『オフィシャル・シークレット』キーラ・ナイトレイ インタビュー

イラク戦争を止めるために勇気ある告発をした実在の女性を熱演

#オフィシャル・シークレット#キーラ・ナイトレイ#ギャヴィン・フッド#戦争#政治

キーラ・ナイトレイ

政府の倫理観と行いに疑問を持つべきだとこの作品は訴えかけてくる

『オフィシャル・シークレット』2020年8月28日より全国公開
Photo by: Nick Wall (C)Official Secrets Holdings, LLC

2003年、イラク戦争開戦の機運が高まる中、米国と共同歩調をとる英国の政府通信本部(GCHQ)で働くキャサリン・ガンは、米国の国家安全保障局(NSA)から衝撃のメールを受け取る。イラクを攻撃するために違法な工作活動を促すその内容に強い憤りを感じた彼女は、メールをマスコミにリーク。それは記事となり、キャサリンは自分がリークしたと名乗りでるが、その告発も虚しく、イラク侵攻は開始され、彼女も公務秘密法違反で起訴されてしまう……。

『オフィシャル・シークレット』は、後にキャサリン・ガン事件として政治問題となった実話を描いたポリティカル・サスペンス。現代のドローン戦争の世界を描いた『アイ・イン・ザ・スカイ 世界一安全な戦場』(15年)が高い評価を得たギャビン・フッドがメガホンをとり、イギリスを代表する女優に成長したキーラ・ナイトレイが主演を務める。

事件当時17歳だったナイトレイは、キャサリン・ガンのことを知らなかったが、今までにない役どころに興味を持つと同時に、世に広く知ってもらうべき真実だと感じて役を引き受けたという。そんな彼女に、作品への想いを語ってもらった。

──事件が起きた当時あなたは17歳でしたが、覚えていましたか?

ナイトレイ:当時、私は撮影でアメリカにいたから事件のことは覚えていないの。作品内でも触れているけれど、アメリカでは報道されなかったのよ。記憶にも残っていない現代史の重要な部分を担う出来事に大きな興味を抱いたわ。語るべき、そして表に出すべき重要な物語だもの。

──キャサリンの役はどのようにアプローチしましたか?

ナイトレイ:事件を記した本作の原作ともいうべきマーシャ&トーマス・ミッチェルの「The Spy Who Tried to Stop a War(原題)」を読み、「チルコット・レポート」の重い内容も読んだわ。今では誰もが閲覧できる、当時の政府の電子メールにも目を通した。それがシーンを演じる時に必要な背景を与えてくれたの。その知識から、おそらくキャサリンはその文書をリークすることは正しい行いだと確信していたのだと思ったわ。そしてキャサリン本人にも会ったの。でも彼女はかなり難しい立場にいたから、彼女に事件について話してもらうのは簡単なことではなかった。事件のことについて質問しても、彼女は今でも国家機密保護法の縛りの中にいる。私はジャーナリストではなく女優だから、彼女が話してもいいと思う以上のことを教えてくれと無理強いできる立場にはなかったけど、ギャヴィン監督がすでに彼女に取材をしていて、すべての真実は脚本にあったわ。

──映画で描かれるキャサリン・ガンの道義心について、どう思われますか?

ナイトレイ:彼女は良心に従ったけれど純真な心は失われたわ。メールを見て、違法な行為だと気づいたのよ。実際にそのメールのせいで多くの人が命を落としたわ。彼女は違法に気づき、間違いを正そうとする。公にすればすべて解決すると信じていたの。でも残念ながら世間はそんなに甘くなかった。歴史的な大事件を描いた作品だけど、人間の普遍的な部分も描かれている。人には大人になるべき瞬間が必ず訪れる。白と黒がすべてではない。間に灰色の部分が存在するの。

──映画ではキャサリンを中心としながら、その周囲の人々の物語も描かれています。

ナイトレイ:キャサリンの物語は彼女1人の考えで展開していくの。誰にも相談せずに決断するから、家族にも影響が出てしまう。そして本来これはキャサリンひとりの物語だけれど、記者やメディアの物語が作品をドラマチックにしているのよ。

──この物語を伝えるべきだと感じた理由はなんですか?

ナイトレイ:歴史書に残すべき大事な物語だと思ったから出演を決めたの。作品には愛情を込めたわ。私たちは事件を覚えていなかったけれど、忘れてはいけない事件ね。そして、この映画には2つの見方があるから面白いと思ったわ。アメリカとイギリスの政府の不正を暴露して多くの命を救った彼女は正しいという考える人もいれば、諜報機関の職員である彼女は機密情報を守るべきだったと考える人もいると思う。どちらも間違いではないし、映画を見てぜひ誰かと話し合ってみてほしい。

──監督のギャヴィン・フッドとの仕事はいかがでしたか?

ナイトレイ:仕事しやすかったわ。何よりも彼はとても人がいいの。監督なのに珍しいわよね(笑)。それにエネルギッシュだわ。やれるものなら全部1人で演じたかったはず。メイクから衣装まで、1人でやりたかったと思う。彼の経歴を見れば分かるけれど、この世界が好きなのね。政治に強い関心があって、高い倫理観もあり、弁護士だったし兵役もしていたから知識も豊富なの。信念を持って作品に取り組んでいるわ。この物語を絶対的に信じているし、全く恐れてないの。

──最後に、作品を見た人へメッセージをお願いします。

ナイトレイ:良心と倫理観について描かれた物語よ。深刻な疑問を投げかけてくるわ。良心を持つ人は諜報員にはなれないのかも。でも本当にそれでいいの? たとえ政府が不正を行っていたとしても、諜報員はその情報を公にすることはできない。なぜなら逮捕されるから。でも、それでいいの? 政府は不正を行っても法を免れてしまう。本当にそれでいいのかしら? 政府の倫理観と行いに疑問を持つべきだとこの作品は訴えかけてくる。どんな意見を持っていても、面白い討論になると思うわ。イギリスの国民もアメリカの国民も、どの国の人も同じ。政府が正しいかどうか、疑問視することが大切よ。

キーラ・ナイトレイ
キーラ・ナイトレイ
キーラ・ナイトレイ
Keira Knightley

1985年3月26日生まれ、イギリスのロンドン出身。舞台俳優の父と劇作家の母を持ち、7歳でテレビに初出演、9歳で映画デビューを果たす。1999年に『スター・ウォーズ エピソード 1/ファントム・メナス』で、ナタリー・ポートマン演じるアミダラ王女の影武者を演じて注目される。『ベッカムに恋して』(02年)を経て、『パイレーツ・オブ・カリビアン/呪われた海賊たち』(03年)のヒロインを演じ、一躍スターに。『ラブ・アクチュアリー』(03年)、『プライドと偏見』(05年)、『つぐない』(07年)、『わたしを離さないで』(10年)、『はじまりのうた』(13年)、『イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密』(14年)、『コレット』(18年)など数多くの話題作に出演している。