1988年2月1日生まれ、埼玉県出身。2012年、映画『桐島、部活やめるってよ』で俳優デビューし、第36回日本アカデミー賞新人俳優賞等受賞。主な出演映画は『クローズ EXPLODE』(14)、『GONIN サーガ』(15)、『聖の青春』(16)、『寝ても覚めても』(18)、『菊とギロチン』(18)『コンフィデンスマンJP』シリーズ(19~22)、第77回ヴェネチア国際映画祭銀獅子賞受賞作『スパイの妻』(20)、『Blue』(21)、『草の響き』(21)など。『とべない風船』が広島先行公開に続き、2023年1月6日より全国順次公開予定。公開待機作は2023年3月公開『Winny』、2023年公開『福田村事件(仮)』など。
脚本を一読して「絶対にやります」と即答
函館市の映画館「シネマアイリス」の代表・菅原和博氏が、同市出身の佐藤泰志の小説を映画化する企画・プロデュースの5作目となる『草の響き』。自律神経失調症を患った佐藤が実体験をもとに綴った短編小説を『空の瞳とカタツムリ』(18)の斎藤久志監督が映像化した。
心を病み、妻と2人で故郷の函館に戻り、医師の勧めで運動療法としてランニングを始めた主人公・和雄を演じるのは東出昌大だ
妻や友人に見守られて走ることに没頭し、路上で出会った若者たちとの淡い交流を持ち、揺れながら平穏を見出しては、また心が揺らぐ。心をむき出しにするような繊細な演技を見せた東出もまた、揺らぎを隠そうとしない潔さがある。相手の言葉に耳を傾け、だが適当に調子を合わせたりはせず、正直に自分の思うことを伝える言葉を紡いでいく。
“演じる”という自分の技を通して、物事と真摯に向き合う彼に、作品について語ってもらった。
・[動画]東出昌大、3年ぶりの主演作で共演者に感じたこと/『草の響き』インタビュー
東出:一読したときに「絶対にやります」と、すぐにお返事しました。
原作では暴走族だったのが、スケートボードをする少年たちになったり、八王子が函館になったり、夫婦の関係についても、全てが映画的にいいバランスで再現されて、台本の中にあると思ったので、クランクインが非常に楽しみでした。
東出:ラストです。僕にはこのラストが、『草の響き』というタイトルと共に非常に素晴らしく映ったので、「ああ、このシーンやりたいな」と思いました。
東出:いえ、変わらないです。主演だからとか何番手とかいうことは関係なく。ただ、今作にはお芝居が初めてという子が青年部の3人中2人いて、彼らのリハーサルを東京でやっていたんです。監督から呼んでいただいて僕も参加して、その子たちにお芝居について聞かれたら、「こういうことなのかな、監督のおっしゃっていることは」と、言葉をちょっとかみ砕いて話したり。
そういう時間がクランクイン前にあったのと、監督が「今回、共犯関係になろう」とおっしゃって。僕の中で絶対として、映画は監督のもの、というのがあるんです。俳優部は材料だと思っているんですけれども、監督の「共犯になろう」という言葉は、演出も兼ねてだと解釈して、僕の方から、行き過ぎたことでも提示することもありました。でも、仕上がった作品を見て、ちゃんと監督のものになっていたと思います。
東出:そういうものなんでしょうか。とにかく去年は世の中的にも激動の年だったのかなと思います。暦を感じるようなものもほとんどなかった1年でしたし。確かに、舞台と『草の響き』は大きく違ったので、そういう意味でも、飛行機から飛行船に乗り換えるぐらいの違いがあったのかなと思います。
東出:あります。ありました。ネタバレになるので、詳しくは言えませんが、和雄や彰(スケートボードが得意な若者)はある決断をします。それすらも、もしかしたら、良くなりたいと思っていることの延長なのかなと、僕は思います。許されることなのかどうなのかは分からないんですけれども、みんな精一杯生きて、その中でパッと雲間から光が差し込むように、ふわっと晴れやかな気分になって。そういうことだったりするのかなと思ったときに、それを他人は諦めと言うかもしれないけれども、もしかしたら、それも決断の一つなのかなと思いながら、撮影に臨みました。
何が悪い、何が良いと一概に言い切れない、そういう人間の難しさだったりはかなさだったりというのが原作にも、台本にも書かれている『草の響き』の主題なのかなと思うので。それを監督と話し合って、大事にしながら撮っていたと思います。
東出:おっしゃることは非常に分かります。ただ、そういう安寧なところにいかないという断固たる決意が見える監督だったので。変に分かりやすくしない、共感してもらえるようにしないことに徹していたように思います。リアリティがあると、逆にみにくいものになってしまうのかもしれません。
映画を見た方に「最初怖かった」と言われたり、僕も初号で見たとき、すごい自分勝手な主人公だなと思ったりしました。ただ、精一杯生きている和雄と純子と他のみんなの、これが一つのリアルなのかなと思ったら、監督の撮りたかったものになっているだろうし。原作の佐藤泰志さんにちゃんと届くものになっているんじゃないかと思います。
東出:それはたぶん僕の分かりづらいこだわりというか(笑)。監督とお話ししながら、動作のタイミングのずらし方とか、酩酊のし具合とか、所作のリアルっぽさを考えながらやっているのかな。でも、自分で言うのも恥ずかしいなと思います。
監督はそういう細かいところ、お芝居っぽくないことが大好きな方です。(少し考えて)お芝居っぽくないって、非常に矛盾したことを言ってますね。どっちにしろお芝居のはずなんですけれども(笑)。いろいろ試させてもらったと思います。
東出:「信じてくれ」と思いながら、まず話します。彼らが監督に言われたことで、いっぱいいっぱいになっているときは「大丈夫、僕の目を見て」と言って。そうすると、やっぱり心が通い合うので。
「監督の今おっしゃっていたこと、分かる?」と、分解して話すと絶対分かってくれます。全部やり取りをして一緒に組み立てていきました。
僕らの方が、ちょっとキャリアがあるからって、それがいいかと言ったら、絶対そんなことなくて。初々しさだったり、頑張っているところに僕らも力をもらって、乗っかれたりするんです。本当に若い3人がこの映画の中でキラキラしていて、素晴らしくて。すてきだなと、映画を見終わった後に思いました。
東出:いや、あれは1度カットがかかった後に、監督はもうちょっと何かあるかもしれないと思ったらしくて、もう1回やることになったんです。その「もう1回やっていい?」と僕を見ながらの監督の表情に、「お前頼んだぞ」みたいな無言の演出があって。相手の心の琴線に触れて、心のひだをもうちょっと伸ばして、何かを引き出せるものがあればいいかなと思って。聞くでもなく、何でもなくみたいな、そういう空気が2人の中に流れて、弘斗のすごくすてきなセリフを聞いたときに、ああ、ここだなと思って。あれはたぶん監督の下心を受けた僕の動きだと思います。
東出:お芝居って難しくて……。演出といえば演出だし、下心といえば下心だし、突然生まれたものって言ったら突然生まれたものだし。恥ずかしいから、「演出です」とか言うけど。でも、あのときには弘斗がよかったから、触りたくなったんだと思います。それぐらい弘斗がよかったんだと思います。
まだ悩みの中にいます
東出:素晴らしかったです。(奈緒さんは)どうやらクランクイン以前に函館に来て、下見をいろいろなさって準備していらしたみたいで。
劇中で2人一緒に登場するのが最後になるシーンでは、台本には和雄の心の動きが書かれていました。監督の指示に従って台本通りにやって、パッと純子のほうを見たら……、阿修羅でもないし、金剛力士でもないし、千手観音のような弥勒菩薩のようなお顔をなさっていて。そのときにもう、ぐっと息をのんじゃって。あれはすごかったです。
東出:一種の神々しさみたいな。もうすごすぎて、全然想像がつかないですね。
東出:彼が出演した『37セカンズ』を見て、菅原さんも監督も「大東くんが好きだ」とおっしゃっていて。やっぱり大東くんご自身の持っている包容力だったり、大きさというのが撮影中も、僕の悩みだったり、奈緒さんや若い子たちの悩みを包んでくれていました。大東くんと奈緒さんの包容力や思いで、作品は出来上がっていると思います。
東出:『きみの鳥はうたえる』(佐藤泰志の原作を三宅唱が映画化)を見たときから、なんて西日が柔らかいんだろうと思ったんです。函館は以前仕事で行ったことがありましたが、これだけ長期で滞在して、なんて映画の画がきれいな街なんだろうと。それはびっくりしました。東京の西日の柔らかさとは違って、一種の静謐さもあり、哀愁もある。そういう街でした。
東出:あの行動一つだけ取ると、とんでもないことかもしれません。ただ、その人の人生というものを知らずに、パッと見たものだけで僕らが判断して「えっ?」と思うようなことでも、僕は肯定したいと思いました。和雄という人間を。
撮り終わった後に監督が「今、こういう顔していたね」と僕に言って、「そうでした?」と答えたら、監督がすごいうれしそうに「うん、こういうことだったんだと思う」とおっしゃって。ネタバレにならないように注意しながら喋っていたら、何のこっちゃ分かんないんですけれども(笑)。
東出:僕は結局、ああいうことを肯定する映画なのかなと思いました。
東出:ないんですよね。自然の中に行く。山に登るとか、川を眺めに行くとか、そういうことです。
東出:いや、人がいることで救われることもあるし。1人にならないといけないんだろうなという瞬間もあるし。まだ、あらゆることが模索中です。
東出:まだ悩みの中にいます。僕の好きな先輩方のお話を伺っていると、リアリティとは何だろうって考えます。リアルっぽいのが見やすくて、娯楽的で面白いのかというと、リアルっぽいが故にきつい、というのももちろんあるし。それだけを追い求めていても映画にならないんだろうか、リアルって何だろうか、とか。常に悩みの中にいます。
東出:いえ、ないです。
東出:はい。「こういうふうにやっていきたい」はなく、いただけるお仕事一個一個に感謝しながらやっていきたい、それだけです。
東出:悩みの中にいるということと意味を同じくしてしまうんですけれども。自己表現がもともとしたいのか、そうでもないのか。承認欲求が強いのか、そうでもないのか、すら、自身で分かりきってなくて。こういう作品でお芝居するのは、つらいときはつらい。それが楽しいかと言ったら、そうでもないというか。
僕自身も何か文章を書くとか写真を撮るとか、表現したい欲求が高まってマグマのように噴出したら、そういうことはするかもしれないんですけれども。自分自身がこれを表現したいというのが、あるようなないような。まだマグマのように下でグツグツしている感じなのかなと思います。とにかく、芝居は難しいなといつも思います。
東出:たぶん。尊敬できる方々がすぐ周りにいるので、そういう方々とご一緒できるのが一番の好きな理由だと思います。
(text:冨永由紀/photo:谷岡康則)
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