【週末シネマ】女性の抑圧と解放を、過激かつ繊細に描いた園監督の最高傑作!

『恋の罪』
(C) 2011「恋の罪」製作委員会
『恋の罪』
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『恋の罪』
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『恋の罪』
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90年代に渋谷区円山町のラブホテル街で起きた、あの有名な女性殺人事件を題材にした『恋の罪』。水野美紀、冨樫真、神楽坂恵の主演女優3人がヌードを辞さない体当たり演技と、スキャンダラスな売り文句でも話題になっている。監督は『愛のむきだし』や『冷たい熱帯魚』の園子温ということで、“過激でグロテスク”なイメージが先行していたが、実際に映画を見ると、計算し尽くされた緻密な構成と繊細な描写の数々に驚く。これだけの表現の幅広さを見せる本作は、園監督の最高傑作ではないだろうか。

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では、具体的にどこが緻密で繊細なのか。まずは冒頭の、神楽坂演じる貞淑なセレブ妻・いずみが、夫の帰宅を待つシーン。いずみがお茶を用意して、玄関のスリッパを整えるというだけの内容だが、本作のテーマである“女性の抑圧”が十分に伝わる秀逸な描き方をしている。

まず、目を引くのがスリッパの執拗なまでの整え具合。腕時計を見ながら時間いっぱいまで、ミリ単位で微調整する。これだけでも夫のプレッシャーが十分伝わってくるが、部屋に鳴り響く振り子時計の音、ティーポットに湯を注いだ後にひっくり返した砂時計と、この短いシーンのなかにさり気なく3つも時計を登場させて“抑圧”を表現しているのも見逃せない。そして、帰宅した夫が笑顔で言い放つ「うん、いい位置だ」というセリフによる緩和。このメリハリが後のシーンの緊張感をグッと増し、“抑圧”がより強調される。

やがて日々の“抑圧”に耐えられなくなってきたいずみは、“解放”を求めるようになる。途中の夫との会話のなかで、性的な営みがほぼ無いことを示唆する内容もあったため、やはり“解放”は園監督が得意とする生々しい性描写で描かれるのだろうと予想したが、それは大きく裏切られた。

スーパーで試食販売のアルバイトを始めたいずみは、バイト中にモデル事務所のスカウトマンに声を掛けられグラビア撮影に臨むが、スタッフに乗せられるうちにAV出演してしまう。しかし、そこでのセックス描写は実にあっさりとしたものだ。さらに、撮影後に男優にナンパされ寝てしまうのだが、その件(くだり)については、セックス描写すら無い。

では、どこで描かれるのか? それは、帰宅後、ひとり鏡の前で佇むシーンとなる。「いらっしゃいませ、いかがですか、おいしいですよ!」いずみは、試食販売の掛け声を練習している。しかし、可笑しなことに、その姿は一糸纏わぬ裸体だ。撮影で覚えたグラビアのポーズをいろいろ試しながら、「いかがですか、おいしいですよ!」と連呼している。その光景の異様さに、初めは唖然としていたが、その声はだんだんと輝きを増していき、表情も明るく溌剌に、ポーズもどんどん色めきだっていくと、まるで、つぼみが徐々に花びらを開いていく生命の神秘的な映像を見ているかのような感覚に陥った。人間の根源的な部分に強く訴えかけてくるような名シーンだった。

こうして“解放”の扉を開けたいずみは、さらなる刺激を求めるうち、冨樫演じる美津子に出会う。美津子は一流大学で助教授をつとめるエリートでありながら、夜になると売春婦へと変貌する女性だ。奔放に性に興じる美津子は、もちろん“解放”済みで、先導者としていずみを深い世界へと誘(いざな)っていく。

ここから、園監督の真骨頂であるドロドロとした性描写と、容赦ないバイオレンス表現で怒涛の展開を見せていく。序盤で緻密に構築したものは、音を立てて崩れ去り、地獄と化していくのだ……。

人間の真理をエグる過激な描写と共に、繊細な仕掛けの数々で我々を楽しませてくれる園監督は真のエンターテイナーだ。こんな印象的なエピソードもある。彼は神楽坂との婚約発表後に初めて公の場に現れたとき、ジョークまじりにこう言って報道陣を沸かせたのだ。「私の“恋の罪”でお騒がせしてすみませんでした」。最高傑作が封切られた今、今度は映画『恋の罪』が世間をお騒がせすることを願ってやまない。

『恋の罪』は2011年11月12日よりテアトル新宿ほかてに全国公開中。(文:堀切基和/編集部)

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『恋の罪』作品紹介
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