中絶が違法だった時代のフランスで予期せぬ妊娠をした大学生が、自らが願う未来をつかむためにたった一人で戦う12週間を描いた『あのこと』が公開中。監督のオードレイ・ディヴァンと、主演のアナマリア・ヴァルトロメイが来日し、「フランス映画祭2022横浜」上映後のQ&Aと初日舞台挨拶で本作について語った。
・望まぬ妊娠をした女子大生…中絶できない状況の中、未来を掴むため彼女が取った命懸けの方法は
堕胎シーンの撮影では「いざセットに上がると戸惑ってしまいました」
2021年ヴェネチア国際映画祭での最高賞受賞を皮切りに、世界の映画賞を席巻した本年度最大の話題となっている本作。舞台は1960年代、法律で中絶が禁止され、処罰されていたフランス。望まぬ妊娠をした大学生のアンヌが、自らが願う未来をつかむために、たった一人で戦う12週間が描かれる。
自身も中絶経験者だというオードレイ監督は、「いまだに女性の中絶が違法である国は沢山あるし、合法であっても中絶を批判する国も多い。合法化されている現在のフランスでも中絶に批判的な意見を持っている人が多いことを痛感します」と本作制作の上でも厳しい現実を目の当たりにしたという。
アンヌの感情などを説明的に語らない主観的演出スタイルを選択した理由については、「登場人物を通してその時代が見える作りを意図しました。1960年代のストーリーですが、アンヌを通して物語に普遍性を与えたいと思いました」と狙いを説明するオードレイ監督。
さらに世界各国の映画祭で高く評価されたことについてオードレイ監督は、「この映画を作るための資金集めには大変苦労しましたが、各国の映画祭で賞を受賞したことでフランス以外でも映画を上映することができて、このように私たちも様々な国の観客の感想を聞くことができました」と嬉しそうに話す。
続けてアンヌの主観を思わせるようなカメラワークや演出について、「こだわったのは、アンヌが生きている時間を追うような形で時間の流れを見せること。観客も一緒にアンヌの経験していることを実感できるような形を目指しました。皆さんがどのように感じられたのか…。感想を聞きたいです」と言うと、客席からは拍手喝采。オードレイ監督は安心した表情を見せた。
堕胎シーンなどショッキングな場面も演じたアナマリアは、「たとえ厳しい場面でも温かいチームに囲まれ、私のことを尊重してくれるスタッフばかりでした。オードレイ監督もパートナーであり味方で、いまだかつてなく自由にありのままに演じることができました」とチームと監督への感謝を伝える。
堕胎シーンの撮影では、「いざセットに上がって見ると戸惑ってしまいました。するとオードレイ監督は鏡のように私と向き合ってくれて、必要な動作を見せてくれました。私はそれを真似ることで監督に導かれるような感覚で演じ切ることができました」と振り返ったアナマリア。するとオードレイ監督は、「私は撮影をしながら涙を流してしまい、録音技師から『うるさいなあ。離れてくれよ』などと注意されました」とジョークを交えながら感極まった撮影を回想した。
最後に主演のアナマリアは、「映画は答えを出すものではなく、質問を投げかけるもの。この映画が皆さんにどのような質問を投げかけることができるのか、興味津々です」と大ヒット祈願。オードレイ監督も、「原作者のアニー・エルノーが歩んだ道は自由獲得への道です。皆さんもこの映画を通してどのように自由を獲得していくのかを考えてほしいです」とアピールした。
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