投資案件は失敗続き、膨れ上がる累積赤字———官民コラボのエンタメ事業“クールジャパン”とは何なのか?

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クールジャパン

優秀な才能も次々と海外流出、日本エンタメ界に未来はあるのか?

【日本映画界の問題点を探る/偽りの産業支援・クールジャパンの闇 1】「クールジャパン」なんてもはや“昔の流行語”だと思っている人も多いのではないだろうか。しかし、2013年に設立された官民ファンド「クールジャパン機構(株式会社海外需要開拓支援機構)」にはいまなお多額の公的資金が投じられている。これまでに政府は1000億円以上を出資しているが、昨年度末(2022年3月時点)の段階で、累積赤字は309億円にも及ぶ。当初は華やかな国策として注目を集めたものの、国が主導して行った計56件の投資はほとんどが失敗している。

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同機構を所管する経済産業省では、2025年度を黒字転換目標時期と定め直し、さらに予定より3年遅れとなる2033年度に累積損失の解消を目指す計画であると昨年の11月に発表した。にもかかわらず、対策を講じるどころか、2021年の9月を最後にクールジャパン戦略会議すら開かれていないという異常な状況が続いている。

そもそもクールジャパン機構の狙いは、日本のコンテンツやファッション、日本食、地域産品、観光などの幅広い分野における海外展開やインバウンドの強化に取り組み、外需を獲得することで経済成長につなげていくことだという。しかし、現状では利益を生み出すどころか、年々赤字を積み重ねているだけである。

一部の関係者や政治家によると「クールジャパンの効果はあった」というが、税金を払っている国民のなかで、その効果を認識もしくは実感している人はどれだけいるだろうか。それどころか、経産省が作成した資料を見て感じるように、あえて一般人が理解できないようにしているのではないかとすら疑ってしまうほど非常に複雑な仕組みとなっている。その結果とも言うべきか、国がこれだけの税金を投入して取り組んでいる一大事業にもかかわらず、クールジャパン機構の公式Twitterのフォロワーはわずか160人ほど(2023年3月時点)。それだけでも、話題性のなさと国民の関心の低さが伺える。

そんなまったくクールではない現状に異議を唱えたのは、「日本の映画産業を殺すクールジャパンマネー 経産官僚の暴走と歪められる公文書管理」の著者であるヒロ・マスダ。映像プロデューサーとして、国内外の作品をいくつも手掛けてきた経験を持つ。クールジャパン政策について語るうえで、エンタメは欠かせない事業の一つでもあるが、あまりにも多くの問題が潜んでいることを知り、声を上げずにはいられなかったという。

現に、日本がもたついている間にアジアの映画界では韓国がますます勢いを増し、アニメ業界でもApple がアニメ製作のパートナーとして選んだアイルランドは世界的認知を得るほどのアニメ制作国へと成長を遂げている。いずれも長年の政府支援がもたらした成果だが、それに比べて日本はどうだろうか。

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マスダが著書のなかで怒りを露わにしている事案がいくつかあるが、その一つは2015年にカンヌ国際映画祭で行われたジャパン・パビリオン。世界中の映画人にとって特別な場所であるカンヌの格式を無視し、その場にそぐわないくまモンなどのキャラクターをメインとしたイベントで派手に税金を使っていたという。この例だけでも、産業振興の観点において日本政府がいかに的外れであるかがわかる。

また、ロケ地誘致にもことごとく失敗し、日本が舞台の作品、日本が原案などを生み出した作品に、ビジネスの面で関わることができていない。例えば2013年に公開された映画『パシフィック・リム』では、日本のシーンはカナダで撮影され、日本への経済効果はほとんど無かったにも関わらず、日本文化の発信に貢献したとしてプロデューサーに「クールジャパン表彰」を贈呈した。しかも映画公開にまったく関係ない時期での表彰だったため、世界に向けて日本のコンテンツ力をアピールすることもできず、自己満足のための表彰と言っても過言ではない。さらに続編『パシフィック・リム:アップライジング』に登場する東京のシーンも、日本ではなくオーストラリアで撮影が行われており、ここでもクールジャパン効果が無意味に終わったことがよくわかる。

そのほか、深刻に受け止めなければいけないのは才能の流出だ。アカデミー賞で日本人初のメイクアップ&ヘアスタイリング賞を受賞したカズ・ヒロやハリウッドからオファーが殺到しているHIKARI監督など、優秀な人材が次々と日本から離れて海外を拠点に活躍している。このままでは日本が“エンタメ後進国”となってしまう未来はそう遠くないのではないかという危機感を覚えずにはいられない。

マスダ自身もニューヨークで長年生活をしていた経験があるため、日本と海外との懸け橋になりたいと考えて帰国したというが、さまざまな企画に携わるなかであることに気が付いてしまう。それは、海外の映画製作には当たり前のようにある支援策が日本にはないこと。そして、クールジャパン政策では映画産業で働いている人たちではなく、広告代理店などの関係ないところばかりにお金が渡っていることだと明かす。そこで、具体的な問題点とは一体何なのかについて探っていきたい。(text:志村昌美)

【偽りの産業支援・クールジャパンの闇 2/広告代理店が潤うための“偽りの産業支援”?】に続く

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