規格外の衝撃半生! 過激言動だけじゃないスーパースターの素顔

#ロケットマン#映画を聴く#エルトン・ジョン#タロン・エガートン#バーニー・トーピン

『ロケットマン』
(C)2018 Paramount Pictures. All rights reserved.
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…『ロケットマン』前編「“曲は書けるけど詞が書けない”エルトン、“異色の友情”描くミュージカル」より続く

【映画を聴く】『ロケットマン』後編
エルトンのお墨付き! エガートンの歌唱力光る

『ロケットマン』のエンドロールには、エルトン・ジョンとバーニー・トーピンのコンビが本作のために書き下ろした新曲「(I’m Gonna)Love Me Again」が使われている。四つ打ちのビートに華やかなブラスとストリングスのフレーズが絡むモータウン調のこの楽曲を歌うのは、エルトン本人と本作でエルトン役を演じたタロン・エガートン。60年代から90年代までのエルトンを演じ分け、劇中で使われるすべてのエルトン・ジョン作品を実際に歌ったエガートンは、この曲でも72歳のエルトンと並んで力強い歌声を聴かせている。

実は彼がエルトンの歌を披露したのは本作が初めてではなく、2016年のアニメ作品『SING/シング』でゴリラのジョニー役として1983年の軽快なポップナンバー「I’m Still Standing」を録音している。そんな縁も手伝ってか、エルトン本人は劇中のすべての楽曲をエガートンが歌うことを歓迎するだけでなく、エガートンが彼なりの解釈で楽曲を歌うことを強く希望したという。

確かに本作でのエガートンの歌唱は、エルトンのモノマネに留らないインパクトを持っている。「Your Song(僕の歌は君の歌)」や映画のタイトルにもなった「Rocket Man」といったバラードでは、移ろう感情をぎりぎりのバランスでコントロールしながらエルトン本人よりもややハスキーな声で歌い、「Crocodile Rock」では抜群のリズム感でキレ味のいいロックンローラーぶりを見せつける。

ミュージカル映画としての『ロケットマン』を成功に導いた功労者をもう1人挙げるとすれば、やはり音楽プロデューサーのジャイルズ・マーティンということになるだろう。ビートルズのプロデューサーとして知られるジョージ・マーティンを父に持ち、近年は亡き父を継いでビートルズ関連の仕事に取り組んでいるジャイルズだが、本作ではエガートンと同じようにエルトンから「あらゆる曲を自由に再解釈する自由を与えられた」のだとという。実際、本作は伝記映画としての時系列的な正確さは重視されておらず、ドラマ性を引き立てるために最善と思われる曲が時代と関係なく使われている。

ジャイルズは、2006年にビートルズの楽曲を脱構築したコラージュ作品『LOVE』のプロデュースを生前の父とともに手がけているが、そこで見せたマッシュアップの手腕と編集者的なセンスは本作でも変わらない。先述の「Crocodile Rock」の中間部で挿入されるアカペラのコーラスワークや、「Rocket Man」でのビートルズ「A Day in the Life」を思い出さずにいられないエンディングなど、大胆かつツボを得た楽曲の再解釈を行なっている。

エルトン・ジョンという、浮き沈みの激しい壮絶なキャリアを重ねてきたアーティストの半生を描くとなれば、並大抵の演出では「映画」が「現実」に負けてしまうということだろうか。タロン・エガートンやジャイルズ・マーティン(もちろん監督のデクスター・フレッチャーや衣装デザインのジュリアン・デイの貢献も大きい)が持ち込んだある種のファンタジー性によって、彼とバーニー・トーピンのコンビが作り上げた楽曲群はさらなる自由を手に入れると同時に、クラシックとしての耐久度を高めている。

昨年の『ボヘミアン・ラプソディ』では「実在の人物を描いた映画だと知らずに見て衝撃を受けた」という人が続出したと言われるが、衝撃の度合いではこちらも負けていないだろう。エルトン・ジョンのことをまったく知らない人、たびたびニュースで取り上げられる過激な言動やゴシップでしか彼を認識していない人にこそ見てほしい。(文:伊藤隆剛/音楽&映画ライター)

『ロケットマン』は7月5日より全国公開中。

伊藤 隆剛(いとう りゅうごう)
出版社、広告制作会社を経て、2013年に独立。音楽、映画、オーディオ、デジタルガジェットの話題を中心に、専門誌やオンラインメディアに多数寄稿。取材と構成を担当した澤野由明『澤野工房物語〜下駄屋が始めたジャズ・レーベル、大阪・新世界から世界へ』(DU BOOKS刊)が刊行されたばかり。

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