『海燕ホテル・ブルー』若松孝二監督インタビュー

鬼才・若松孝二監督が新作の裏話から、原発問題、昨今の日本映画について熱弁!

#若松孝二

僕は45年前から原発反対をずっとやってきているし、映画でもそういうのを撮ってる

7年の刑期を終えた男がある復讐を誓ってかつての仲間たちを訪れるが、謎の美女の魅力に引き込まれて思いもよらぬ出来事に遭遇する異色作『海燕ホテル・ブルー』。

ハードボイルド作家・船戸与一原作のこの映画で、メガホンをとったのが『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程』『キャタピラー』などで知られる若松孝二監督だ。

そんな監督に本作の裏話から、昨年起こった東日本大震災や福島の原発問題、さらには昨今の日本映画界について語ってもらった。

──今回、船戸与一作品を映画化しようと思ったのはなぜですか?

監督:船戸ちゃんとは友だちで、いつか彼の作品を映画化したいなと思っていたので。ただ、船戸さんの原作ってのはみんな金がかかるので、そのなかで一番かからないヤツがこれだったんです。「じゃ、これを僕に頂戴」ってお願いして、それで「何でもいいから好きなのをやりなさい。いいよ」って言われ、これに決めたんです。

──若松監督の映画製作の原点にあたる“怒り”という意味では、本作で原発に関して取り上げるシーンがありましたが、あれも“怒り”という表現で?

監督:あれは僕のなかでの怒りだし、刑務所での酷い実態というのも僕の怒り。ただ、怒りだけでドラマを撮るわけにはいかない。やはりドラマのなかにそういうのを入れるからこそ目立つわけじゃないですか。だから、原発の問題でも刑務所での問題でも、ああいう形で表現したんです。

──監督は宮城県出身ということもありますから昨年の大震災、その後の福島の原発について思われていることがあるかと思いますが。

監督:震災は自然におけるものですから、あれはどうしようもないと思うんですよ。だけど、原発だけは人災じゃないですか。僕は45年前から原発反対をずっとやってきているし、映画でもそういうのを撮ってる。それで、作るんだったらなんで東京湾に作らないんだって、ずっと主張してきたんですよ。それを今さら急にああなったからって(原発反対運動を)売名行為でやっている連中もいっぱいいるんじゃないの? もちろん本気になって怒っている人もいるけれど。なんかそれに乗っかってね、芸能人は特に多いんじゃないですか(笑)。山本太郎さんみたいに、本気でやってる人たちもたくさんいますけどね。

当たり前だと思ってることが、全然違ってるかもしれない、そういう感覚です
──若い女性なのか老婆なのか定かでないシーンや、男たちが片山瞳さん演じる若い女性に魅せられる姿など、非常に幽玄的な作品です。この幽玄的な描写についてお聞かせ下さい。

監督:若い女性に魅せられた男たちっていうより……もしかしたら、あそこに登場している人はみんな現代社会に、あるいは世の中にいない人かもわからないですよ。今だって話している僕がもしかしたら1回死んじゃっているのに、まだこうしてあなた(取材者)の前で喋っているのかもわかんないし、もしかしたらあなたもそうかもしれない。
 これは不思議なもので、目の前の人間は生きているんだとか、人間はこういう形をしているんだってインプットされているから、そう思うのであって。もしかしたら、このなか(監督、取材者、若松プロダクションスタッフ2名)にも死んだ人間がいるのかもしれないでしょ、それは僕にはわからない。僕自身の存在もないかもわからない。当たり前だと思ってることが、全然違ってるかもしれないっていう、そういう感覚ですね。

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──現実と幻ですかね。

監督:幻というか、震災のときだって、同じところにいて助かった人と死んだ人がいる。いろんな不条理なことがたくさんある。そういった自分たちが見ている現実とは、何なのか。その裏側には何があるんだろうかとか、そういうことを考えるんです。
 だから(本作でも)若い娘さんが実は老婆だったのか、それか老婆が実は若い娘になって現れているかもわからない。昔遠い所から連れて来られたって言ってるでしょ、もしかしたら、海を超えて遠い国から身売りされた女性かもしれないんだよ。

──見る側に「これだ」という答えを提示するのではなく、非常に想像力を掻き立てられますね。

監督:猫が死んで悲しいとか犬が死んで悲しいとかね、そういう映画ばっかりじゃ、面白くないよ。余命何日とかさ。僕は1人ひとりがね、いろいろ考えることが映画じゃないかなと。もちろん娯楽ってのもあるけどね。でも、それはアメリカに任せておけばいいじゃないですか(笑)。ドンパチをどんどんやってさ、テロがダメだダメだって言いながらテロの映画ばっかり撮ってるわけだからね。

僕はやっぱり人間が好きだから、人間を撮りたいんですね
若松孝二監督

──ところで、昨今の日本映画に対する思いをお聞かせ下さい。

監督:やっぱりさ、恥ずかしいでしょう? 犬の映画が当たったからって誰も彼も犬とかさ。そんなの撮ったってしょうがないでしょう? それよりも人間撮った方がいいですよ。とにかく、1人ひとりがもっと自由になって、自分の感性でどんどん変わった映画を撮っていくことだと思ってます。

──次作の『11.25自決の日 三島由紀夫と若者たち』にも通じることですが、今の日本人には“恥”という概念が失われつつあります。それが映画界にも出てるのではないか、と。

監督:だから、日本人っていうことじゃなくて、やっぱり日本のアカデミー賞を見てもそうでしょう。本当に作品を選ぶんじゃなくて、なんかもう持ち回りみたいなさ、形。ただお祭り騒ぎをしているだけですよ。なんの心に染みることもない。あれで賞を貰ったからって客が来るわけでも何でもないですから。今年なんか本当に酷いよ。せめて映画を選ぶことくらいは本気になって選んで欲しいよね。

──そうした意味でも本作、そして今年公開を控える『11.25自決の日 三島由紀夫と若者たち』『千年の愉楽』が脚光を浴びて、日本の映画界が正しい方向に行けばいいですね。

監督:正しいとかそういことは、誰が決めるの? そういうことではなくて、お客さんが自由に映画を見てくれればいいんです。僕自身は『千年の愉楽』、相当自信持ってますけどね。役者がいいんですよ、みんな。人間臭くて。三島由紀夫もそうだけど、僕はやっぱり人間が好きだから、人間を撮りたいんですね。『海燕〜』も、ムチャクチャに遊んだような映画だけど、でも、それを「不思議だ」って一緒に楽しんで見てもらえればいいな、と思ってます。贅沢な娯楽ですよ、映画って。

(text&photo=じょ〜い小川)

若松孝二
若松孝二
わかまつ・こうじ

1936年4月1日生まれ、宮城県出身。1963年にピンク映画『甘い罠』で映画監督デビュー。ピンク映画でヒットを量産し、“ピンク映画の黒澤明”とも形容された。1965年には「若松プロダクション」を創設。『水のないプール』(81年)や『エロティックな関係』(92年)など話題作も手掛け、近年では『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程』(07年)がベルリン国際映画祭で最優秀アジア映画賞、国際芸術映画評論連盟賞を受賞。『キャタピラー』(10年)では主演の寺島しのぶがベルリン国際映画祭最優秀女優賞(銀熊賞)に輝いた。2012年は本作をはじめ、三島由紀夫をテーマにした『11.25自決の日 三島由紀夫と若者たち』が6月2日より全国公開予定、中上健次原作の『千年の愉楽』が秋以降に公開予定となっている。

若松孝二
海燕ホテル・ブルー
2012年3月24日よりテアトル新宿ほかにて全国公開
[製作・企画・監督・脚本]若松孝二
[製作]尾崎宗子
[脚本]黒沢久子
[原作・題字]船戸与一
[撮影]辻智彦、満若勇咲
[音楽]ジム・オルーク
[出演]片山瞳、地曵豪、井浦新(ARATA)、大西信満、廣末哲万、ウダタカキ、岡部尚、渋川清彦、中沢青六、水上竜士、山岡一、東加奈子、真樹めぐみ
[DATA]2012年/日本/若松プロダクション、スコーレ/114分
(C) 若松プロダクション