【この俳優に注目】プロデューサーとしても才能を発揮! 気骨溢れるイクメン俳優

ブラッド・ピット
ブラッド・ピット

ブラッド・ピット

第86回アカデミー賞で、同賞史上初の黒人監督の作品賞受賞作となった『それでも夜は明ける』。登壇したスティーヴ・マックイーン監督がまず感謝の意を表したのはプロデューサーであり、出演者でもあるブラッド・ピットだった。

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実際、この作品はブラッドの存在なくしては実現すら危ぶまれたものだった。リンカーン大統領による奴隷解放以前の19世紀半ばのアメリカで、自由黒人として白人と変わらぬ生活を送っていた男性が言葉巧みに騙されて拉致され、南部の農園で奴隷生活を送った12年間の実話の映画化だ。アメリカの負の歴史を手加減なしに描こうとすれば、出資はなかなか集まらない。そこでブラッドは自身も出演することを出資者への説得材料とし、その結果、製作費調達に貢献、登場時間は多くないものの物語を大きく動かす重要な役を演じた。

奴隷を人間扱いしない白人ばかりが出てくる中で唯一、百パーセント主人公の味方という設定は「プロデューサーが一番の儲け役」と言われたりしているが、誰がやっても浮いてしまうキャラクターで、むしろ損な役回りともとれる。マイケル・ファスベンダーが演じて助演男優賞候補となった残虐な農園主役の可能性もあったというが、監督のお気に入り俳優であるファスベンダー(監督の過去2作で主演)に花を持たせて丸くおさめるのもプロデューサーらしい決断だ。

『それでも夜は明ける』や昨年の主演作『ワールド・ウォーZ』、実在のアメリカプロ野球チームのGMを演じた『マネーボール』(11年)などの製作会社「プランB」はもともと、彼が以前の婚約者だった女優のジェニファー・アニストンらと2002年に共同で設立したが、2006年にジェニファーと破局後はブラッド個人の会社となり、現在は『それでも夜は明ける』のプロデューサーに名を連ねるデデ・ガードナー、ジェレミー・クライナーと経営にあたっている。

オスカー受賞作『ディパーテッド』(06年)や現在婚約中のアンジェリーナ・ジョリー主演の『マイティ・ハート/愛と絆』(07年)、『キック・アス』シリーズ(10年、13年)や「glee/グリー」のライアン・マーフィー監督のデビュー作『ハサミを持って突っ走る』(06年)など、自身が出演しない作品も次々と製作、名プロデューサーに不可欠な選択眼に磨きをかけていった。

ブラッドはまた、『Mr.&Mrs.スミス』(05年)の共演が縁で交際が始まったアンジェリーナと共に、実子と養子6人の子どもを育てるイクメンであり、アンジェリーナが昨年、がん予防目的で両乳房切除手術を受けた際の献身的なサポートぶりも完ぺきだった。

長年交際し、昨年婚約したアンジェリーナとすぐに結婚しない理由は、アメリカの全州で同性婚が認められるまではしないと決めたから。ユニークな私生活は常に注目の的だが、パパラッチの攻勢も適度にかわしつつ、自身の名声を、作りたい映画、出演したい映画を製作するために利用する合理性は見事だ。

父親になると突然、わが子が喜ぶような子ども向け、家族向けの映画に出演し始める俳優もいるが、ブラッドはアニメの『メガマインド』(10年)と『ハッピー フィート2 踊るペンギンレスキュー隊』(11年)に声の出演をしたくらいで、ほかは『イングロリアス・バスターズ』(09年)、『ツリー・オブ・ライフ』(11年)、あるいは『悪の法則』(12年)など、暴力的だったり、万人受けはしない難解な作品を積極的に出演作として選んでいるのも面白い。

『テルマ&ルイーズ』(91年)や『リバー・ランズ・スルー・イット』(92年)で輝く美貌を披露した20代こそがピークだと誰もが思っていた。だが、どうだろう。40代で『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』(08年)と『マネーボール』でアカデミー賞主演男優賞候補となり、『ツリー・オブ・ライフ』は第64回カンヌ国際映画祭で最高賞パルム・ドールを受賞、昨年12月に50歳になり、年が明けてからは『それでも夜は明ける』でゴールデン・グローブ賞、アカデミー賞などで作品賞に輝いた。

ただのイケメン俳優ではなかった。関わる作品のなかに、社会にはびこる偏見への批評をしのばせ、因習にとらわれない自由な生き方をする。もちろん親として、大人としての責任をきっちり果たしながら。俳優としても、プロデューサーとしても、その進化は勢いを増している。(文:冨永由紀/映画ライター)

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