ジワジワと感動を拡大中。 いいファンに恵まれた幸福な映画と言えばこれしかない!

#サントラ#映画を聴く

『この世界の片隅に』
公開中
(C) こうの史代・双葉社/「この世界の片隅に」製作委員会
『この世界の片隅に』
公開中
(C) こうの史代・双葉社/「この世界の片隅に」製作委員会

【映画を聴く/番外編】2016年ベスト10・前編
無音楽なのに音楽的にイイ!映画とは…?

このコラム【映画を聴く】では、だいたい週に1本、年間で60本前後の作品をピックアップしているのですが、2016年は本当に良作が目白押し。泣く泣く見送った作品が実はかなりたくさんありました。今回は、取り上げることはできなかったけど印象に残っているものも含め、劇中の音楽がよかった10本を選んでみました。

感動ばく進中『この世界の片隅に』、坂本龍一も認めた超エリートが音楽担当!

●第10位:この世界の片隅に
まず第10位は、じわじわと上映館を増やしながらヒット更新中の『この世界の片隅に』。すでに映画を見た方には「こんなにいい映画が10位!?」とツッコまれるかもしれませんが、これはちょっと順位とかじゃないなと。なので、本作に限っては特別枠ということにさせてください。とにかくいい原作、いい監督、いいキャスト、いいスタッフ、もっと言えばいいファンに恵まれた幸福な作品。ここで改めて語るのは無粋なほど、すでにさまざまなところで語られていますが、当コラム的にはやはりコトリンゴさんの“いい音楽”にも注目してほしいところ。この人のウィスパーボイスで歌われる「悲しくてやりきれない」が冒頭に置かれることで、本作はいろいろな見方、いろいろな解釈ができる作品になったのではないかと思っています。今年の邦画の絶好調ぶりを念押しするようなタイミングで登場した、本当にかけがいのない作品です。

●第9位:サウルの息子
これもツッコミが入るかもしれません。「音楽、使われてないじゃん!」と。確かに本編はほぼ無音楽ですが、だからこそエンドロールでいきなり流れ出す無伴奏ヴァイオリン独奏曲が胸を打ちます。今年は『アイヒマン・ショー 歴史を映した男たち』『手紙は憶えている』など、ナチスを題材にした作品がいろいろ公開され、特に『帰ってきたヒトラー』は映画・原作ともに日本でも話題に。2017年の1月と2月にはさらにアドルフ・アイヒマンを扱った作品が2本公開予定で(『アイヒマンを追え!ナチスがもっとも畏れた男』『アイヒマンの後継者』)、両作とも当コラムで取り上げる予定です。

●第8位:ダゲレオタイプの女

オールフランスロケ&外国人キャストによる、黒沢清監督の“純フランス映画”。フランス映画然としたトーン、ルックの中で、黒沢監督ならではのスリラー性が展開する異色作です。同じく今年公開された『クリーピー 偽りの隣人』ほどエンタメ寄りではないものの、黒沢作品ならではの映画を見る喜びに満ちています。グレゴワール・エッツェルによる劇伴はオーソドックスながら、“音楽の鳴っていない場面”の緊張感を引き立てまくりです。

●第7位:孤独のススメ
『孤独のススメ』は、気難しい“おひとりさま”が、次第に他者を受け入れていく半コメディ。息子が少年時代に歌ったバッハ「マタイ受難曲」のアリアの録音テープを聴くことを日課にしているという変わり者で、教会音楽のほかイギリスの国民的歌手、シャーリー・バッシーが歌った「This is my life(La vita)」なども聴くことができる、品のいい作品です。オランダの美しい田園地帯や人々をグラフィカルかつミニマルに描くディーデリク・エビンゲ監督の映像もどこかMV的で、一周回って新しく感じるような絵づくりが魅力的。

中編「6位〜4位/小林武史とakkoのDNAを引き継いだ17歳〜」に続く…