坂本龍一の映画音楽とソロ作品に通じるミニマルで響きを重んじた音づくり

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坂本龍一
坂本龍一

『レヴェナント:蘇えりし者』の秀逸な音楽はアカデミー賞の選考外に

【日本の映画音楽家】坂本龍一(3)
近年、坂本龍一が手がけた映画音楽としてとりわけ印象深い作品といえば、やはりアレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ監督『レヴェナント:蘇えりし者』(2015年/日本公開は2016年)ということになるだろう。2014年夏に中咽頭がんを罹患したことを公表。1年近くにおよぶ療養を終えた翌年8月の復帰後、初めて世に出た作品は2015年末に公開された山田洋次監督『母と暮せば』の音楽だったが、実際には『母と暮せば』とこの『レヴェナント』の制作時期はかなり被っており、坂本にとっても2本の映画音楽を同時進行で制作するのは初めての経験だったという。

・【日本の映画音楽家】坂本龍一(2)/坂本龍一の映画音楽はメロディ志向から映像に寄り添うサウンド志向へ

西部開拓時代のアメリカで、仲間の裏切りやクマの襲撃によって瀕死の重傷を負いながらも復讐のために蘇った実在のハンター、ヒュー・グラスを主人公とした本作は、レオナルド・ディカプリオ悲願のアカデミー賞主演男優賞のほか、監督賞、撮影賞のトリプル受賞を達成。音楽については、坂本とそのコラボレーターであるアルヴァ・ノト、ブライス・デスナーの分担が曖昧で、誰がどの部分を担当しているかの明確な判断がつかないという理由で選考の対象外になっている。しかし、極端にセリフの少ない本作においてサウンドトラックの果たす役割は大きく、映像の静寂感を音楽でいっそう引き立てている。

音楽というより“音”、極寒の荒野の壮大さを表現したテーマ曲

先の記事(【日本の映画音楽家】坂本龍一2)でも触れたように、坂本龍一の映画音楽はメロディ志向のものとサウンド志向のものに大きく分けることができるが、本作の音楽は明らかに後者。実際、イニャリトゥ監督から坂本へのオファーも「“音楽”ではなくて“サウンド”がほしい」といった趣旨のものだったらしく、坂本もあるインタビューの中で「音楽と効果音の境目が分からなくなるのを狙った」とコメントしている。

大島渚監督『戦場のメリークリスマス』(1983年)、ベルナルド・ベルトルッチ監督『ラストエンペラー』(1988年)、『シェルタリング・スカイ』(1991年)、フランソワ・ジラール監督『シルク』(2008年)といった作品で聴かれる印象的なメロディは影を潜め、音楽というよりは単に“音”と呼んだ方がしっくりくるような、まさにサウンドを重視した楽曲が中心となっている。

テーマ曲は最小限の弦楽音がたっぷりとした沈黙を間に挟みながら鳴らされ、アメリカ北西部の極寒の荒野をいっそう人間の手に負えない大きな存在に感じさせる。『戦メリ』のテーマ曲「Merry Christmas Mr.Lawrence」のような美しく記憶に残りやすいメロディを期待すると肩透かしを食うかもしれないが、たとえば2009年の『out of noise』や2017年の『async』など近年の坂本のソロ作品を熱心にフォローしているファンなら、そのミニマルで響きを重んじた音づくりに共通するものを感じるに違いない。

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その後も、佐古忠彦監督『米軍が最も恐れた男 その名は、カメジロー』(2017年)のテーマ音楽、ファン・ドンヒョク監督『天命の城』(2018年)、静野孔文監督『さよなら、ティラノ』(2019年)など、ハイペースで様々な作品に関わっている坂本龍一。そろそろ『async』以来のソロ作品やYellow Magic Orchestraとしての活動にも期待したいところだ。(文:伊藤隆剛/音楽&映画ライター)