生の最終章に差しかかった老人のようである。

キリストと同じ誕生日のシェイン、代表曲はクリスマス・ソング

それでもシェインが多くの仲間とファンに愛され続けているのは、現在もクリスマス・ソングの定番として世界中で聴き継がれている「Fairytale of New York(ニューヨークの夢)」を代表とする彼の音楽の素晴らしさゆえに違いない。「アイリッシュ音楽とパンクは、率直で人間臭いところがよく似ている」「歌はそこらじゅうを空気のように漂っている。それをただ掴み取ればいいんだ。俺が掴まないとポール・サイモンがみんな取っちまう」といった言葉からは、彼のソングライターとしての非凡なセンスが今も健在であることがよく伝わってくる。ちなみにシェインは、熱心なカトリック信徒。誕生日がイエス・キリストと同じであることも、彼の信仰心を厚くしている理由のひとつだという。そんな彼の代表曲がクリスマス・ソングだというのは、なんとも幸せな話である。

シェイン 世界が愛する厄介者のうた

(C) The Gift Film Limited 2020

親友ジョニー・デップによるインタビューで語られる破天荒なエピソード

そして、シェイン本人の憎めないキャラクターが、多くの人を惹きつけ続けていることもまた事実だろう。本作では、30年来の親友であるジョニー・デップが製作を手がけ、インタビュアーとしても出演。シェインの酒やドラッグにまつわる破天荒なエピソードが次々と語られるが、それを振り返るシェイン本人からは深刻さがいっさい感じられない。いくら酒やドラッグに溺れても、彼の人間性のコアにある無垢な天使性は奇跡的に無傷なまま温存されているように感じられる。

シェイン 世界が愛する厄介者のうた

(C) The Gift Film Limited 2020

ジョニー・デップのほかにもプライマル・スクリームのボビー・ギレスピーがシェインの話の聞き手を務めたり、ウェールズ出身の高名なイラストレーターであるラルフ・ステッドマンが作中にイラストやアニメーションを提供したりと、出演者の「シェイン愛」が全編に溢れている。

シェインの復活劇を願わずにはいられない

本編の後半では、2018年1月にダブリンのナショナル・コンサート・ホールで開催された彼の60歳を祝うバースデー・コンサートの模様を見ることができる。先のジョニー・デップやボビー・ギレスピーのほか、U2のボノ、ニック・ケイヴ、シニード・オコナー、グレン・ハンサードといった錚々たるメンツが次々にザ・ポーグスの楽曲を歌い、後半にはシェイン本人も車椅子で登場。「Rainy Night in Soho」をニック・ケイヴとともに歌っている。

シェイン 世界が愛する厄介者のうた

(C)NATIONALCONCERTHALL,DUBLIN

その弱った姿を見るにつけ、彼が全盛期のようにエネルギーに満ちたパフォーマンスをすることはもう難しいかもしれない、と思う。しかし、たとえば創作の頓挫により長年心身のバランスを崩していたブライアン・ウィルソンが、仲間たちの懸命なサポートでカムバックを遂げ、79歳の今も現役であり続けているように、末期の膵臓がんを宣告されてフェアウェル・ツアーまで敢行したウィルコ・ジョンソンが、奇跡的にがんを克服して現在も世界中で元気にライヴを続けているように。ロックやポップスの世界には、まるで映画のようにドラマティックな復活劇が何度も起こっている。そんなことがシェインの身にも起こることを願わずにはいられない。そして、その時ばかりは「泥酔したミュージシャンをステージに上げるな」なんて無粋なことは言わず、温かく見守ってあげたい。そんなことを思わせる、シェイン・マガウアンの決定版的なドキュメンタリーである。(文:伊藤隆剛/音楽&映画ライター)

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『シェイン 世界が愛する厄介者のうた』は、2022年6月3日より全国順次公開。

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