『オートクチュール』ナタリー・バイ インタビュー

ディオール専属クチュリエールが監修、お針子の美しい手仕事にため息もれる

#オートクチュール#ナタリー・バイ#ファッション

ナタリー・バイ

完璧主義者のお針子が見つけた後継者はバッグを盗んだ不良娘!?

『オートクチュール』
2022年3月25日より全国公開
(C)PHOTO DE ROGER DO MINH

ディオールのアトリエを舞台に繰り広げられる眼福と感動の人生賛歌『オートクチュール』が、3月25日より全国公開される。

パリ、モンテーニュ通りにそびえる世界最高峰メゾン、クリスチャン・ディオール。1947年に最初のコレクション“コロール(ニュールック)”を発表して以来、美しいものを愛でる人々に注目されてきた。美が誕生するのは、本店の上に構えるアトリエ。デザイナーが交代してもディオールの完璧な美が変わらないのは、お針子たちの職人技が脈々と受け継がれているからだ。

ディオールのオートクチュール部門のアトリエ責任者であるエステルは、次のコレクションを終えたら退職する。準備に追われていたある朝、地下鉄で若い娘にハンドバッグをひったくられてしまう。犯人は郊外の団地から遠征してきたジャド。警察に突き出してもよかった。しかし、滑らかにギターを弾く指にドレスを縫い上げる才能を直感したエステルは、ジャドを見習いとしてアトリエに迎え入れる。

貧しさに追われて夢を見ることすら知らなかったジャドが、針と糸を手にした瞬間、アイデンティティーに目覚める姿は、まさにシンデレラストーリー。仕事に人生のすべてを捧げ、孤独に沈んでいたエステルが、大切なものを取り戻すまでの再生のドラマが交差する。出会うはずのない2人の女性を結びつけたのは、自分の腕で生きていく覚悟と美を生み出す高度な技術だった。

完璧主義のアトリエ責任者エステル役には、フランスを代表する大女優ナタリー・バイ。薔薇に話しかけて孤独を癒す寂しいプライベートと、アトリエに現れただけで空気がピンと張り詰める仕事の鬼の二面を見事に演じ分けた彼女にインタビューを行った。

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──今回のプロジェクトで興味を持ったこと、感動したことはなんですか?

バイ:「伝承」というテーマに興味を持ちました。私が演じる女性は、優しさや寛大さを示すことができない、気持ちの上でちょっとしたハンディキャップを持った女性で、とても高貴な存在です。そんな中でも、自分の過去を思い出させてくれる少女を助けたいと思うのです。

──ハイファッションの世界に興味はあったのですか?

バイ:いいえ、全くありませんでした。セザール賞などでオートクチュールのドレスを試着したいと打診したことはありましたが、ドレスメーカーやデザイナーが働くバックステージには行ったことがありませんでした。非常にミステリアスな場所であり、セレブリティが着用するものだから見せられないと言われたドレスもありました。この世界に近づくことができたおかげで、役作りにとても役立ちました。

──バレエを学んだ者として、バレエに求められる厳しさと、オートクチュールに求められる厳しさは似ていると思いますか?

バイ:確かにもっとも厳しいとされるロシアバレエの学校に通っていたので、ロシア人の先生方の下で鍛えられ規律を学ぶことができたことは確かです。オートクチュールのアトリエで過ごした日々は、バレエで経験した規律と厳しさを思い出させてくれました。

キャラクターを信じることで役柄の真実に近づくことができる

──あなたが演じたエステルは、アトリエのトップとして驚くほど信頼を得ていましたね。

バイ:幸いなことに! キャラクターを完全に信じることです。そうすると、役の真実に少しずつ近づいていくのですから不思議なものです。実際には、私はボタンを3つ並べて縫うのがやっとの貧乏仕立て屋なのですから(笑)。

──あなたにとって、エステルとはどのような人物ですか?

バイ:孤独な女性。仕事に情熱的に立ち向かっていますが、その仕事が彼女を蝕んでいます。おそらく彼女は、私生活、とくに母親としての人生に失敗したと感じているのでしょう。彼女は独りで薔薇と針と共に存在している。そこに感動しました。このキャラクターで気に入っているのは、口が達者なところです。彼女は自分の出自を否定しないし、自分を甘やかしたりもしないのです。

──彼女の過去を想像しましたか?

バイ:本能的に彼女のキャラクターを感じていたので、過去を掘り下げる必要性を感じませんでした。情報を与えられすぎると新鮮さが失われてしまいます。それに彼女のキャラクターは脚本にとてもよく描かれていましたので、説明してもらう必要もありませんでした。

──エステルはなぜジャドを信頼し、自分の下に置くことにしたのでしょうか?
リナ・クードリ

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バイ:彼女の頭の中ではいろいろなことが起こっています。まず、自分のバッグを盗んだ若い娘に腹を立てている。でも彼女を見て、可愛いと思い、彼女の手を見て迷い、きっと受け入れてしまうだろうとも感じています。そして、彼女を成長させ、その境遇から抜け出させたいと思っている。だから彼女には、怒りと迷惑と好奇心が混在しているのです。

──エステルはジャドを娘の代わりのように見ていると思いますか?

バイ:私はそうは思いませんが、ジャドとその友人であるトランスジェンダーのキャラクターのおかげで、娘との距離を縮め、関係を取り戻すことができたのは確かだと思います。

──リナ・クードリとの出会い、また撮影中の関係はいかがでしたか?

バイ:彼女はとても才能があり、知的で美しい若い女優で、一緒に仕事をするのはとても楽しかったです。彼女は私の話をよく聞いてくれますし、とても良いパートナーです。

──シルヴィー・オハヨンはどんな映画監督ですか?

バイ:意思が強く、知的で勇気のある女性です。独自の世界を持っていて、どこか心に響く愛らしさがあります。撮影現場で彼女は幸せそうでした。

ナタリー・バイ
ナタリー・バイ
Nathalie Baye

1948年7月6日生まれ。父親は画家。失語症のため14才で学校を中退し、モナコのダンススクールに入学。17才でニューヨークへ渡り、ロシアバレエの修行を積む。帰国後、コンセルヴァトワールで演技を学ぶ。フランソワ・トリュフォー、ジャン=リュック・ゴダール、モーリス・ピアラなど偉大な監督たちの作品に出演、セザール賞を始め受賞多数。90年代以降は『アメリカン・ビューティ』(99年)や『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』(02年)などのハリウッド作品に抜擢され、その後も若き天才グザヴィエ・ドランの『わたしはロランス』(12年)、『たかが世界の終わり』(16年)にオファーされるなど第一線で活躍を続けている。2015年にはフランスの大ヒットドラマシリーズ『エージェント物語』で娘ローラ・スメットと初共演、その後『田園の守り人たち』(17年)で映画初共演を果たす。