市井の人々の生活と闘争を描き続けてきたケン・ローチ監督、分断の時代に放つ希望の問いとは?

#オールド・オーク#ケン・ローチ#ポール・ラヴァティ#山田洋次

(C)Sixteen Oak Limited, Why Not Productions, Goodfellas, Les Films du Fleuve, British Broadcasting Corporation, France 2 Cinéma and The British Film Institute 2023
『オールド・オーク』
『オールド・オーク』
『オールド・オーク』

北東部3部作の最終章、難民問題と地域社会の分断を描く物語に各界著名人がコメント

ケン・ローチ×ポール・ラヴァティが喪失と希望を描く感動作『オールド・オーク』より、その功績に迫る特別映像が公開。あわせて、英国在住の作家ブレイディみかこや映画監督・山田洋次ら著名人のコメントも一挙解禁された。
市井の民を見つめ、彼らの生活と闘争を描き続けてきたイギリスの巨匠、ケン・ローチ監督。彼が自ら「最後の作品」と語っているのが、2023年カンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品された本作だ。『わたしは、ダニエル・ブレイク』(16年)『家族を想うとき』(19年)に続く「イギリス北東部3部作」の最終章となる。
舞台は、とある炭鉱の町で最後に残ったパブとして親しまれていた「オールド・オーク」。人々が集い、安らぎを見出す場所だったはずのパブは、シリア難民の受け入れをきっかけに、諍いの場へと変貌してしまう。
オーナーのTJはパブの先行きに頭を抱えていたが、シリアから来たカメラを携えた女性ヤラと出会い、思いがけず友情を育むことに。やがて彼は、喪失や未知への恐怖、そして希望を見つけることの難しさについて知っていくことになるが──。

『オールド・オーク』

今回、ケン・ローチ監督の偉大な功績に迫る特別映像が解禁された。『やさしくキスをして』(04年)に出演したエヴァ・バーシッスルは、「ケンのような監督と仕事ができるのは夢のようなこと」と語り、『ケス』(69年)のデヴィッド・ブラッドレイは「彼はこの国における最も偉大な映画監督だ」と敬意を寄せる。
『わたしは、ダニエル・ブレイク』でケイティ役を演じたヘイリー・スクワイアーズは、「誰も彼のように真実を描けない」と断言。「労働者階級に寄り添い、彼らのために闘う人だ」と語る。
ローチ監督は、「3部作を構想していたわけではないが、それぞれの作品が、次の作品を生んだ」と、『わたしは、ダニエル・ブレイク』『家族を想うとき』から連なる物語として本作が生まれたと語る。産業の火が消え、困窮するかつての炭鉱町の住民たちと、戦禍のシリアを逃れてきた難民たち。「小さなコミュニティ内で起きた2つの反応が、この物語の本質だ」と述べる。排斥を訴え続けるのか、受け入れ、共生を目指すのか――。
本作もまた、シリアからの難民も含め、主に現地のコミュニティ内で生きる人々を俳優としてキャスティングした。「人々と出会い、その経験を物語に組み込めるのは光栄なことだ。誰もが語りつくせない人生の物語を持っている」と、協働にあたっての人々への揺るがぬ敬意を語る。
彼の志に呼応するかのように、参加した俳優は「あらゆる点で刺激的」「整えられた環境に反応するだけでよかった」「それぞれの才能を引き出してくれる」と、その監督としての力量と人間性を絶賛した。
ローチ監督は「希望とは政治的だ。何かを変えられると信じることだからね」と、本作でも描かれる「希望を持つこと」の難しさと尊さについて言及している。その唯一無二の功績は、「最後の作品」である本作と共に、長く語られ、受け継がれていくだろう。
『オールド・オーク』

(C)Sixteen Oak Limited, Why Not Productions, Goodfellas, Les Films du Fleuve, British Broadcasting Corporation, France 2 Cinéma and The British Film Institute 2023

そして、本作に寄せられた著名人コメントも一挙解禁された。是枝裕和(映画監督)、宇多丸(RHYMESTER)、松尾潔(音楽プロデューサー、作家)、北村紗衣(英文学者)に続き、移民政策学会常任理事であり、入管収容問題、難民問題に取り組んできた弁護士の児玉晃一、イギリス文学・文化研究の河野真太郎、メディアNPO Dialogue for People副代表でありフォトジャーナリストの安田菜津紀、地球に移民としてやってきたバクの子どもを主人公にしたマンガ「バクちゃん」で文化庁メディア芸術祭新人賞を受賞したマンガ家の増村十七、イギリス在住の作家のブレイディみかこ、映画監督の山田洋次ら、ジャンルの垣根を超えた各界著名人が言葉を寄せている。
■是枝裕和 (映画監督)
世界でも、日本でも至る所に蔓延している人と人の「分断」。この最も厄介な手に負えない病巣を前にしてもケン・ローチは諦めない。『オールド・オーク』は人と人が差異を超えてどうしたら共に生きられるかを正面から問い続ける。これほどまでに一貫した「眼差し」を世界に、人間に向け続ける彼の存在こそが、映画にとっての希望であると改めて確信した。
■宇多丸(RHYMESTER)
押しつけられた理不尽に苦しむ者同士、噛みつき合うのか、助け合うのか、それとも黙ってやり過ごすのか……それは明らかに、2026年現在の日本社会に生きる、我々自身にも向けられた問いだろう。ケン・ローチ渾身のまたしても大傑作、劇場公開されて、本当に良かった!
■松尾潔(音楽プロデューサー・作家)
ローチが見つめるのは、難民そのものではない。「分断を生む社会の構造」だ。怒りと不信の底に、なお残る連帯の可能性を探る。2016年の英国北東部を描いたこの物語が、2026年の日本に重なって見えるとき、私たちは何を選び取るのか。
■北村紗衣(英文学者)
パブはpublic house、つまり「公共の家」という単語からきています。お酒を飲むだけではなく、人々が集まるコミュニティの中心としての公共的な機能を持っています。そんなパブが地域社会のためにどういう機能を果たせるのか、果たすべきなのかを描いた映画です。
■児玉晃一(弁護士)
どこの国でも、移民・難民の心や体を傷つけるのは人。でも、共に食事をし、語らい、音楽に触れ、その心や体を救うのも人だ。悪意に満ちた言動に挫けそうになるけれど、最後は善意に救われると信じさせてくれる映画。シュクラン(ありがとう)、みんな。
■河野真太郎(イギリス文学・文化研究)
分断のあるところに、共感と連帯をあらしめよ。ケン・ローチ監督は、冷笑と分断に苦しむ私たちの社会に、この世には善意というものがあり、それが社会をつなぎとめているという、祈りのような「最後のメッセージ」を届けてくれる。劇場で受けとめてほしい。
■安田菜津紀(メディアNPO Dialogue for People副代表/フォトジャーナリスト)
この映画は小さな町の背景を描きながらも、「差別する側にも理由がある」という安易な正当化を拒否する。社会の脆弱さや失政を「外国人のせい」「難民のせい」と転換し、「分かったふり」をする暴力の露骨さを描く。一筋縄ではいかない「共に生きる」をなお、諦めない意思も。
■増村十七(マンガ家)
寂れつつある炭鉱町の住民たちと、そこに移住してきた難民たち。過去を持ち合わない隣人同士が、食事をし、働いて、悲しんで、たがいの人間としての姿を知る。特別ではない人間たちが互いを知るとき、特別な、思い出が始まる。
■ブレイディみかこ(作家)
「多文化」が共生するのではない。「人と人」が共生するのだ。どんな時代にあっても同じことを言い続けてきたケン・ローチの声が聞こえる。
■山田洋次(映画監督)
人種差別という、人間の醜い行為から始まるドラマが鮮やかに描き出される。名匠ケン・ローチは健在。
『オールド・オーク』は2026年4月24日より劇場公開。

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