沢田研二×菅原文太×長谷川和彦監督による1979年の怪作は、太陽のように眩しかった

#レビュー#太陽を盗んだ男#沢田研二#菅原文太#週末シネマ#長谷川和彦

『太陽を盗んだ男』
『太陽を盗んだ男/4Kデジタルリマスター』
(C)1979 TOHO CO., LTD. / Tristone Entertainment, Inc.
『太陽を盗んだ男』
『太陽を盗んだ男/4Kデジタルリマスター』
『太陽を盗んだ男』
『太陽を盗んだ男/4Kデジタルリマスター』
『太陽を盗んだ男/4Kデジタルリマスター』
劇場では、1979 年公開当時に販売された劇場パンフレットの【復刻版】を発売。

『太陽を盗んだ男/4Kデジタルリマスター』が2週間限定公開

【週末シネマ】中学の理科教師が自宅で原子爆弾を作り、政府を脅迫する。最初に突きつけたのは「テレビのナイター中継を最後まで放送しろ」という、意表をつく要求だった。1979年に公開されたカルト作、長谷川和彦監督、菅原文太と沢田研二主演の『太陽を盗んだ男』が、4Kデジタルリマスター版として10月16日から2週間限定公開中だ。

・沢田研二という名優、妖艶なスターで在りながら自然に物語を生きる才能

城戸誠(沢田研二)は、無気力な中学教師。ところかまわず、仕事中でも風船ガムを膨らませて居眠りしてばかりなのには理由があった。街で買い集めた日用品を使って夜な夜な原子爆弾製造に明け暮れていたのだ。

『太陽を盗んだ男』

(C)1979 TOHO CO., LTD. / Tristone Entertainment, Inc.

城戸はたった1人で東海村の原子力発電所からプルトニウムを盗み、アパートの一室で原爆を完成させると、それを国会議事堂の女子トイレに置き、「9番」と名乗って国を脅迫する。要求はナイター中継の延長、ドラッグ問題で入国不可能と言われていたローリング・ストーンズの来日公演と、身構えた国側が拍子抜けする内容だった。城戸は交渉相手として、警視庁の警部・山下(菅原文太)を指名する。

二人には、城戸が生徒を引率していた遠足のバスが武装した老人に乗っ取られて皇居に向かった際、交渉役を務めた山下と機転をきかせて事件を収束させた経緯があった。山下は相手の正体を掴めないまま、大金を白昼の銀座でばら撒くように要求するなど、体制を翻弄する「9番」を追い続ける。

『太陽を盗んだ男/4Kデジタルリマスター』

(C)1979 TOHO CO., LTD. / Tristone Entertainment, Inc.

ジュリーが華やかさを消してパッとしない教師を見事に演じた

沢田研二は当時、歌手として「勝手にしやがれ」「カサブランカ・ダンディ」など大ヒットを連発する最盛期。長い髪のジュリーそのままの姿で華やかさだけを消し、パッとしない教師の風情に収まる。とはいえ、変装も得意なその芝居心はどこで培ったのかと思ってしまうが、曲ごとに変身していた当時のジュリーと城戸の見事な融合だ。

隠し撮りにゲリラ撮影、無鉄砲な撮影は気概の産物

無鉄砲な撮影は伝説になっている。皇居前のバスの突進は無許可の一発撮り。妊婦に扮した沢田が国会議事堂に入る場面も隠し撮りだった。当時大学生だった『黒牢城』の黒沢清監督は制作進行を務めていたが、劇中で使う偽札をばらまいたゲリラ撮影をめぐって警察に逮捕されたという。今の時代なら、どれか1つだけでも不謹慎だと大炎上し、公開中止や自粛に追い込まれてしまいそうだが、全ては堂々と1本の映画に盛り込まれ、東宝配給で公開された。長谷川監督と同じく広島出身の西川美和監督は、自著のエッセイ集「ハコウマに乗って」の中で本作を取り上げ、「法律、警察、なんぼのもんじゃい」という気概の産物と想像していて、筆者も同意する。

原案はアメリカ人のレナード・シュナイダー

原案はアメリカ人の脚本家レナード・シュレイダー。『タクシー・ドライバー』の脚本を手がけた映画監督ポール・シュレイダーの兄だ。当初は痛快な活劇の要素が濃かったが、胎内被爆者である長谷川の発案で、主人公が製造中に被曝する設定となった。

それでも全体のトーンは重苦しくはなく、大それたことをしでかしながら、実は要求するものなど何もない空っぽな青年の虚無を乾いた笑いを交えながら描いている。

『太陽を盗んだ男/4Kデジタルリマスター』

『太陽を盗んだ男』を制作中の長谷川和彦監督
(C)1979 TOHO CO., LTD. / Tristone Entertainment, Inc.

成人の大半が戦争経験者だった1979年という時代

製作時から半世紀近く経った今、あらためて強く感じるのは1979年という時代だ。1956年に「もはや戦後ではない」と言われてから20年以上経過していたが、成人の大半は戦争経験者だ。体制側の大人たちは分からず屋だが、若者の暴発を恐れつつも根本には自由を尊ぶ精神があったように見える。

山下の名前が「満州男」というのも、時代を感じる。山下は体制側でありながら、知性と狂気が入り混じり、蛮勇は城戸を凌駕するほど。菅原文太は、城戸と対照的な山下の荒々しい強さを体現する。北村和夫や神山繁といった助演の名優、わずかな出演の水谷豊や西田敏行も印象的だ。

奇しくも本作公開の同日には、先述の西川美和監督の最新作『わたしの知らない子どもたち』が公開される。

2本の映画には重なるものがある。とある場面で、「9番」が愛聴するラジオ番組のDJ・零子(池上季実子)が城戸にかけるその言葉を、戦争孤児たちを描く『わたし~』では、孤児の少年・将吉が、行動を共にしてきた同じ境遇の主人公の少女・琴子にかけている。

筆者には、どちらの男女も淡い恋愛にも似ていながら、性別を超えた共犯感情で結ばれているように映った。自分には叶わない何かを相手に託す。時代も題材も異なるが、どちらも戦争の記憶に連なる作品であり、共通する一言には同質の切実さが込められている。

今を生きる身には、この映画は懐かしく、眩しい

長谷川監督は今年1月に亡くなり、劇場映画は『青春の殺人者』(1976年)とこの作品の2本だけを残した。

4Kで鮮やかに甦る、今とは全く異なる渋谷の百貨店や私鉄沿線の風景が懐かしい。今やナイター中継は地上波からBSなどに移り、ストーンズは平成以降に何度も来日した。人々は自由の代償を恐れて大人しくなり、偉い人たちは手前勝手な正義を振りかざす。そんな世界に生きている身には、この映画は懐かしく、それこそ太陽のように眩しい。(文:冨永由紀/映画ライター)

・【復刻版】パンフレットや令和版新ビジュアルなど、その他の写真はこちら

『太陽を盗んだ男/4Kデジタルリマスター』は、2026年10月16日より全国公開中<2週間限定上映>。

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