成宮寛貴が12年前に主演したJホラーに見る“熱い感情と破滅の危うさ”という魅力

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『クロユリ団地』
『クロユリ団地』
(C) 2013「クロユリ団地」製作委員会
『クロユリ団地』
『相棒−劇場版III− 巨大密室!特命係 絶海の孤島へ』
『クロユリ団地』
『クロユリ団地』
『クロユリ団地』
『死ぬほど愛して』
死ぬほど愛して

お約束のなかで俳優の演技を楽しむ「怖い映画」

物語というものは、いくつかのパターンで成り立っている。主人公が冒険に出て、いくつもの試練を超えて日常に帰ってくる「ヒーローズ・ジャーニー」は、『スター・ウォーズ』などの映画だけではなく、そもそも神話などの英雄譚でつちかわれてきた、物語のパターンのひとつである。

当然、怖い映画にもいくつかのパターンがある。そして、そのなかにさらなる「お約束」がある。

『クロユリ団地』成宮寛貴インタビュー/前田敦子とW主演“ザ・ジャパニーズ・ホラー”の撮影を振り返る

たとえば……性的な快楽をむさぼるキャラクターは必ず死ぬ。勇者よろしく「必ず戻ってくる」と外へ出るキャラクターも必ず死ぬ。殺人鬼やゾンビなどに追われた人間が車で逃げようとすると、必ずエンジンがかからない……などなど。

なぜ「お約束」なのかといえば、それが大衆に受け入れられるからだ。こうしたいくつかのパターンを踏まえながら、作品ごとの「新味」を求めることが、ジャンル映画の楽しみ方のひとつである。

その「新味」のひとつが、役者の演技だ。

とくに日本のホラー映画に目を移すと、清水崇の『呪怨』シリーズや、中田秀夫の『リング』といった海外にも評価されるヒット作が出て以降は、興行的な理由からも若手の注目株、とくにイケメン俳優の起用が増加してきた。

端正な見栄えからは考えられないような、狂気や恐怖に染まる表情がスクリーンいっぱいに映し出される──この背徳感たるや、見ている者からすればたまらない快感でもある。

ショッキングな結末が社会的話題となった『相棒』

……と、コラム【怖い映画】の初回なので長めにゴタクを並べたが、要はイケメン俳優の魅力が堪能できる怖い映画を紹介していこうというのが、本稿の狙いである。

その1回目として取り上げたいのが、成宮寛貴である。

成宮は堤幸彦監督の『溺れる魚』(01年)で、物語の鍵を握るゲイのバレエダンサー役で映画初出演。同年にはささやななえこ原作、池田敏春監督のオムニバスホラー『生霊~いきすだま~』(01年)にも出演している。日本テレビ系のドラマ『ごくせん』(02年)でオシャレだが実は根の熱い生徒・野田を演じてブレイク、映画『アキハバラ@DEEP』(06年)、『ドロップ』(09年)などの話題作に主演するなど、活躍の場を広げていった。

彼のターニングポイントともいうべき演技が見られたのは、稲垣吾郎が金田一耕助を演じたドラマ『悪魔が来りて笛を吹く』(07年/フジテレビ系)だった。人当たりのいい好青年だが、実は暗い因縁を背負っている男・三島東太郎役は、彼の個性が十二分に発揮された演技だといえるだろう。

その魅力は、人気ドラマシリーズ『相棒』season11~13(12~14年/テレビ朝日系)でより鮮明になった。彼の演じる甲斐亨は警察官僚の御曹司でありながら、ときには派手に暴れることもある刑事だ。正義感の強さを感じさせる甲斐。だが実は、法の裁きを受けずに生きる犯罪者たちに私刑を下す男だった……というあまりにセンセーショナルな「番組卒業」は、視聴者たちに大きな衝撃を与えた。

『相棒−劇場版III− 巨大密室!特命係 絶海の孤島へ』

『相棒』劇場版シリーズ第3作、『相棒−劇場版III− 巨大密室!特命係 絶海の孤島へ』(2014年)
(C) 2014「相棒−劇場版III−」パートナーズ

熱さと危うさ──成宮の演技が『クロユリ団地』のカタルシスを支える

熱い感情と破滅の危うさを抱えた、ミステリアスな男──そんなイメージが強まるなかで、成宮が出演したのが、映画『クロユリ団地』(13年)だった。

クロユリ団地に越して、ミノルという少年と出会った明日香(前田敦子)だったが、翌日隣室で老人の遺体を見つけてしまったことから、老人の幽霊を見るようになってしまう。明日香は、老人の遺品整理にやって来た特殊清掃員の笹原(成宮)とともにその謎を探ることになる。

団地という空間。密閉されているはずの部屋の外から聞こえてくる音響。亡くなった老人、謎の少年ミノルの存在……。Jホラーの代名詞的存在の中田秀夫監督が、これでもかと恐怖の「お約束」を放り込んでくる。

『クロユリ団地』

『クロユリ団地』
(C) 2013「クロユリ団地」製作委員会

実は謎の少年ミノルは、この団地で10数年以上前に悲惨な事故死を遂げていたのである。

明日香は10年以上前、楽しみにしていた旅行の事故で家族を亡くしていた。だが、混乱した明日香は、家族が家にいないとパニックを起こす。それは、ミノルの霊によるものだった。笹原はこの状況をなんとかしようと奔走する。

そんな笹原、どうも不穏な空気をまとっている。なぜなら、笹原もかつて事故を起こし、恋人を再起不能の状況に追い込んでしまった過去を持っていたからだ。

ミステリアスなたたずまい、過去の因縁、強い正義感……と、ホラーにおいてはフラグとなるこの設定だが、実は成宮の魅力がすべて詰まっているのである。

その後もこれでもかとたたみかける恐怖の波状攻撃に対峙し、破滅への階段を昇っていく彼の演技にこそ、この映画のカタルシスがあると言ってもいい一本だ。

『クロユリ団地』

『クロユリ団地』
(C) 2013「クロユリ団地」製作委員会

成宮は2016年に惜しまれながら芸能界を引退。だが、2024年9月に活動を再開した。

俳優としても、2025年3月から配信されたドラマ『死ぬほど愛して』(ABEMA)で、平和な夫婦生活の裏で、取り憑かれたように残虐な殺人を繰り返す、謎多き主人公で復帰。視聴者が思う「成宮寛貴」の魅力が存分に発揮された演技を見せつけている。(文:一角二朗/ライター)

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『死ぬほど愛して』

成宮寛貴の怪演が話題を呼んだ『死ぬほど愛して』は、第1話から最終第8話までの総視聴数が「ABEMA」で1500万回を記録し、ABEMAオリジナルドラマにおける過去最高を更新した。
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