伊坂幸太郎による“最強”原作『グラスホッパー』を映画化。音楽にも気合いが入りまくり!

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『グラスホッパー』
(C)2015「グラスホッパー」製作委員会
『グラスホッパー』
(C)2015「グラスホッパー」製作委員会

伊坂幸太郎の原作による“巻き込まれ型”エンタテインメント『グラスホッパー』が公開される。『フィッシュストーリー』や『重力ピエロ』、『ゴールデンスランバー』、『オー! ファーザー』など、これまで何度も映像化されてきた伊坂作品だが、『グラスホッパー』はその第11作目となる。

本作の映像化の試みも、実は今回が初めてではないという。複数のキャラクターの物語が重層的に絡みながら同時進行していく原作の展開を形にすることが困難で、これまで実現には至らなかったそうだ。今回、伊坂本人の提案から監督をつとめることになったのは、『脳男』や『犯人に告ぐ』で注目された瀧本智行。“キャラクターの魅力”と“ストーリーの疾走感”を二本柱に、結果として原作にある溌剌とした人物描写や独特のテンポ感がしっかり伝わってくる作品に仕上がっている。

主人公の元教師、鈴木を演じるのは生田斗真。ハロウィンの夜に起きたある事件で恋人を失い、その真相を突き止めるために裏社会に潜入する典型的な草食男を好演している。そのほか、自殺に見せかける専門の殺し屋“鯨”(浅野忠信)、天才的なナイフさばきを見せる若き殺し屋“蝉”(山田涼介/Hey! Say! JUMP)、押し屋の“槿”(吉岡秀隆)など、本作にはさまざまな殺し屋や裏社会の住人が登場するが、石橋蓮司が演じる裏社会のドン、寺原会長が表舞台に現れるのを皮切りに、すべての物ごとがとぐろを巻いて上昇を始め、クライマックスではド派手な打ち上げ花火でも見ているかのようなはじけっぷりを見せる。

音楽面での話題は、エンディングテーマをYUKIが担当していること。本作のために書き下ろされた新曲「tonight」は、原作を“男たちのハードボイルド物語”と解釈したYUKIが「すべては終わったんだよ、雨は上がったんだよ」と登場人物たちの肩を抱くような気持ちで作ったという。そのコメント通り、すべてを包み込むようなYUKIの歌声とスケールの大きなメロディは、この殺伐とした映画の世界に慈しみと癒しを注ぎ込む。

もうひとつ音楽的に聴き逃せないのが、ジョン・スペンサー・ブルース・エクスプロージョンの書き下ろし楽曲「don’t wanna live like the dead」の起用だ。山田涼介の演じる殺し屋“蝉”の雇い主、岩西(村上淳)が心酔する架空のミュージシャン、ジャック・クリスピンのレパートリーとして劇中に流れるこの曲は、いつもの彼らのようなブルージーな爆音サウンドとはひと味違い、ボブ・ディランあたりを連想するような思慮深さを持っている。架空のレコードジャケットまで作られ、物語の重要なワンシーンを彩るキー・トラックだ。

『フィッシュストーリー』や『ゴールデンスランバー』など、音楽と密接な関わりを持つ物語が少なくない伊坂作品にあって、本作の爆裂ぶりは群を抜いている。ジェットコースターのように目まぐるしく展開する物語と、それを引き立てる音楽が織りなす119分を、ぜひとも劇場で体感してほしい。(文:伊藤隆剛/ライター)

『グラスホッパー』は11月7日より全国公開される。

伊藤 隆剛(いとう りゅうごう)
ライター時々エディター。出版社、広告制作会社を経て、2013年よりフリー。ボブ・ディランの饒舌さ、モータウンの品質安定ぶり、ジョージ・ハリスンの趣味性、モーズ・アリソンの脱力加減、細野晴臣の来る者を拒まない寛容さ、大瀧詠一の大きな史観、ハーマンズ・ハーミッツの脳天気さ、アズテック・カメラの青さ、渋谷系の節操のなさ、スチャダラパーの“それってどうなの?”的視点を糧に、音楽/映画/オーディオビジュアル/ライフスタイル/書籍にまつわる記事を日々専門誌やウェブサイトに寄稿している。1973年生まれ。名古屋在住。

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