長尾謙杜と北村一輝のあだ討ちシーンが印象的な極上エンタメ時代劇

#北村一輝#木挽町のあだ討ち#柄本佑#正名僕蔵#渡辺謙#滝藤賢一#瀬戸康史#週末シネマ#長尾謙杜#高橋和也

『木挽町のあだ討ち』
『木挽町のあだ討ち』
(C)2026「木挽町のあだ討ち」製作委員会 (c)2023 永井紗耶子/新潮社
『木挽町のあだ討ち』
『木挽町のあだ討ち』
(C)2026「木挽町のあだ討ち」製作委員会 (c)2023 永井紗耶子/新潮社
『木挽町のあだ討ち』
『木挽町のあだ討ち』
『木挽町のあだ討ち』
(C)2026「木挽町のあだ討ち」製作委員会 (c)2023 永井紗耶子/新潮社

柄本佑主演、渡辺謙ら実力派俳優が揃う『木挽町のあだ討ち』

【週末シネマ】東銀座の歌舞伎座裏あたりは、表通りの華やかさとは少し違う空気が今も漂う。ちょっとディープで時が止まったような独特の世界。地名こそ変わったが、江戸の木挽町もきっとこんな雰囲気だったのではと想像させる。

その木挽町が舞台の映画『木挽町のあだ討ち』は、時代劇に馴染みのない観客でも、すんなりとその世界に入り込める1本だ。

長尾謙杜「この映画で日本が温まったらいいな」 主演・柄本佑と共に雪降る神社で大ヒット祈願

雪の降る夜、江戸・木挽町の芝居小屋「森田座」前でドラマティックな仇討ち事件が起きる。真紅の打掛け姿の美しい若侍・菊之助(長尾謙杜)が父の仇を討つシーンから始まるこの物語は、すぐにその1年半後にワープする。菊之助の縁者という田舎侍で、映画の主人公である加瀬総一郎(柄本佑)が森田座に現れて、事件の真相を聞き込みしていく。総一郎にとって、虫も殺せないように心優しい菊之助が大男の仇・作兵衛をどう打ち取ったのか、そもそもなぜ美濃遠山から江戸の芝居小屋にたどり着いたのか、大きな謎なのだ。

『木挽町のあだ討ち』

(C)2026「木挽町のあだ討ち」製作委員会 (c)2023 永井紗耶子/新潮社

飄々とした総一郎は、のんびりした口調で森田座の面々に質問を重ねながら、じわじわと核心へ迫る。製作側はアメリカの名作ドラマ「刑事コロンボ」を意識したというが、会話の積み重ねで真相を浮かび上がらせる構造はまさに、コロンボを思わせる。柄本はとぼけた様子の中に鋭い洞察を忍ばせる演技で、観客たちの半歩先に立ってリードしていく。

職人気質の登場人物たちと現場スタッフたちの気概が重なる

物語の中心となる森田座が主役と言ってもいい展開だ。渡辺謙が演じる立作者の篠田金治をはじめ、瀬戸康史、滝藤賢一、高橋和也、正名僕蔵ら実力派が揃って、それぞれの立場で事件に関わっていく群像劇になっている。木戸芸者、立師、元女形の衣装方、それに小道具方。芝居小屋の面々は様々な背景を持ち、皆揃って職人気質。そのプロフェッショナリズムが、実は映画の撮影現場のスタッフたちの気概とピタリと重なるようで面白い。時代は異なるが、メタ的に“作る側の熱量”が伝わってくる。

『木挽町のあだ討ち』

(C)2026「木挽町のあだ討ち」製作委員会 (c)2023 永井紗耶子/新潮社

キャストは皆素晴らしく、冒頭のあだ討ちシーンで鮮烈な美しさを放ち、同時に清らかな魂を感じさせる菊之助を演じた長尾、彼と壮絶な死闘を演じる仇の作兵衛を演じた北村一輝が印象深い。高橋が演じる元女形のほたるも忘れ難い。

どこか緩い江戸の空気を鮮やかに作り出す一方で、仇討ちという行為を現代の感覚で解釈しているのも良い。誰だって死にたくないし、殺したくない。そんな当たり前の感情を、武士のしきたりや世間の目は許さない。そこに彼らは「芝居」という究極の手段で挑んでいく。

『木挽町のあだ討ち』

(C)2026「木挽町のあだ討ち」製作委員会 (c)2023 永井紗耶子/新潮社

没入型エンターテインメント的な味わいを楽しむ

詳しい説明はネタバレになるので避けるが、特別な仕掛けは何もないのに没入型エンターテインメント的な味わいがある。映画や芝居のお約束を見事に作用させる演出に、観客自身もメタ的に映画に参加し、美剣士の仇討ちを目撃した江戸の町人の一人になっていたと気づく。そこにカタルシスが生まれる。

ミステリーの面白さ、群像劇としての深み、そして笑える場面やしんみりとする瞬間がバランスよく散りばめられた極上のエンターテインメントだ。(文:冨永由紀/映画ライター)

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『木挽町のあだ討ち』は、2026年2月27日より公開中。