ホラーに欠かせない鉈、この上なく使い勝手の良い凶器で試されるセンスとは…

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『デッド・ドント・ダイ』

【第2回】「あれ何なの?」ホラー映画に登場する単語やモノを解説〜丁度良いところにある鉈編〜

【ホラー&オカルト映画のキーワード解説】本コラムでは、ホラー映画やオカルト的要素が含まれる作品、猟奇殺人モノなどで頻出する単語やガジェットを解説していく。

【第1回】「あれ何なの?」ホラー映画に登場する単語やモノを解説〜ゾンビ編〜

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映画に登場する装置がどんな歴史を持っているかや、どのような使われ方をしていたのかを理解しておけば、より一層味わいが深まるというものだ。と断言したが、別に知らなくてもいい知識である。ここまでの口上は第1回の「ゾンビ」と同じ。第2回は「丁度良いところにある鉈」についてあれこれ書いてみようという誰得企画である。

今、「鉈」でグーグル検索をかけたのだが「キャンプで使えるおすすめの鉈16選」とか「【2023年最新】鉈の人気アイテム – メルカリ」などが画面に表示された。鉈というのは16選したり、メルカリでラフに購入したりするものなのだろうか。

試しにAmazonでも検索してみたところ、どうやら日本の鉈の品質は高いらしく、ドイツ語で「Ist den Preis auf jeden Fall wert.(この値段の価値はある)」とか英語圏では「My new favorite hatchet.(最近お気に入りの手斧です)」などと激賞されていた。

日本の技術力に感心してしまって話が進まない

このまま鉈レビュートークでいくらでも引っ張れそうなのだが、芸がないので止めておく。

鉈は斧と同じく、ホラー映画でよく登場するアイテムだ。洋の東西を問わず『13日の金曜日』ではジェイソンが使うし、『デッド・ドント・ダイ』ではアダム・ドライバーが鉈というかマチェーテを駆使してゾンビをぶった切っていた。

『デッド・ドント・ダイ』

『デッド・ドント・ダイ』ジム・ジャームッシュ監督

ちなみに鉈とマチェーテは厳密には違う。そもそも鉈の定義も曖昧なのだが、日本では斧や包丁、鎌、刀剣以外の大型刃物の総称で、日国によれば「短くて、刃が厚く幅の広い刃物。薪などを割るのに用いる」とされている。長さ・厚さ・幅の全てが曖昧すぎる定義なので、鉈とマチェーテは厳密には違うと延べたものの同じとして扱って良いのかもしれない。

ついでに書くとマチェーテは中南米で利用される山刀で、日本では蛮刀とか山刀とか呼ばれている。無茶苦茶雑かつ映画的に見分けるならば、ダニー・トレホが使用している刀がマチェーテで、そうでない刀は鉈である。

「あ、これ使おう」と丁度良い位置に置かれた鉈

映画では、物語やサスペンスを駆動させる道具として、都合良く鉈が配置されることが多い。全ての得物は都合よく配置されていると言えばそうなのだが、抜きん出た都合の良さを発揮しているのは、やはり鉈だろう。

なにせ銃と違って(銃規制が緩い国は除く)山小屋には必ずといって良いほどあるし、農家でも同様だ。低予算映画の舞台になりやすい山や田舎に違和感なく登場できるので汎用性が高い。「山小屋の周辺にゾンビが湧いたので、薪に半分刺さった鉈を抜き、ゾンビの頭をかち割る」といったシーンは容易に想像できるだろう。

アジアで言えば、韓国映画でも手斧や角材と同じく頻繁に登場する。しかも配置されずにチンピラの標準装備として採用されていることが多く、メインとして扱われたり、銃が使用できなかった場合のセカンダリウェポンとして存在感を放っている。ホラー映画でも手斧や鎌と並んで人気の凶器だ。

試されるセンス。斧と鉈のどちらを選ぶか

チェーホフの銃ではないが、物語に鉈が登場したならば、それは振るわれなければならない。あるいは、振るわずとも何らかの形で使われなければならないというのは、劇作のルールである。

しかし、たとえば山小屋を舞台としたホラー映画ならば、鉈でも斧でもどちらでも成り立つだろう。これがダニー・トレホが登場するのであれば「鉈でなければならない」が、「別に鉈でも斧でもどちらでも良い」場合、どちらを採用するかは脚本家や監督、あるいは美術のセンスが問われる。個人的には、周囲に木が生い茂っていて、生えている草の背丈が低い場合は斧、逆のケースでは鉈を選んでいるとセンスが良いと感じる。ホラー映画を鑑賞していて鉈とか斧とかが登場したら、そのあたりのことを考えて見てみると、より面白く映画を味わえるのではと書こうと思ったのだが、ストーリーが頭に入って来ないかもしれない。

[動画]ダニー・トレホがスゴ腕過ぎる!“ひょうたんから駒”なバイオレンスアクション『マチェーテ』予告編

だが「鉈を振るう」という言葉には、薪やゾンビや人間を斬殺する以外にも、予算や人員などを大幅に削って大整理を行うといった意味がある。予算や人員が乏しいホラー映画で使われるアイテムとしては、これ以上ピッタリのチョイスはないだろう。(text:加藤広大/ライター)