『ドライブ・マイ・カー』濱口竜介監督の快挙なるか

ドライブ・マイ・カー』が日本映画として史上初の作品賞にノミネートされ、監督賞、脚色賞、国際長編映画賞を合わせて計4部門で候補になっている第94回アカデミー賞

アメリカ映画芸術科学アカデミー(AMPAS)が主催し、実際に映画製作に関わるプロフェッショナルの投票によって選ばれる映画界の最大のイベントの長い歴史の中では、これまでも数々の日本で生まれた作品や映画人が候補となり、表彰されてきた。オスカーが認めた日本の才能を振り返ってみよう。

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最初にアカデミー賞を受賞したのは第24回(1952年)に名誉賞(現在の国際長編映画賞にあたる)に輝いた『羅生門』。黒澤明監督の名作は翌年の第25回でモノクロ作品美術監督賞(松山宗、松本春造)にもノミネートされ、同部門でアジア人初の候補となった。

『羅生門』で用いられた、ある出来事を複数の視点で描く手法は「ラショーモン・スタイル」として国際的に定着。最近ではリドリー・スコット監督の『最後の決闘裁判』でも用いられている。

本作で世界に注目された後にも次々と傑作を撮り続け、 “世界のクロサワ”となった巨匠はその後、第48回に当時のソ連製作の『デルス・ウザーラ』(75)で外国語映画賞を受賞、『どですかでん』(71/第44回)、『影武者』(80/第53回)も同賞候補になり『乱』(85/第58回)で監督賞候補、1990年の第62回には名誉賞を受賞している。

1954年の第27回には『地獄門』(衣笠貞之助監督)が名誉賞と衣装デザイン賞(和田三造)を受賞した。

1955年の第28回には『宮本武蔵』(稲垣浩監督)が名誉賞を受賞、その後も『ビルマの竪琴』(市川崑監督)や『砂の女』(勅使河原宏監督)、『智恵子抄』(中村登監督)、『サンダカン八番娼館 望郷』(熊井啓監督)、『泥の河』(小栗康平監督)などが外国語映画賞候補となり、2008年の第81回には本木雅弘主演の『おくりびと』(滝田洋二郎監督)が同賞を受賞した。

近年では真田広之主演の『たそがれ清兵衛』(山田洋次監督)、『万引き家族』(是枝裕和監督)がノミネートされている。

助演女優賞も! 女性の活躍、際立つ

俳優部門での受賞者は、1958年の第30回にマーロン・ブランド主演のアメリカ映画『サヨナラ』で助演女優賞に輝いたナンシー梅木のみ。アジア人俳優の初受賞という快挙であり、助演女優賞を英米以外の俳優が受賞したのもこれが初めてだった。
前年には、サイレント映画時代から国際的に活躍してきた早川雪洲が『戦場に架ける橋』で助演男優賞候補になり、その後は『砲艦サンパブロ』でマコ岩松が、2004年の第76回には『ラストサムライ』で渡辺謙がノミネートされた。
女優では2007年の第79回に『バベル』で菊地凛子が助演女優賞にノミネートされた。

日本映画で初めて監督賞候補になったのは第37回の『砂の女』の勅使河原宏監督だ。『乱』の黒澤明監督に続いて、『ドライブ・マイ・カー』の濱口竜介監督は3人目の監督賞候補となる。

衣装デザイン賞でも女性の才能が評価されている。

1986年の第59回には『乱』でワダエミ、1993年の第65回にはフランシス・フォード・コッポラ監督作『ドラキュラ』で石岡瑛子が受賞した。石岡は遺作となった『白雪姫と鏡の女王』で第85回アカデミー賞にもノミネートされた。

メイクアップ&ヘアスタイリング賞では、驚異的な技術で俳優を変貌させるカズ・ヒロが2018年の第90回に3度目のノミネートとなる『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』で初受賞し、米国市民権を得た後の第92回、『スキャンダル』で2度目の受賞を成し遂げた。

作曲賞の初受賞は坂本龍一だ。1988年の第60回で、俳優として出演もしている『ラストエンペラー』でデヴィッド・バーン、コン・スーと共に受賞した。受賞は叶わなかったが、アジア人として初めて作曲賞にノミネートされたのは1967年の第39回、ジョン・ヒューストン監督の『天地創造』に参加した黛敏郎だ。

アニメーションでは、世界中に熱烈なファンを持つスタジオジブリの『千と千尋の神隠し』(宮崎駿監督)が2003年の第75回に長編アニメーション賞を受賞した。その後も『ハウルの動く城』(2006)、『風立ちぬ』(2014)が候補となった。同部門では第87回では『かぐや姫の物語』(高畑勲監督)、第88回に『思い出のマーニー』(米林宏昌監督)、第91回に『未来のミライ』(細田守監督)がノミネートされている。

短編アニメーション映画部門では2009年の第81回で『つみきのいえ』(加藤久仁生監督)が邦画として初の受賞を果たした。同部門は2002年の第75回に『頭山』(山村浩二監督)、『SHORT PEACE』中の『九十九』(森田修平監督)が候補になった。第87回ではアメリカを拠点に活躍する堤大介が共同監督した『ダム・キーパー』、第90回では、同じくアメリカで活躍する桑畑かほるが夫のマックス・ポーターと監督したストップモーション・アニメの『Negative Space(原題)』が短編アニメーション映画賞にノミネートされた。

『羅生門』が受賞してから70年という記念の年に、『ドライブ・マイ・カー』は作品賞と脚色賞ノミネートという日本映画初の快挙を成し、国際長編映画賞と監督賞も含め、4部門でノミネートされている。

第94回アカデミー賞はいよいよ日本時間の3月28日、発表される。(文:冨永由紀/映画ライター)

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