【週末シネマ】凄まじい暴力の応酬の果てに浮かび上がるメッセージ/『アジョシ』

『アジョシ』
(C) 2010 CJ ENTERTAINMENT INC & UNITED PICTURES. ALL RIGHTS RESERVED
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東映が約30年ぶりに外国映画を買い付け、配給する新レーベル「東映トライアングル」の第1弾作となるのが、昨年、韓国で観客動員第1位を記録し、韓国アカデミー賞をはじめ数々の主要映画賞で受賞した『アジョシ』だ。主演のウォンビンは、ペ・ヨンジュンやイ・ビョンホンらと韓流ブームの先鞭をつけた1人。アイドルとして人気を博したが、兵役後は出演作を厳選、『母なる証明』(09年)で演技派としての実力を開花させ、本作では鍛え抜いた長身が映えるアクションを披露している。

[動画]『アジョシ』予告編
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ソウルの片隅で質屋を営み、他人との接触を避けてひっそりと暮らす男・テシクが、隣りに住む少女・ソミと心を通わせるようになる。クラブダンサーの母親から面倒を見てもらえず、友だちもいない孤独な少女は彼を「アジョシ(おじさん)」と呼んで慕うが、母が引き起こした麻薬密売の企みに巻き込まれて母娘共に犯罪組織に拉致される。2人を救うために立ち上がる男はひた隠しにしてきた自身の過去と技能の封印を解き、たった1人で組織に対決を挑む。

暗殺を任務としていた元特殊要員の男と孤独な少女という設定は、『レオン』(94年)や『野性の証明』(78年)といった過去の作品にも通じるが、それらが作られた20世紀の時代ほど、社会は単純ではなくなっている。時の流れとともに世界は複雑になり、その分だけ醜い心の人間が増えた現代の荒んだ空気をもしっかりととらえ、なおかつアクションエンタテインメントとして成立させているのは、脚本も手がけたイ・ジョンボム監督の手腕だ。

麻薬取引や臓器移植絡みの人身売買の渦中に子どもが巻き込まれる現実、人が人を殺すという行為の凄惨さ。その一切に腰が引けた描写はない。荒廃した世界を誤魔化さずに描くからこそ、ウォンビンの美しさが意味を持つ。その美しさとは整った目鼻立ちや均整のとれた体型のことだけではない。アクション。感情。すべてが本物。敵陣に乗り込んだ主人公が、眠っていた本能が呼び覚まされたかのように繰り広げる1対17の無謀な対決の迫真性は必見だ。

ソミを演じたキム・セロンは映画デビュー作『冬の小鳥』に続いて薄幸の少女役。孤高を貫いた前作に対して、本作では「卑屈」とまではいかないが、大人の顔色をうかがいながら愛情を求める少女の寂しさを的確に表現し、それぞれの孤独を抱えた2人の絆の強さを印象づける。しかし実のところ、テシクとソミが一緒に出ているシーンはごくわずかなのだ。来日記者会見でウォンビン自身が指摘するまでそれに気づかせないほど、スクリーン上で2人の魂は強く結びついている。

凄まじい暴力の応酬の果てに、愛する者を失っても他者との絆によって人は前に進んでいける、というメッセージが浮かび上がる。厳しい世界で自立して生きていくことの大切さを、そばにいてやれない者の愛が教える。深い余韻を残す一作だ。

『アジョシ』は9月17日より丸の内TOEI2ほかにて全国公開される。(文:冨永由紀/映画ライター)

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