『世宗大王 星を追う者たち』ホ・ジノ監督インタビュー

『シュリ』から20年振りの豪華共演再び! 名匠が語る思いとは?

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ホ・ジノ

主演二人のどちらかに断られないか心配だった

『世宗大王 星を追う者たち』
2020年9月4日より全国順次公開中
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2000年に公開され、日本でも大きな話題となった韓国映画の傑作『シュリ』。あれから20年の時を経て、韓国が誇る名優のハン・ソッキュとチェ・ミンシクが最新作『世宗大王 星を追う者たち』で再び共演を果たすこととなった。二人は、時代を変えようとした朝鮮王朝第4代王・世宗(セジョン)とその王に人生を捧げた天才科学者のチャン・ヨンシルをそれぞれ演じている。

身分の差を超えて特別な絆を築いていく二人の姿を見事に演出したのは、『八月のクリスマス』や『四月の雪』で知られる名匠ホ・ジノ監督。そこで、豪華共演が実現した裏側や作品が完成するまでの苦悩について語ってもらった。

──監督にとって長年交友があるというハン・ソッキュさんとチェ・ミンシクさんのお二人が、本作で実に20年振りの共演となりました。キャスティングについてお聞かせください。

監督:世宗とチャン・ヨンシルの関係をどう描こうかと考えていた時、ふとハン・ソッキュさんとチェ・ミンシクさんの二人が頭に浮かびました。どちらがどちらの役を演じるかは別として、私の希望はこの二人の共演でした。なので、どちらか片方から断わられてしまったらどうしよう、と心配でしたね。そのあと配役を決めずに二人にシナリオを渡し、二人にどちらの役を演じたいか選んでもらうようオファーしました。おそらく「先輩が先に選んでください」というふうに二人で議論したことでしょう。これも製作陣の作戦でした。

──豪華なW主演が決まった時のお気持ちはいかがでしたか?

監督:ハン・ソッキュさんとはだいぶ前に一緒に映画を撮ったことがありましたが、チェ・ミンシクさんとは今回が初めて。この二人の俳優をひとつの映画の中で見ることができるということ自体にとてもときめきました。しかも、この二人は長年交流を続けていて、兄弟のような間柄だったので、そのこともとてもうれしかったです。

──印象的だったのは、身分差がある世宗とチャン・ヨンシルがお互いを大切に思い合っている姿。映画では世宗とチャン・ヨンシルの関係を想像力豊かに描いていますね。

監督:もちろん、想像力だけで映画を作ってはいけないので、ちゃんとした資料を分析して推測が可能なものを映画として展開したいと思いました。この程度までは想像として描いて良いのではないのかと。実際『ラスト・プリンセス 大韓帝国最後の皇女』の時にも同じようなことがありましたが、決して楽しいプロセスではありませんでした。
映画というのは現場で生まれるダイナミズムが重要であって、現場に合わせて変化させていくのが楽しみでもあるのですが、時代劇となるとそれが難しくなります。自由が奪われるというか。一方で、時間の成せる業なのか、歴史の力なのかは分かりませんが、時代劇特有の魅力があるのも事実です。

──そのなかでもこだわったのは、どのあたりでしょうか?

監督:今回、一番想像力を働かせたのは、輿が壊れる事故を果たして誰が起こしたのかという部分です。記録では世宗という人物は、自分に脅威を与える人物でも必要と思えば登用していたそうですが、だとすると、チャン・ヨンシルに対する処罰は史実には合わないものでした。
数々の天体観測機器などをチャン・ヨンシルが作った際、世宗は非常に喜んでいたようで、内官だけが入れる場所にまで彼を呼んでいたこともあったそうです。なのになぜ事件後に彼を失脚させたのか……?まるでミステリーのようでした。

──ほかにも、世宗の部屋で人工的な星空を作り出すシーンはホ・ジノ監督らしい、光を生かした美しい場面でしたが、撮影もかなり難しかったのではないでしょうか? そのシーンに込めた思いを教えてください。

監督:あのシーンでは、世宗とチャン・ヨンシルの二人がより距離を縮めていくようなシーンを作りたいと思いました。王が望めば星すらも取りに行ってしまうチャン・ヨンシルの忠誠心と王の望みを叶えようとする彼の天才的な面を描いていますが、世宗が星を見たいといえば、それをあのような方法で見せることができるチャン・ヨンシルの能力を示しています。
あの瞬間、世宗とチャン・ヨンシルの二人は、一緒に夢を成し遂げることができるのではないかという思いを抱くようになったのではないでしょうか。二人は身分を超えて友人として同じ夢を持つことになりますが、その関係性をこのシーンで描きたいと思いました。

──史実をもとに二人の絆を描いていますが、物語を創作する上で重要視した点はどこでしょうか?

監督:歴史的には世宗の記録に比べると、チャン・ヨンシルに関する記録はあまり多く残されていません。残っているものの一つに「世宗実録」というのがありますが、これを見るとチャン・ヨンシルのことを内官のように身近に置いて話をしていたという記録が残されています。なので二人はとても近い間柄であり、朝鮮の時を一緒に作っていった間柄であることが考えられました。
この映画の中に出てくる輿の事件はあまり大きな事件ではなかったかもしれませんが、それによって世宗は杖刑(じょうけい)を下し彼を追い出します。輿の事件によってなぜそのような結果に至ってしまったのかということに思いをめぐらした時に、その裏側には何か違う物語があったのではないかという風に考えたのがこの映画の出発点になりました。なので、歴史的な事実や想像力をめぐらせて物語を作っていきました。

──これまでの作品では監督と脚本を兼ねることがほとんどでしたが、今回、監督に専念された理由についてお聞かせください。

監督:今回の『世宗大王 星を追う者たち』は『ラスト・プリンセス 大韓帝国最後の皇女』の制作会社が製作しているのですが、10年ぐらい前にこの作品のシナリオの初稿をプロデューサーから受け取り、とても興味深く読みました。
私はすでに他の作品を作る準備をしていたものの、その時にこの映画に対するオファーをもらうことになりましたが、私が合流したときにはシナリオのほとんどが完成されている状態だったんですよ。

──プロデューサーからこの作品の提案を受けた時、「果たして自分にできるだろうか」と悩んだそうですが、具体的にどんな点に悩んだのでしょうか?

監督:ずいぶん昔のことなのではっきりと覚えていないのですが、この映画は途中から世宗とチャン・ヨンシルという二人の友情を描く物語としてとらえるようになりました。友情というのはこれまで私が描いてきた情緒や感情というのにもつながることなので、これならできるのではないかという風に選択したと思います。
その前の段階は、二人の間の友情というよりはどちらかというと歴史的史実に比重が置かれたミステリーというような味わいのものでしたから。それが二人の友情を軸においた映画になっていくというような状況になり、これならやれると思うようになりました。

──本作では、王と王を陰で支えた科学者の間に生まれた身分を超えた友情物語を描いています。単なる男同士の友情物語とは趣が違うところがあったと思いますが、描いていく上でこだわったところはどんなところですか?

監督:この作品をハン・ソッキュさんとチェ・ミンシクさんとご一緒できるということが決まった時、撮影前に長い時間をかけてシナリオについてお二人と話をしました。その時に ハン・ソッキュさんが「この王様は、王様だけど非常に孤独だったと思う。だから自分の理解者や夢を共に実現できる相手が現れた時に、きっとそこには友情が芽生えたのであろう」とおっしゃっていたんです。まさに天才同士の出会いだったと思うのですが、私もその話を聞いた時に、これは王と家臣の関係を超えた「同志」または「友人」の関係だと思いました。
この関係をハン・ソッキュさんは、映画の中で「友」という意味の韓国語「ポッ」という言葉で表現しています。ハン・ソッキュさんがセリフを作った部分がありましたが、その言葉がまさに王と家臣の関係を超えて本当の友になりうる関係だったことを表していますよね。私自身も、それを映画の中で表現したいと思いました。

──『八月のクリスマス』で父子を演じたハン・ソッキュさんとシン・グさんの共演も感動的でしたが、起用の理由を教えてください。

監督:なかなか機会がなかったのですが、シン・グさんと20年振りにご一緒することができました。ハン・ソッキュさんもシン・グさんとは同じく20年ぶりの共演だったそうですが、チェ・ミンシクさんとは「エクース」というお芝居でチェ・ミンシクさんが20代の時にシン・グさんと共演されています。
三人ともそれぞれご縁があったわけですが、この作品のキャスティングで真っ先にハン・ソッキュさんとチェ・ミンシクさんが決まって、その次に他の配役をどうするのかという話について意見交換している中、シン・グさんのお話が出ました。その時にハン・ソッキュさんもチェ・ミンシクさんも、とても喜んでいましたね。

──実際、現場での様子はいかがでしたか?

監督:お年が83歳なので、撮影中にセリフを間違えてしまうこともありましたが、そうするととても悔しがっていて、プライドが傷つくようでした。彼はお酒が大好きでたくさん飲まれる方ですが、お酒を飲んだ翌日にも撮影がある時には、正確にそのセリフをすべて覚えて撮影に臨まれていましたよ。現場では大きな柱のような存在だったと思います。ハン・ソッキュさんとシン・グさんが二人きりで向き合うシーンがあったのですが、その時は私も『八月のクリスマス』での二人の姿が思い起こされて感慨深く感じました。

──撮影では実物大の天体観測機器を製作されるほどのこだわりようですが、苦労された点について教えてください。

監督:この作品では科学的な話がとても多く登場するので、その時代の専門家や諮問委員の方々からいろんな話を聞き、資料調査をしながら進めていきました。ただ、私には専門的な科学知識がなく、聞いていても難しすぎてよくわからないので、助監督の中にいた詳しい人に代わりに聞いてもらったんですよ。
助監督たちに星座やチャギョンヌ(自撃漏/水時計のこと)についての研究をしてもらいながら進めていきましたが、随分と悩んだのは、天文観測台の大きさをどうするかということ。なぜなら、この天文観測台というのはまさに世宗とチャン・ヨンシルの二人が朝鮮の時間を作ろうとした夢を具現化させたものでもあったので、やはりこの映画の中で具体的な形にする必要があると考えていたからです。
当初はCGで再現しようかという話もありましたが、実物に近いものを作りたかったので、少し小さめのものになりましたが、実物に近いサイズで作りました。作る場所を探すのにも苦労しましたが、資料を見ると王宮の中に作られたものだったので、王宮の中にセットを作りました。そのセットを作るのに、製作期間が約2か月もかかっているんですよ。

ホ・ジノ
ホ・ジノ
ほ・じの

1963年8月8日生まれ、韓国・全羅北道出身。延世大学哲学科を卒業後、ポン・ジュノ監督らを輩出した韓国映画アカデミーで学ぶ。1998年には、ハン・ソッキュ主演の『八月のクリスマス』で長編監督デビュー。様々な映画祭で監督賞を受賞し、注目を集める。その後も、『春の日は過ぎゆく』(01年)や『四月の雪』(05年)、『危険な関係』(12年)などの多彩なラブストーリーを数多く発表し、切ない余韻を残す作風は“ホ・ジノ式ロマンス”と呼ばれている。そのほかの監督作は『きみに微笑む雨』(09年)や『ラスト・プリンセス 大韓帝国最後の皇女』(16年)など。