1980年12月13日生まれ、福岡県出身。ドラマ『すばらしい日々』(98年)で俳優デビューし、『ウォーターボーイズ』(01年)で映画初主演。同作で日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。第77回キネマ旬報ベスト・テン最優秀主演男優賞受賞の『ジョゼと虎と魚たち』(03年)をはじめ、多くの映画、ドラマで活躍。『悪人』(10年)で第34回日本アカデミー賞最優秀主演男優賞、第53回ブルーリボン賞主演男優賞を受賞。ドラマは『ブラックジャックによろしく』(03年)で初主演、『オレンジデイズ』(04年)、『スローダンス』(05年)、NHK大河ドラマ『天地人』(09年)などに出演。近年の主な映画出演作は『黒衣の刺客』(15年)、『怒り』(16年)、『来る』(18年)、『唐人街探案2』(18年/未)、『パラダイス・ネクスト』(19年)、『決算!忠臣蔵』(19年)、『Red』(20年)、『浅田家!』(20年)など。8月13日にも主演ドラマ『しかたなかったと言うてはいかんのです』が放送予定。
『唐人街探偵 東京MISSION』妻夫木聡インタビュー
ド派手衣装でゴーカートに乗って信号待ち、通行人の視線がツラかった!?
監督とスタッフの熱量がすごかった
今年2月の中国旧正月に公開され、初日の興行収入(約10億1000万元/約164億円)が全世界のオープニング週末興行収入1位の新記録を樹立した『唐人街探偵 東京MISSION』。世界各地のチャイナタウンで事件を解決する中国の探偵コンビの活躍をコミカルに描くシリーズ第3弾の舞台は東京。
妻夫木聡は、主人公の探偵コンビを迎える日本の探偵、野田昊を演じている。
日本人と中国人の両親を持ち、裕福で有能、ド派手な出立ちがトレードマークの野田をどう演じたか、中国映画の撮影現場についてなど、語ってもらった。
・興収164億円! 妻夫木聡、長澤まさみがアジアンスターと大活躍の規格外アクション大作
妻夫木:前作のニューヨーク編のオファーをいただいたとき、すでにこの3作目は決まっていて、東京編にするつもりなので「主にそちらに出ていただきたい」と。その流れを作るために、ニューヨーク編にも少しだけ出てほしいと言われたのが最初です。もう4年前ぐらいです。
中国語の作品は侯孝賢監督の『黒衣の刺客』には出たことがありますが、30歳を超えてから、アジアの作品に出ることが自分の中でも目標のひとつというか、アジアの作品に関わりたいとずっと考えていました。そのタイミングで「映画というものでアジアを1つにしたい」という監督の思いもすごく胸に響いて、出演することに決めました。
妻夫木:ハリウッドにも、いろんなヨーロッパの作品にも、憧れは当然自分の中にもあります。でも、アジアって一番近くて遠い存在だったような気がするんです。それが、いざ一緒に仕事をすると、同じ思いの中ですごく簡単に1つになれるんです。映画という世界では。それは韓国との合作の映画(『ノーボーイズ,ノークライ』)をやったときにすごく感じたし、いまだにその人たちは親友だと僕は思っているし。
アジアって近くて遠いけれども、近寄ってみると、誰よりも絆が深くなるものだろうと僕自身思ってるんです。近い国同士でお互い刺激し合いながら、歴史を築いてきていると思う。そういう意味でも、これから映画の世界の中でアジアというものが、また違う歴史を作っていけるんじゃないか、そんな思いが率直にありました。
妻夫木:今回は日本の俳優が当然たくさん出るだろうな、といろいろ想像してたんですが、豪華な方たちが集まって、びっくりしました。(長澤)まさみも、(三浦)友和さんも。浅野(忠信)さんや染谷(将太)君がこういう役で出るなんて思ってもみなかったし。監督たちも、アジアや世界の映画で活躍されてる方を選ぼうと考えていたと思うんです。そして日本の俳優たちも、アジアが今どういう感じなのか知りたかったんでしょうね。ほんと良かったです、皆さん集まってくださって、すごく心強かったです。
妻夫木:最初にニューヨーク編の脚本を読んだときも、これ、ほんとにできるのかな?という勢いがあったんです。その勢いのまま、交渉に交渉を重ねて、ニューヨークでも一番撮影が難しいと言われるところでも撮影している。今回も「どうにか渋谷で撮れないか?」と無理を言い出して。どうやっても無理、となったら、「じゃ、もう作っちゃえ」と足利にセットを作って。
ほとんど1シーンぐらいのためだけに、セットを作る。お金よりも情熱のほうが先に行ってるんですよ。そういう意味では、お金が潤沢にあるのは素晴らしいことだとは思うんです。本当に情熱のまま、作っている。ちゃんとビジネスも考えているとは思うんですけれど、それ以前に、監督はやりたいことをやる。この熱量がすごかったです。
妻夫木:そうですね。安心できるというか。監督がやりたいことをやれるのが、一番なので。本当に作りたいように作る、お金もあってスケジュールもあって。そこは少しうらやましくも感じるところではありました。
妻夫木:劇中では翻訳機を使っている設定ですが、演じるとなるとタイミングが非常に難しいです。
相手のセリフは、音で大体は覚えているんですが、アドリブを出される方が多くて。セリフ尻を覚えても、全然違う言葉で終わったりする。難しかったですけど、コミカルで発散型の映画なので、何となく空気で伝わってくるんです。
2が終わった時点から中国語の勉強はしていましたが、台本を見たら、自分が想定してたよりも中国語のセリフが少なかったので、監督に「ここは中国語に変えていいですか」と言いました。ハーフでトリリンガルという設定だし、主役の2人に寄り添ったほうがいいなと思って。
妻夫木:はい。話し言葉は早いので、聞き取るまでは難しかったですが、少しでも知ってるのと知らないのでは、全然違うし、相手に対する敬意を持ちながらやっていました。中国映画にお邪魔している感覚もあったので、僕としての誠意を示したかった。日本代表の1人として、中国のホームで「何となく仕事しに来ているんじゃないですよ」と、ちゃんと見せたかったというのもあります。
妻夫木:すごかったですね(笑)。
妻夫木:着こなしてるかどうかは、僕には正直判断が付かないんですけど、もうスタンバイ場所から現場に行くのが、ほんと一番つらかったです、今回(笑)。芝居しちゃえば忘れるんですけど。待っている時間が結構しんどかった(笑)。ゴーカートのシーンを表参道で撮影していて、カットがかかると、元の位置に自分で戻るんですが、あの格好でゴーカートに乗って、信号待ちしているときに「あれ妻夫木だな」と通行人に見られてるのが一番きつかったですね(笑)。
妻夫木:いや、もう全然、無にしてました(笑)。「僕は野田昊だ」と。何も考えないようにしてました。
あの衣装は全部、中国のスタイリストの方の手作りなんです。『2』のときはあまり時間がなかったので、日本でいいものがあれば持ってきてほしいと言われて、僕が仲良くさせてもらってるスタイリストさんにお願いして、衣装はこっちで用意したんです。それが中国側としては心残りなものがあったんでしょうね。今回は思い入れが深かった。めちゃくちゃ刺しゅうの凝った衣装で、全然腕が上がらない(笑)。その思いを胸に、堂々と芝居をしてました。
根は貧乏性、役作りのために贅沢してみました
妻夫木:基本的には、キザな男なんですけれども。ヒール(悪役)に見えて意外と優しい人なんですよね。孤独じゃない。でも一匹狼感みたいなところもありつつ、優しさもある、そういう憎めないところはいいなと思います。
そういう意味では、めりはりの利いた芝居が求められる楽しみもあって、撮影はすごく楽しかったです。『2』では「とにかく、クールにやってくれ」と言われて。あんまり僕、格好つけた芝居をやる役をやったことがあんまりなかったので、思い切り、格好つけた芝居を意識してました。
妻夫木:僕、すごく貧乏性なんです。なので贅沢しましたね(笑)。普段とは、逆に高いものを食べたりだとか、けちけちしないことを常に意識してたのかな。自分があんまり行かないような場所……たとえば六本木に行ってみるとか。ちょっとしたことなんですけど、そういうことが当たり前の感覚になれば、やってることも着てるものも、全て自分のものになれるのかな、と。
妻夫木:そうですね。でも、野田さんの普段の生活を実際にやるとなったら、たぶん僕、破産すると思うんで(笑)。当たり前にヘリコプターに乗るような人間なんで。そこまではできない。日頃の生活水準のレベルを、ちょっと上げてみたっていう感じでしたかね。
妻夫木:その期間だけは、そういう意識がなく当たり前にできるようにしました(笑)。
妻夫木:中国の撮影が全部そうなのかは分からないですけど、基本的にテストがないんです。段取り自体も軽くやって……ないな(笑)。ほとんど動きは代役の方々がやられて、どういうカットを撮るか決まってから、僕たちが最後に呼ばれて、説明を受けて、いきなり本番です。
テストでいいものができちゃった場合を考えて、とりあえず素材をいっぱい撮るという考え方なんですかね。デジタルだからできることかもしれない。日本はやっぱり本番にかける思いというか。本番は基本的に1回しかやらないという、フィルム撮影文化の流れが映画にはある。だからテストが多いんです。その違いに慣れるのが結構大変ではありました。
あとは、やっぱり規模が違います。ほんの少しだけハリウッド作品にも出演させてもらったことがありますが、今回の現場はハリウッドの感覚に近いかもしれない。モーターホームがみんなあって、食事は絶対ケータリングで、時間も決まっていて。1日の撮影時間もある程度決まっているとか、そういうシステムはハリウッドと似ている気がします。
特にこの作品は中国映画の中でも一番お金が潤沢にある制作チームだったと思うので、日本では見たことがない機材や、アクションチームの人数の多さにもすごく驚かされました。体当たりなスタントが多いけど、けがすることを恐れないんです。1人ケガすると、どんどん新しい人を入れていく。危ないことも危ないと思わずに。それだけの信頼関係があるし、チームで練習してるんでしょうね。何十人何百人といる中の選りすぐりを連れてきたのかもしれないけど、本当にすごかった。日本のスタントマンの方たちも頑張っていました。名古屋で撮った空港のシーンで、いっぱい日本からも参加してましたけど、「絶対に負けない」みたいな感じでお互いを高めあっていましたね。
妻夫木:僕自身は、普段絶対自分ができないことを映画の中でやってます。だから、すごく楽しめました。意外と「知ってるけどやったことない」というものが日本人は多いのかな、と思います。ゴーカートだって、原宿とか渋谷を走っているのは大体が外国人の方で。やってみたいと思うけど、やらないじゃないですか。でも、やってみたら、すごく楽しい。コスプレも、秋葉原のショップで撮影をしたんですけど、びっくりするぐらいいろんな衣装がある。僕がコスプレした『聖闘士星矢』の衣装はスタイリストの伊賀大介さんにわざわざ作ってもらってるんです。面白がって作ってくれる人をよく連れてきたなと思って。あの1回きりのために。
いろいろなものを実際、肌で感じてみて、日本って面白いなと思いました。僕だけじゃなく、日本古来のものにも意外と触れてないことが多いんじゃないかな。だからもうちょっと日本人自体も、日本を知ったほうがいいのかなと思います。
妻夫木:どんどん肩の荷が下りてるような感じはあるんです。20代はとにかく、早く一人前になりたい、大人になりたくて。プロフェッショナルとは何だろう、俳優とは何だろうということばっかり考えていた気がするけど、30代はそういうことを1回忘れて、仕事を始めたときのように、純粋に芝居を楽しむことに意識がいってたんです。今現在、何を目指すとかそういうことじゃなく、常に何者でもあってもいいのかなって。役者だからこれをやっちゃいけない、監督だから役者やっちゃいけないとか、そういうことも、特になくてもいいんじゃないかなっていうことに考えが至ってるのかな。
この先、いつか監督やってもいいと思うし、プロデューサーをやってもいいと思うし。日本はどうしてもルールに縛られることが多い気がするんです。もっともっと自由であっていいのかな、と。本来、作品を作る目的って、作りたいという情熱や思いから作るものじゃないですか。そういう思いが先行して作っていってもいいんじゃないかなと思っています。
(text:冨永由紀/photo:小川拓洋)
(ヘアメイク:勇見勝彦〈THYMON Inc.〉/スタイリスト:TAKAFUMI KAWASAKI〈MILD〉)
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