【週末シネマ】愛とはこんな形なのか。見えないものを見た気にさせるラブストーリー

『リアル〜完全なる首長竜の日〜』
(C) 2013「リアル〜完全なる首長竜の日〜」製作委員会
『リアル〜完全なる首長竜の日〜』
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『リアル〜完全なる首長竜の日〜』
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『リアル〜完全なる首長竜の日〜』
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『リアル〜完全なる首長竜の日〜』

8月開催のロカルノ国際映画祭への出品が決まった『リアル〜完全なる首長竜の日〜』。乾緑郎原作の「このミステリーがすごい!」大賞作を佐藤健と綾瀬はるかを主演に迎えて映画化、自殺未遂で昏睡状態に陥った恋人の意識の中へ入っていく青年の彷徨を描く。極限状態のラブストーリーであり、命がけで恋人を救おうとする若者の意識下の冒険を描くファンタジーであり、黒沢清監督が言うように「人の心の中を撮影することはできないという原則に挑戦」した野心作だ。

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主人公・浩市は、昏睡状態の患者と意思疎通ができる<センシング>という最新医療を頼り、幼なじみで恋人の淳美の脳内へ入っていく。人の頭の中のとりとめのなさとは、まさにこんな状態ではないか。2人が共に暮らす、見慣れたはずの空間がどこかおかしい。壁があったり、なかったり、ペンが宙に浮いて回転したり、紙に描いた絵が実体となって現れたり。センシングによって、ようやく“再会”した淳美は「ここは私の意識の中でしょ。だからどうにでもなるんだ」と禍々しい微笑を湛えていう。

眠り続ける彼女を何とか覚醒させたいと訴える浩市に、淳美は「首長竜の絵を探してきて」と頼む。現実に戻って絵を探しながら、何度もセンシングのセッションを繰り返すうち、浩市にとっての仮想と現実がどんどん曖昧になっていく。目覚めている、と思い込んでいる夢の中なのか? そんな心がざわつく疑念や違和感が常に画面を支配するなか、絵を探す過程で浩市と淳美が15年前に封印した記憶が浮上してくる。

収まりの悪さというエンターテインメント。『リアル』を名乗りながら、「嘘だろ……」と登場人物が思わず呟く不意打ちがこの映画には何度となく訪れる。堂々と、常識ではあり得ないことをやってのける。主人公たちの不安定な状態を、観客は高みの見物ではなく2人と同時に実感するのだ。戸惑い続ける浩市と、苦しみながらも行動に迷いのない淳美。役柄と演じる役者の持ち味が見事に合致し、ここはしっくりと収まりがいい。役者がはまるから、観客も登場人物の感覚を共有する。

キャスティングの的確さは、オダギリ ジョー、松重豊、小泉今日子、中谷美紀、とこれまで黒沢作品で主演をつとめた役者が揃う脇役からも感じる。センシングを担当する女医役の中谷が昏睡状態の患者の病室に忍び込み、「こんばんは……」と枕元でささやく表情には親身な優しさと微かな異様さが漂う。堀部圭亮と2人、大仰な機械を駆使するマッドサイエンティストぶりが絶妙だ。

黒沢にとって長編映画は『トウキョウソナタ』(08年)以来、5年ぶり。その間に“2011年3月11日”があったことを想起させる点もある。佐藤や松重が演じるキャラクターの言葉や、凄まじい破壊力を持って登場する首長竜の担う役割は、これまでの黒沢作品にはないわかりやすさで現代社会へ警鐘を鳴らし、物語に寓話的作用をもたらす。だから、首長竜の登場で突如怪物パニック映画になるその時、こちらは「もっとやれ、もっと暴れろ」と思う。太刀打ちできない怪物と懸命に闘う浩市と淳美のおとぎ話の主人公のような健気さは、姉弟という原作の設定への目配せにも思える。

だが、これは何といっても愛の物語なのだ。甘いささやきを交わすよりも身を挺して相手を守り、救おうとする献身の“愛”もまた、撮影できないもののはず。だが、確かに見た気にさせる。魔力を持つラブストーリーだ。(文:冨永由紀/映画ライター)

『リアル〜完全なる首長竜の日〜』は6月1日より全国東宝系にて公開される。

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