『トイレのピエタ』野田洋次郎インタビュー

カリスマミュージシャンが俳優業で得たものとは?

#野田洋次郎

監督に僕の人生のある一定の期間をお渡しするという感じでした

手塚治虫の病床日記に触発されて作られた映画『トイレのピエタ』で俳優に挑む、しかも主演で──。そんな大きな決断をしたロックバンド「RADWIMPS」のボーカル&ギターの野田洋次郎。彼が演じた宏は、画家への夢破れ、大好きなものに傷つけられ、しかも余命3ヵ月と宣告された青年だ。

「自分のようで自分じゃない、でも自分のようだった」と独特の表現で宏という存在を語った野田。そんな彼に、本作出演によって得たものや、音楽活動について聞いた。

──ミュージシャンである野田さんが俳優という表現方法にチャレンジしようと思った理由は?

野田:脚本が面白かったというのがありますね。ただそれだけが理由ではなく、心配性な僕を説得し続けてくれた(松永大司)監督がいた。「演技できませんよ」という僕に「大丈夫、演技しなくていい。洋次郎ならできる」と言い続けてくれた監督のおかげですね。

『トイレのピエタ』

──宏という役柄のどんな部分に共感を持ったのでしょうか?

野田:脚本を読んだ段階で、生き方や世界の眺め方、自分の美しさの守り方、不器用だけれど男らしかったりする部分……多くのことに共感しました。でも実際撮影をしてみたら、客観的に捉えることをしなくなり、宏そのものになっていったという感じでした。

──音楽活動と役者では表現の違いはありましたか?

野田:そこは明確に違います。映画は監督のもの。僕の中から何か新しいアイデアを持ち込むことはなく、監督が僕の中の何かを使いたい、僕の人生のある一定の期間をお渡しするという感じでした。だから僕は宏に集中すればよかったんです。

「自分のようで自分じゃない、でも自分だ」みたいな経験は初めて
『トイレのピエタ』

──劇中で流れる「ピクニック」という曲は、野田さんが撮影中に感じたものを書き留めたとお聞きしました。詩や曲を書くときの着想はこういうパターンなのですか?

野田:曲によって違うのですが、今回みたいなパターンは珍しいですね。感情がすごく高まって、それを逃したくないと思い、追われるように捕まえるように作ったんです。一気に書き上げました。何かを作ろうとするとき、理性的な部分も必要だと思うタイプなので、こういう形で曲を作るというのはめったにないですね。

──それだけ特別な経験をされたということですか?

野田:「自分のようで自分じゃない、でも自分だ」みたいな経験は初めてですね。でも間違いなく自分が抱いてしまった感情だったから、本能的に書きました。音楽を持っていてよかったなって……。これを残せるんだったら残したい、残さなきゃダメだって思ったんです。

──「音楽を持っている」野田さんだからこそ「ピクニック」という曲ができた。逆に作品に出たことによって音楽に還元されたことってありましたか?

野田:まだ実感はありませんが、宏の人生を生きたというのが大きかったですね。彼の作品が世界に出ないこと、彼のメッセージが受け取られないことってマイナスだと思う。でも音楽家であっても彫刻家であっても、物書きであっても、そういうことって世の中ではたくさんあるんだと思う。そういった後悔や無念を考えると、僕はいま表現できる立場にいられるので、宏の分まで自分を使い切りたいなって強く思えるようになったんです。

──宏を生きたことによって、今後の音楽活動で、自分が表現する意味を強く認識できたということですね。

野田:改めて自分は作りたい人なんだなって思いました。やらないと気が済まないんですよね。

『トイレのピエタ』

──本作には大竹しのぶさんが出演されています。野田さんは大竹さんのアルバム「歌心 恋心」の「チューリップのアップリケ」という曲でデュエットされたりしていますよね。

野田:4〜5年前からライブで来てくださって、ご飯とかも行ったりする関係だったんです。あまりかしこまっていうのもおこがましいので、「映画の話があるんです」ってサラッと言ったのですが、そうしたら「絶対出た方がいい、わたしも出たい!」って。すごく直感的でパワーのある方です。

──演じるという大竹さんのフィールドで共演されました。松永監督には表現者としてライバル意識があったとお話されていましたが、大竹さんにもそういう感情は芽生えましたか?

野田:ないです(笑)。尊敬の気持ちはすごくあるし、影響も受けているけれど、ライバル心的なものは全くないです。同じ表現をするということでも(俳優とミュージシャンは)まったく違うものだと思うんです。いつも色々なヒントをいただける方だけれど、違うフィールドで頑張っている2人という感覚でした。

生き辛さを覚えている人には、何かしらの救いになる映画
『トイレのピエタ』

──RADWIMPSのミュージックビデオを拝見していると、非常に作家性を強く感じますが、バンドとして映像へのこだわりは強いのですか?

野田:どうだろう。ただ仕事で会いましたという関係が好きではなく、なるべく多く話し合いを重ねて物を作り上げていくようにしています。映像にも必ず意味が出てしまうので、ただプロモーション的なものを作るのが嫌なんです。

──「五月の蠅」のオープニングは映画『シャイニング』へのオマージュを感じたのですが、野田さん自身、映画もお好きなんですか?

野田:あの作品を撮った柿本(ケンサク)くんも映画監督ですし、オマージュはあったと思います。僕自身も映画はよく見ますし、好きな作品はいっぱいあります。『3月のライオン』とかは3月になるといつも見ますし、最近では『アデル、ブルーは熱い色』も何度も見ています。

──映画を撮るという表現方法は?

野田:ないですね(笑)。役者もだいぶ遠いなと思いましたが、僕が考えるものじゃないからできた。いま僕の目の前にはやりたいことがいっぱいあって、早く世の中に残したいという思いが強いんです。その“残したいもの”が、音楽よりも映像にした方がいいと思えば考えるかもしれませんが、いまは音楽での表現しか考えていません。

野田洋次郎

──やりたい表現方法にソロ活動も入っていると思うのですが、バントとソロではチャンネルが違いますか?

野田:違います。ソロはオフみたいなもの。音楽を作り疲れると、僕は音楽で解消するんです。音楽は仕事にもなるし、遊びにもなるし、息抜きにもなる。音楽を色々に使い分けています。

──野田さんの渾身作がいよいよ公開を迎えますね。

野田:大好きなストーリー。出させていただいて幸せでした。どこまで物語が持つパワーに力を加えられたか分かりませんが、一生忘れられないような経験、気持ちに出会えたので、見てもらえる人には、その気持ちを共有してもらいたいです。この世界に対して生き辛さを覚えている人には、何かしらの救いになる映画だと思います。

(text&photo:磯部正和)

野田洋次郎
野田洋次郎
のだ・ようじろう

1985年7月5日生まれ。東京都出身。01年にロックバンド「RADWIMPS」を結成し、05年「25コ目の染色体」でメジャーデビュー。本作の挿入歌「ピクニック」を含め、シングル17枚、アルバム7枚をリリースしている。またillion(イリオン)名義でソロプロジェクトを行っており、ファーストアルバム「UBU」はイギリス、フランスをはじめ世界各国でリリースされている。

野田洋次郎
トイレのピエタ