エンタメ寄りの1977年版と文芸寄りの2018年版、忠実リメイクを期待すると失望することに!

#サスペリア#映画を聴く

『サスペリア』
(C) Courtesy of Amazon Studios
『サスペリア』
(C) Courtesy of Amazon Studios

【映画を聴く】『サスペリア』前編
あまりの違いにオリジナル版監督が激怒?

「決して ひとりでは見ないでください──」というキャッチコピーこそ同じだが、ダリオ・アルジェント監督の1977年版『サスペリア』と、それをリメイクしたルカ・グァダニーノ監督の2018年版『サスペリア』は、作品としての立ち位置が180度異なる。あまりの違いにアルジェント監督本人が激怒したという話もあり、まるで原作者のスティーブン・キングと映画化したスタンリー・キューブリックが対立した『シャイニング』公開時の騒動を思い出させる展開である。

官能演技から一転、戦慄ホラーに/『サスペリア』ダコタ・ジョンソン インタビュー

両者の違いを端的に言うなら、1977年版が視覚や聴覚に直接訴える動的なホラーなのに対して、2018年版は当時の社会情勢を含む細部の描き込みを徹底することで見る者のメンタルにじわじわと恐怖を浸透させる静的なホラー、ということになる。エンタメ寄りの1977年版、文芸寄りの2018年版、と言ってもいいかもしれない。少なくとも1977年版の忠実なリメイクを期待すると、今回の2018年版には失望することになるので、そこにはご注意いただきたい。

アルジェント監督の1977年版とグァダニーノ監督の2018年版の作品としての立ち位置の違いを、もっとも分かりやすい形で示すのが音楽だ。1977年版の音楽を担当したのは、イタリアのプログレッシヴロック・バンド、ゴブリン。ムーグ・シンセサイザーやシタールなどのインド楽器を駆使したサイケデリックな音づくりで、サウンドトラック単体としてもヒットを記録。映画公開当時は、現在のドルビーアトモスなどにつながる4chのサラウンド音響技術「サーカム・サウンド」が採用され、映像との有機的な絡み合いが話題になった。

自分たちのオリジナル・アルバムよりも、手がけた映画のサントラの方が多かったりするバンドだが(現在も活動を継続中)、中でも本作のサントラは彼らのクリエイティヴ面でのピークを捉えた作品として、このタイミングで聴いておきたい一枚だ。2017年にリリースされた40周年記念デラックス・エディションは、各種ストリーミングサービスでも聴くことができる(後編へ続く…)。

後編「どこまでも美しく、じわじわと恐怖を植え付ける。映画音楽家となったトム・ヨークの今後に期待!」