仕事に対しては真摯、女に対してはだらしない元美青年。今や無敵の俳優になったジュード・ロウ

#あの人は今

『ブラック・シー』
(C)2014 Focus Features LLC. All Rights Reserved.
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正確に言えば、あの人は今というほど消息が知れない俳優ではない。映画に舞台に現在も活躍中で、私生活でもしばしばゴシップ情報を提供しているジュード・ロウの場合は、「あのイケメン俳優は今」という感じだ。

[動画]『ブラック・シー』予告編

金髪に端正な美貌、オレ様なSっぽい雰囲気も漂わせて90年代半ばに登場した20代のジュードは本当に美しかった。イギリス出身で、10代から演技の道に進んだ彼は二枚目だが、最初から王子様キャラではなく、容姿に恵まれながらも屈折した心理を抱えた青年を演じると右に出る者はいないハマりよう。美しく生まれたからこそ味わう苦悩や虚無をこの上ない説得力で演じてきた。

そんな彼も42歳になり、最新主演作『ブラック・シー』では、長年勤めた会社から解雇を言い渡される中年男を演じている。海軍出身で海洋サルベージの専門家の主人公・ロビンソンはかつての仕事仲間から、第二次世界大戦中に黒海の深海に金塊を積んだまま沈没したドイツ軍のUボート捜索と引き揚げ話を持ちかけられ、旧式のロシア潜水艦を入手し、仲間を集める。金塊というエサに食いついたイギリス人とロシア人の寄せ集めのメンバーにチーム意識はなく、言葉の壁もあり、エゴと欲にかられた衝突が絶えない。そんな緊迫した状況の中、彼らは海上のロシア軍の探知をかいくぐりながら、Uボートの沈む海域へと向かう。

潜水艦に乗り込む男たちの大半は確かな仕事の腕を持ちながら、報われることなく生きてきた。艦長となったロビンソンもそんな辛酸をなめた、典型的な労働者階級の男だ。『ラストキング・オブ・スコットランド』『消されたヘッドライン』のケヴィン・マクドナルド監督は「ジュード・ロウの名前を聞いて、頭に浮かぶイメージの正反対だ」と言う。確かに、以前のジュードは『ガタカ』や『リプリー』などで、いわば『ブラック・シー』の乗組員たちを搾取するような立場の選ばれし者を演じる側だった。

だが、美男俳優ともてはやされていた頃も、出演作を見るたびに目が行ったのは、美貌に似合わない武骨な手だった。指が太く、グローブのような、働く男の手を彼は持っていた。そして40代を迎えた今、それなりの年輪を感じさせる容姿になり、彼はタフな大人の男も似合う俳優になっていた。潜水艦という密室の心理劇、次々と迫る危機と闘うスリラーとしても見応えある『ブラック・シー』は、ジュードの新境地開拓の1作と言えるだろう。

それにしても、自分の美しさを自覚し、演技力のトッピングとして最大限に利用して成功を収めてきたしたたかさには感じ入る。人気絶頂期に『A.I.』で演じたジゴロ・ジョー、稀代のプレイボーイを演じた『アルフィー』などからも、自分のイメージを客観的に判断し、時には茶化しながら出演作に活かす賢さがうかがえる。そして、ここ数年の活躍を見ていると、“若いイケメン”というレッテルの下に隠されていた、演技派という真の姿が浮かんできた。『アンナ・カレーニナ』のカレーニン、『グランド・ブダペスト・ホテル』の作家などインテリ役も似合うし、助演に回ったときの仕事ぶりは堅実だ。

私生活では、女性にだらしないニュースばかり。共演したシエナ・ミラーと恋に落ちて3児をもうけた妻と離婚、子どもたちのナニーと浮気をしてシエナと破局、その後も一夜限りの相手との間に子どもが生まれ、誰かと交際の噂が流れると、二股が発覚し……というような感じ。SNSが発達した今は、旅先のバーで酔っ払って、ちょっときれいな女性をナンパしている一部始終を撮られて公開されたり、何とも脇が甘い。そんな彼が現在演じているのが、やがてローマ教皇になるアメリカ人聖職者というのも面白い(『グレート・ビューティー/追憶のローマ』のパオロ・ソレンティーノ監督が手がけるテレビシリーズ『The Young Pope(原題)』)。

仕事に対しては真摯だが、それ以外は一般常識が通用しない型破り。本能のままに行動し、逃げも隠れもしない潔さは傍観者の立場からすると興味深い。オヤジになっても、女にだらしなくても、ありのまま。公私ともに格好をつけなくなったジュードは、ある意味無敵の俳優になったと言えそうだ。(文:冨永由紀/映画ライター)

『ブラック・シー』は8月15日より公開。

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