【日本映画界の問題点を探る/偽りの産業支援・クールジャパンの闇 4】国が主導して行った計56件の投資はほとんどが失敗し、赤字を垂れ流し続けるクールジャパン政策。映画産業で働いている人たちではなく、広告代理店などにばかりにお金が流れている問題だらけのこの政策について、「日本の映画産業を殺すクールジャパンマネー 経産官僚の暴走と歪められる公文書管理」の著者ヒロ・マスダに聞く最終回。
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日本では、何かを支援をしようとすると何故か違う方向に行ってしまう…
ここまで映画産業に関わるさまざまなお金事情について触れてきたが、なぜ日本の映画界にはこんなにもお金がないのか。本コラムでは映画監督やプロデューサーなど、様々な役割の映画人に問いかけ続けているが、皆「お金があれば解決する問題は多い」と口をそろえる。マスダ氏も、「日本のクリエイティブ産業の行き詰まりを解決するためには、製作へのお金の流れと選択肢に変化を生む必要がある」と訴える。その一つとして、日本の映画界では主流である「製作委員会」以外の方式を選ぶことを勧めている。
1本の作品を制作する際、リスク分散の観点からテレビ局や映画会社、制作会社、広告代理店、商社など複数の企業が出資して資金を調達。これが「製作委員会方式」と呼ばれるスタイルである。通常「出資率=(権利の)所有率」となるため、マスダによると、この方式ではプロデューサーが作品やマーチャンダイジングなどの収益の流れと所有権をコントロールできない場合が多いという。
「たとえば、作品の企画が立ち上がって契約が決まったら、公的資金などで完成までの運営資金を借りられる“完成保証”のような制度があればいいなと思います。というのも、現状では製作委員会方式以外の方法で、個々のプロデューサーや制作会社が資金調達を達成するのは極めて難しい状況だからです。実はクールジャパン機構ではそういった取り組みもやってはいるのですが、それを仕切っているのが大手芸能事務所と広告代理店。これでは上手くいくはずがなく、なぜこんな仕組みになっているのか、まったく意味がわかりません。この件に限らず、日本では何かを支援をしようとすると、どうしても違う方向に行ってしまうようですね……。僕らに必要な施策を作ろうとする姿勢は良いんですが、そこでなぜ官民ファンドが仕切る枠組みになるのか、ここは大いに問題です。いずれにしても、製作委員会方式以外で資金調達ができる仕組みはあったほうがいいと思います」
「日本スゴイ」の虚像に踊らされている間に、世界市場から取り残された
そしてもう一つ、マスダが推奨しているのは、すでに多くの国が取り入れている「プロダクション・インセンティブ」。これは、その土地での製作費消費や産業雇用への投資に対し、政府がコストの一定割合を助成する制度のことを指している。さらにマスダの著書「日本の映画産業を殺すクールジャパンマネー 経産官僚の暴走と歪められる公文書管理」によると、アメリカの31州をはじめ、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド、イギリス、アイルランド、フランス、マルタ、イタリア、オーストリア、ドイツ、エストニア、ハンガリー、リトアニア、セルビア、マケドニア、チェコ、クロアチア、ポーランド、ノルウェー、アイスランドなどがプロダクション・インセンティブを導入。さらに、中南米のブラジル、メキシコ、コロンビア、中東のUAE、ヨルダン、南アフリカなどにも製作投資が集まっているという。そしてアジアでもマレーシア、タイ、韓国、台湾などがプロダクション誘致の支援を打ち出して、効果を上げている。
ここまでくれば、いかに日本が国際競争から遅れを取っているかがわかるだろう。まるで海外で「クールジャパン」が評価されているかのような報道が国内ではなされていたが、「日本はスゴイ」という虚像に踊らされている間に世界市場から取り残され、同時に多額の税金も失っているのだ。もはや個人レベルではどうにもならない段階まで来ているため、ここで重要な役割を果たすのが政治家のはずだ。しかし、肝心の政治家たちもこの件に関しては、票につながらないと感じているのか、関心度が低い印象を受ける。
「僕のところにもこの件について講義して欲しいという依頼があったので、実際に政治家の方に会いに行って説明をしたこともありました。最初は期待しましたが、結局何の動きもないまま。経産省のなかでも、『クールジャパンでこれ以上失敗できない』という認識はあるようですが、それだけのようですね。過去にクールジャパン戦略担当大臣をされていた方とお話したこともありますが、中身について何もわかっていませんでした。にもかかわらず、『成果はあります』と曖昧なことばかりおっしゃっていたので、まずはきちんと内容がわかっている方に大臣を務めてほしいと思います」
今の政府は、映像産業従事者を豊かにしようという根本が抜け落ちている
政治による責任が大きいことは間違いないが、「クールジャパン」をもてはやしてきた我々マスコミにも責任がないわけではない。マスダが行ってきた調査や告発も、本来であればマスコミが率先して追及すべきことである。
「ある新聞記者さんから『本当だったら私がやらなきゃいけないことだと思います』と言われたこともありました。ただ、僕自身はマスコミに対して不満があって、クールジャパンの調査をしたり、本を書いたりしたわけではありません。そこは自分がやりたいと思って始めたことですから。ただ、話題になったときだけ興味本位で話を聞いてきて何の記事にもしない方とか、政府に雇われた広告代理店からの『海外で大絶賛』みたいなPR記事をそのまま流す方に対しては、違うんじゃないかなとは思います」
最後に、これからの日本映画界を盛り上げていくために必要なことについて、改めてまとめてもらった。
「クールジャパンに関しては、もはやどこかを少し補修して直るレベルではないので、すでにお話したように一度全部解体して1からやり直さないとダメだと考えています。いま、是枝裕和監督や深田晃司監督などがフランスの映画業界を支援する組織『国立映画映像センター(CNC)』と同じように、日本版CNCの設立に動いていると聞きました。いまの政府は、産業で働いている人たちをきちんと豊かにしようという根本が抜け落ちているので、新たな団体と組んで活動するというのも1つの手かもしれません。いずれにしても、安さを売りにしていたら日本はいつまでも貧しいまま。もっと豊かにしていくためには政府がきちんとした施策を作り、ちゃんとした映画づくりができる環境を作っていくべきだと思います」
マスダは「あくまでも税金であるため、この政策で映画産業に関係のない人たちまで我慢を強いられる必要はない」と付け加えていたが、きちんとした施策設計さえあれば国の経済的発展へとつながっていく可能性があることはぜひ知って欲しいところだ。実際、映画にそのポテンシャルがあることは、すでにいくつかの国で研究結果としても出ているし、韓国のエンタメ業界の勢いを見れば分かることだ。衰退の一途をたどってしまう危機に瀕している日本の映画産業と担い手を救うため、そしてこれ以上税金の無駄遣いをさせないためにも、まずはクールジャパン事業の見直しが急務であることを強く訴えたい。(text:志村昌美)
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