目の前の殺人を止めようともしない報道陣への痛烈な批判が響き渡る

#映画レビュー

「アイ・キャント・スピーク・ファッキン・ジャパニーズ」
「アイ・キャント・スピーク・ファッキン・ジャパニーズ」

…前編「高畑淳子への怒りも収まらず〜」に続く…

【男達の遠吠え】『コミック雑誌なんかいらない!』後編
「アイ・キャント・スピーク・ファッキン・ジャパニーズ」

1986年に公開された『コミック雑誌なんかいらない!』のメガホンをとったのは滝田洋二郎。後に『おくりびと』でアカデミー賞外国語映画賞を獲得し、世界的な評価を受けることとなるが、当時は『痴漢電車 下着検札』など数々のピンク映画の快作を発表し続けてきた滝田監督の一般映画初進出作となる。同作で内田が演じるのは、ワイドショーの芸能リポーター、キメナリ。「恐縮です」と言いながら、有名人に直撃リポートを敢行してきた彼は、世間でも顔を知られるちょっとした有名人ではあったが、一方でそんな彼のことを軽蔑の目でさげずむ者も多かった。

それでもロス疑惑、ヤクザの抗争、日航ジャンボ機墜落事故、おニャン子クラブ、風俗店取材など数々の現場をリポートしていくキメナリ。けんか上等。時には対象と小競り合いとなりながらも遠巻きに見ているカメラマンに対しても「早く撮れ!」と叫ぶことも。時折、笑顔を見せても、どこか腹に一物を抱えたような表情の内田が妙な存在感を見せる。

そんな中、金の先物取引の詐欺事件を起こした会社の会長が逮捕直前とのことで、キメナリたちは会長宅にリポートに行くことになる。現場は大勢の報道陣で騒然。「あんたは愛人のケツでも追っかけた方がええんやないか。えらいべっぴんらしいからな。ははは」と、同業者にさえも軽く見られる始末。そんな中、2人組の男がその報道陣をかき分けてやって来て、会長宅の自宅の窓を壊し、部屋に侵入。中で殺人が行われる様をテレビカメラがお茶の間に中継したという実際に起こった事件、いわゆる豊田商事会長刺殺事件を再現した部分がクライマックスとなっている。

目の前で殺人が行われようとしているのに、その現場を止めようとせずに撮影を続ける報道陣。それを目の当たりにしたキナメリは、現場に飛び込む。それは正義感に目覚めたからなのか、それともリポーターとしての功名心からなのか。そして事件後、腹に傷を抱え、表に出てきたキナメリを報道陣が囲む。「中で何が行われていたんですか?」。しかし何もしゃべらないキメナリに対して「お願いしますよ。一言でいいんですよ」「ヒーロー気取りかよ」と報道陣。するとキメナリは一言。「アイ・キャント・スピーク・ファッキン・ジャパニーズ」。そのメッセージは現代にもビンビンに響き渡る。

INTERVIEW