『四十九日のレシピ』永作博美インタビュー

悩みを抱えたヒロインの一歩を真摯に語る

#永作博美

静かな一歩を踏み出す女性、そして人によって変えられた人を作りたかった

伊吹有喜の同名ロングセラー小説を、気鋭監督タナダユキが映画化した『四十九日のレシピ』。

突然逝ってしまった母・乙美。悩みを抱えたまま、帰郷した娘・百合子(永作博美)は、父・良平(石橋蓮司)の前に現れた不思議な少女・イモ(二階堂ふみ)、日系ブラジル人のハル(岡田将生)と共に、母の遺言である“四十九日の大宴会”開催を目指すことになる。

母が遺したレシピに導かれ、明日への一歩を踏み出そうとする等身大の女性を静かに熱演する永作が、百合子について、家族について想いを語った。

──映画版の脚本を読まれての第一印象を教えてください。

永作:難しいなと思いましたね。何か大きなことが起こるわけでもなく、百合子はただただじっとしながら、人に変えられる人物だったので。自分で動ければ手ごたえみたいなのは分かるんですが。ただこれは新しい挑戦でもあると。だから確実に静かな一歩を踏み出す女性を作りたい、そして人によって変えられた人を作りたかったです。

──自分から何かをする人ではなかったということですが、百合子を演じる上で心掛けた点をもう少し教えていただけますか。

永作:とにかくまじめさですね。すごくいい子で育ってきた感じ。それも自分の意思で。品行方正というか。でも結局そのことによって頑なになって。人を寄せ付けないというか。抽象的ですけど、そういうイメージですかね。受け身ならばまだしも、百合子の場合は、受けもしないでとにかくただ立っている。その頑なさが一段と難しいと感じました。それが、人が入ってくることによって彼女の心は溶かされていくんです。イモちゃんが来るのを待ち、ハルが来るのを待ち。ふたりが来たことで、どんどん変わっていくのが見えればいいなと思いました。

──百合子の母は実は後妻で、百合子とは血のつながりがありませんよね。それも、物語に深みを与えていますが、そんな母、そして父に対する思いをどうとらえましたか?

永作:1番にあるのは、お母さんに対して抱えている想い。表面的には仲良くしてきたと思うんです。でもどこかでお母さんとして認めていなかった部分がある。その隙間を絶対にお母さんも分かっていたと思うし、百合子自身も分かっていてわからないふりをして過ごしてきたんじゃないかな。それが正直な気持ちを何も言えないまま、突然、お母さんがいなくなってしまった。そのぽっかり感、隙間感を伝えたいなと思ってました。お父さんに対しては、とにかく好きじゃない(笑)。生まれたときから思ってたんだけど、好きじゃないの! みたいな感じでいいと思ってました(笑)。

石橋蓮司さんとの距離感は不思議と違和感がなかった
永作博美

──でも良平お父さんと百合子は似たところがありますよね。

永作:たぶん似た者同士だから嫌いなんです。腹が立つんです。頑固なところとか、めちゃくちゃ似てますもん。この物語は難しいことではなくて、すごく単純なことの積み重ねで構成されていて、それがつまりリアリティなんですけれども。原作を読んでいるとすごくそれが分かるんですが、映画にするにはどうしても多くを削る必要がある。それをリアルにやろうとしたとき、上手く伝わるのかが心配でした。何も起こらないリアリティを作るのが1番難しいというか。

──でもその空気はすごく伝わりました。

永作:それは岐阜のあの風景やセットに助けられたんじゃないでしょうか。

──風景やセットの力に寄るところは大きいですか?

永作:大きいと思います。あぁ、こういう環境で百合子は育ったんだなとか感じますし。地方なんかだと特にそうですね。今回は原作になるべく近づけたいという制作側の意思もあって、名古屋から数分くらいで着けるちょっとした田舎で、さらに川があるところというのを探していて。それで瑞浪市になったんですけど、そこの空気を借りるわけですから。大きいと思いますね。美術もすごくステキでした。

永作博美

──おいしそうなレシピがたくさん登場しましたが、印象深かったものは?

永作:特に印象深いのはちらし寿司でしょうか。実は私、ちらし寿司ってあまり好んで食べてこなかったんです。でもビックリするくらいおいしくて。みんなお代わりして、本番も普通に食べてて(笑)。好きじゃなかったものを、普段の食事以上に食べてしまうくらいおいしいものを、フードコーディネーターのなかしまさんが出してくれました。

──タナダユキ監督の印象を教えてください。

永作:結構チャレンジャーなイメージがあったんです。最近の作品のイメージかもしれないですけど。どういう演出をされるのか。同性として監督として立たれている感じも楽しみでした。実際にお仕事をしてみて、客観的にいろんなものを見ている方だと思いました。

──百合子を取り巻く登場人物が非常に個性的でした。特にお父さん役の石橋蓮司さんとの距離感は絶妙でした。

永作:ふたりの距離感は自然にああなりました。気が合ったんだと思います。蓮司さんと私の。おこがましいですが。不思議と違和感がなかったんですよね。お父さんというのが。蓮司さんも最初から違和感がなかったとおっしゃってくださっていました。ただ蓮司さんは良平をやるのに最初戸惑いがあったようです。いつもはアクションが多い役なので、こんなにお父さんお父さんした役をやったことがない。なぜ俺に渡したんだろうって、現場でも台本を見ていました(笑)。でも結果的に、本当に素敵なお父さんになってましたよね。

自分の意思で立っているように見える人はかっこいい
永作博美

──蓮司さんのお父さんには可愛らしいところもありました。

永作:そうなんですよ。可愛いですよね。ずるいんですよ(笑)。普段がまた非常にお茶目な方で。現場を明るくしてくださる、ああ見えて(笑)ムードメーカーなんです。

──永作さんご自身はお父さんにイラっとする気持ちに共感する部分はありましたか?

永作:それが私は、うちの父が本当にどうぞ好きなように生きてくださいっていう人で。あまり怒られたことがないんですよ。だから嫌いになったこともないし、ずっと大好きなんです。父親に対する感覚というのは百合子と重なる部分は全くありませんでした。

──四十九日の大宴会に向けて、百合子はお母さんの人生年表を作って埋めていこうとしますが、永作さんが自分の人生年表を書くなら、最初に何を書き込みますか?

永作:難しいけど……。誕生を書くかな。両親の名前、家族の名前を書いて、博美誕生!って。まずは家族の名前を書く感じですね。

──家族(血が繋がらない関係も含む)という存在をどう考えますか?

永作:作っていくものだと思います。たまたま家族になったと思ったほうがいいかもというか。もちろん必然はあるんでしょうけれど、必然を求めるより先に、まず一緒に理解しよう、一緒に暮らしていこう、一緒に時を過ごしていこうということを考えて進んでいくものじゃないかなと思うし。今、自分自身が家族を作っているからそう思うのかもしれませんが。

永作博美

──最後、百合子がいい女になったように映りました。永作さんにとってのいい女像とは?

永作:私、男とか女とかって関係なくて。しっかりその人が自分の意思で立っているように見える人がかっこいいと思いますね。そこにちゃんと意思がある人というか。あとは決断ができる人。
 百合子に関しては、今まで一度も自分で大きな決断をしてこなかったような印象があったんです。だから結局、抱え込んで八方塞がりになっている。もちろんいい子で生きてきたということも、一因かもしれないけれど、私には幼稚にも映った。でもそれがまたリアルで。その百合子に何かしら、外部からの人が入ることでちょっとずつ開かれた百合子になっていく。ふたりの堕天使(イモとハル)によって(笑)。頑張って、自分と向き合うってキツイこと。言葉じゃ説明できないけれど、でも、百合子の変化が見る方に伝わればいいなと思っています。

(text&photo=望月ふみ)

永作博美
永作博美
ながさく・ひろみ

1970年10月14日生まれ、茨城県出身。1989年、乙女塾の1期生としてデビュー、アイドルグループ「ribbon」として人気を博す。1993年、劇団☆新感線の公演で初舞台を踏む。テレビドラマでは『ひとり暮らし』(96年)、『週末婚』(99年)、『さよなら私』(14年)などに出演。映画では、高い評価を得た『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』(07年)を経て、『人のセックスを笑うな』(08年)では松山ケンイチ演じる19歳の学生を魅了する39歳の人妻を演じ、大人のかわいらしさに注目が集まる。その他の映画出演作に、『八日目の蝉』(11年)、『さいはてにて 〜やさしい香りと待ちながら〜』(15年)、『ソロモンの偽証 前篇・事件/後篇・裁判』(15年)など。

永作博美
四十九日のレシピ
2013年11月9日より新宿バルト9ほかにて全国公開
[監督]タナダユキ
[脚本]黒沢久子
[原作]伊吹有喜
[出演]永作博美、石橋蓮司、岡田将生、二階堂ふみ、原田泰造
[DATA]2013年/日本/ギャガ

(C) 2013映画「四十九日のレシピ」製作委員会