『パリの調香師 しあわせの香りを探して』グレゴリー・マーニュ監督インタビュー 

ワガママ天才調香師と崖っぷち運転手、2人の出会いから生まれる奇跡とは!?

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グレゴリー・マーニュ

名女優は脚本読んでから48時間で出演を快諾

『パリの調香師 しあわせの香りを探して』
2021年1月15日より全国順次公開
(C)LES FILMS VELVET - FRANCE 3 CINÉMA

アンヌはディオールの香水「ジャドール」をはじめ数々の名品を手がけた天才調香師。しかし4年前、プレッシャーと忙しさで、嗅覚障害になり地位も名声も失ってしまった。嗅覚が戻った現在はエージェントに紹介される地味な仕事だけを受け、パリの高級アパルトマンでひっそりと暮らしていた。そんな彼女に運転手として雇われたギヨーム。不器用だが人の良い彼は、娘の共同親権を得るため、新居や仕事が必要だった。気難しいアンヌに戸惑いながらも、唯一率直にものを言うギヨームは、少しずつアンヌの閉じていた心も開いていく。やがてアンヌは香水作りへの意欲を取り戻すが、またも嗅覚を失ってしまう……。

調香師という知られざる職業にスポットを当てた『パリの調香師 しあわせの香りを探して』で、ユーモアと爽やかな感動に満ちたストーリーを描き、本国フランスでの大ヒットに導いたグレゴリー・マーニュ監督に話を聞いた。

・爽快な高揚感を味わえる! 王道を貫くロマコメ

──本作はどのようにして生まれたのですか?

監督:誰もが経験したことのある状況からインスピレーションを受けました。ある時、人混みの中で、馴染みのある香水の匂いを嗅いで、反射的にその香水をつけていた人を探そうと、私はしばらくそこに立っていました。それから、平均よりも鋭い嗅覚を持っている人は、日常生活の中でこんな感じなのかと思い、その能力は他人との関係性をも変えてしまう可能性があるのではないか、また、その人の社会生活、感情、性格にまで影響を与えてしまうのではないかと考えました。そうして特異なキャラクターが作られ、監督としてスクリーンで香りを描く挑戦をすることになり、主人公アンヌ・ヴァルベルグが生まれました。

ディオール

──調香師であるアンヌ・ヴァルベルグと彼女の運転手のギヨーム。本作は2人の孤独な人間同士が出会う物語ですね。

監督:アンヌは傷ついた天才です。最初は素っ気なく、ブルジョア的なところがあるので、高慢な人に見えるかもしれません。しかしそれはまったくの間違いで、ある種の引っ込み思案で人とのコミュニケーションが難しいのです。ギヨームは私生活では妻と別れ、娘の親権の問題を解決しなければならないなど苦境に立たされていますが、社会生活においては真逆です。彼はどんな状況でも、誰と話していても居心地が良いと感じている。少し居心地が良すぎるくらいです。それが、依頼人アンヌの好奇心を刺激することになります。

──初めにアンヌはギヨームをまるで自分の通訳のように扱いますね。

監督:その通り。もしくは、アンヌ側の視点で言うと、ギヨームはまるでボディーガードなのです。彼女は良い鼻を持っているが彼には会話のセンスがある。彼女はそれを利用している。ギヨームはプロの運転手として必要な資質をすべて欠いているが、人の心を読むのは得意です。彼には忍耐と敬意がないので、アンヌの世界には場違いなようですが、それこそがコメディには金脈なのです。

パリの調香師

──本作制作にあたり、どのような準備をしましたか? 実際に調香師と会って研究などされたのでしょうか?

監督:私たちの目標は、香水や香りについての学術的な映画を作ることではありません。アンヌの仕事は、数年前、このトピックについて読んだり見たりした際にインスパイアされたものです。例えば、彼女が香りを再現することになる洞窟のアイデアは、ヴェルナー・ヘルツォークのドキュメンタリー『世界最古の洞窟壁画3D 忘れられた夢の記憶』に基づいています。
しかしながら、専門用語や演技については、現実的で正確なものにする必要がありました。だから台本ができたら、何人かの調香師に読んでもらって、いくつか指摘してもらいました。本当に魅力的な職業です。世界に調香師は数百人しかいませんが、そのほとんどがフランスで修行を積んで働いています。物事は変化していますが、女性調香師はまだ過小評価されています。
エルメスの専属調香師であるクリスティン・ナーゲルは、本作のためにエマニュエル・ドゥヴォス(アンヌ役)にアドバイスをしてくれました。彼女はアンヌよりもはるかにコミュニケーション能力が高いのですが、それでも主人公のキャラクターの多くの特徴や反応を自分自身にも認めていました。彼女はエマニュエルを自分のフレグランス研究所に迎え入れ、自分のフレグランスを作ることを提案し、コツを学ぶことができるようにしてくれました。

──エマニュエル・ドゥヴォスがアンヌ役にぴったりだと思ったのはいつ頃ですか? 

監督:初稿のセリフ付き台本の前から、クリスティンとエマニュエルの写真を並べて見ていました。おそらく、発達しすぎた嗅覚という特徴に、ジャック・オーディアールの『リード・マイ・リップス』を思い出したからでしょう。私たちはお互いを知らなかった。水曜日の夜にエマニュエルのエージェントに台本を送り、木曜日の朝には、彼女はそれを読んで気に入ってくれ、我々は金曜日に会って、48時間で有名女優の出演が決定したんです。エマニュエルは、主人公のやや無愛想な一面に自らの10代の頃を思い出して共感し、また、調香師を演じるのに必要な繊細さにも惹かれていました。それに、彼女には滅多にオファーされることのない、この作品のコメディ的側面にも魅力を感じてくれました。
共演のグレゴリー・モンテル(ギヨーム役)とエマニュエルは、それぞれ異なる世界や観客を想起させ、それが本作をより面白くするように感じられました。2人の演技スタイルも違っています。エマニュエルは本当に几帳面で、それぞれのテイクで何が良いのかを感じ取り、それをすべて完璧な一回のテイクに集中させるという素晴らしい能力を持っています。グレゴリーはもっと自然体です。彼はセリフ以外のことが多くを伝えると知っている。そこがポイントでした。2人の演技スタイルは、それぞれのキャラクターと一致していました。1人は勤勉で、もう1人は自然体というふうに。

パリの調香師

──愉快な場面が満載なのに、本作はただのコメディではないですよね?

監督:ユーモアは、見る人それぞれが何を見て、何をキャッチして、何を理解するかによって変わるところが好きです。屋根の上から叫ぶのではなく、軽く示唆されているコメディが好みなんです。私にとっては、人々が実際に生活の中で笑うようなものが真実に思えます。ストーリーについても同じことが言えます。2人の登場人物が恋に落ちる時、彼らの落ち着きのなさ、気まずさ、自暴自棄、再会。アンヌとギヨームのような友情は、もっと小さな、もっと繊細なものでできています。キスをしなくても、ファーストネームで呼び合わなくても、背中を叩かなくても、2人が自信を取り戻すのにどれだけ助け合ったのかは理解できるのですから。

グレゴリー・マーニュ
グレゴリー・マーニュ
Grégory Magne

1976年生まれ、フランス・ブルゴーニュ育ち。最初はジャーナリストとしてフランスの新聞Le Parisienに就職。2007年、6.5メートルのヨットに乗ってラ・ロシェルからサルバドール・デ・バイーアまで、1人で通信手段も持たず、大西洋横断の旅に出る。カメラでその日々を撮影し、初の映画『VINGT-QUATRE HEURES PAR JOUR DE MER』を完成。以来、ドキュメンタリーとフィクション、脚本と監督の間を行き来している。2012年には自身初の長編映画で、グレゴリー・モンテルが初主演を務め、歌手のミシェル・デルペシュが借金まみれで財産を押収された事件を自ら演じたダークコメディ『L'AIR DE RIEN』をステファン・ヴィアールと共に脚本・監督した。本作は2作目の長編映画である。