1万人動員でもまだ赤字! 映画素人がぶち当たった高い壁、必死の宣伝活動で乗り越えられるか?

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センキョナンデス

【日本映画界の問題点を探る/YouTubeから映画界に殴り込み!? 2】さまざまな偶然も重なり、『劇場版 センキョナンデス』で期せずして映画監督デビューを果たしたラッパーのダースレイダーと時事芸人のプチ鹿島。しかし、映画界の慣習やしがらみにとらわれていないからこそ、業界に新たな風を吹かせることもできる。その一つは、映画化が決定した際に行われた政治資金パーティならぬ、「映画資金パーティ」を開催したときのこと。映画製作に関わるあらゆる費用を予算表としてすべて公開した。

日本映画界の問題点を探る[YouTubeから映画界に〜1/”ヒルマニア”を増殖させる2人が映画界に殴り込み

映画業界においては“タブー”とも思える行動だが、1本の映画がいかにして作られているのかを知ることができるのは、観客にとっても興味深いことであるのは間違いない。実際、現実を目の当たりにした彼ら自身も驚いたといい、「すごい世界に足を突っ込んでしまった」と感じたと話す。

[動画]スゴイ世界に足を突っ込んでしまった…『劇場版 センキョナンデス』ダースレイダー&プチ鹿島監督インタビュー【Part.2】

映画の宣伝活動と選挙運動は似てる?「汗をかき、多くの人に接する活動が動員数に繋がると思う」

「僕たちからすると、『映像はもう撮れているから映画になるだろう』くらい簡単なことだと考えていました。でも、それはいつも劇場で見ている映画がどうやって完成までたどり着いているのかについて、まったく知らなかったからなんですよね。であれば、観客のみなさんにも映画ができていく過程を一緒に体験してもらうのが僕たちらしいやり方なんじゃないかなと。特に作品に関わっている人たちには、楽しいだけではなくて、経済的な意味でも参加してよかったと思って欲しいですから。いまはビジネスとしても成立するラインがどこなのかを見極めながら進めているところです。みなさんの仕事ぶりは素晴らしかったので、それに見合った収益を受け取るのが健全だと思います。素材がすでにある映画でもこれだけ大変なので、1から企画を立てて作っている映画にどれだけのお金と人手が必要なのかについても改めて考えさせられました」(ダースレイダー)

今回、映画化を進めるにあたって欠かせない人物といえば、プロデューサーとして入っているドキュメンタリー監督の大島新と前田亜紀。2人が所属する制作会社ネツゲンが加わったことによって、すべてが一気に動き出した。

日本映画はやりがい搾取の上に成り立っているのか?

センキョナンデス

『劇場版 センキョナンデス』2023年2月18日より全国順次公開
(C)「劇場版 センキョナンデス」製作委員会

「僕らのなかでは映画にしようと話はしていたものの、そこは素人ですからどうしていいかまったくわからないわけですよ。そんななか、おふたりに軽く相談したところ『公開するなら年明けのほうがいいですよ』とか『編集はネツゲンでやりましょう』といった感じで、急ピッチで進めてくれたので、やっぱりプロはすごいですね。僕たちだけでしていたら稚拙なものになっていたかもしれないし、公開まで2年、3年かかっていたんじゃないかな。番組でたまたま大島監督の作品を紹介したのがきっかけで知り合い、僕たちの間には何の利害関係もありませんし、ただお互いのしていることを面白いと思っているだけ。でも、そこから一緒にイベントをしたり、1つのチームになって映画を作ったりできたので、本当にご縁を感じます」(プチ鹿島)

業界の事情を知らなかったからこそ、映画を作ることに対する心のハードルも低かったのだと思うが、今は、ある高い壁にぶち当たっているという。

「大島さん曰く、目指す観客動員数は最低1万人。ドキュメンタリー映画で1万人というのはいい数字らしいですが、それでも製作委員会としてはまだ赤字だと言われました。ただ、2万人、3万人を目指すとなると僕たちには未知の領域なので、実際に始まってみないとわからないですね。とはいえ、どうしたら僕らのことを知らない方々にも劇場へ来てもらえるのか、どうしたらこの面白さを広めていけるのか、そこが大事かなと。選挙運動じゃないですけど、歩いて汗をかき、チラシを配り、どれだけたくさんの人に接していくかという活動が動員数に繋がるんだと思います」(プチ鹿島)

現在の映画界では宣伝活動において、あえて「アピールしすぎ」を避けるような傾向もあるが、そんな流れに逆らうかのように自身の番組では毎回たっぷりと時間をかけて映画をPRする2人。周りに足並みを揃えがちな業界のなかで“浮いている存在”かもしれないが、逆にそれこそが本来あるべき映画宣伝の姿のようにも感じる。公開が近づくなか、彼らが必死に宣伝活動をする背景には、映画業界のある事情も関係していると明かす。

「僕らはいま映画作りに関して勉強しているところですが、そのなかで初めて知ったのは、公開初週の東京の動員(客の入り具合)が、地方の劇場で公開されるかどうかのカギになるということ。映画の良し悪しだけではない数字的な目標を達成しなければ、全国に広げることができないので、実は東京の反応にすべてがかかっているそうです。つまり、公開が決まっていない地域に住んでいる方がいくら見たいと言っても、東京の初週が良くなければ、ほかの地域の方は見ることすらできないというのがいまの映画界の構造。そういった事実はあまり知られていないところでもあるので、自分たちの体験を通して伝えていけたらと。そのうえで、どう働きかけたらみなさんの街でも見たい映画を上映してもらえるのかを一緒に考えていきたいです」(ダースレイダー)

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選挙において「自分の1票で結果は変わらないのではないか」といった感覚を誰もが抱いたことがあると思うが、映画においても「自分1人が見に行ったところで変わらない」と感じている人は多いだろう。しかし、実際は選挙の1票と同様に、観客1人の存在が大きな力を持っている。そういった事情を知るだけでも、観客としてできることは何かを考えるきっかけとなり、観客自身が好きな映画の“仲間”になれることに気づくはずだ。

「僕らは芸人とラッパーなので、ほかの映画監督とは違って狂言回し的に映画界を盛り上げて行ければいい」というプチ鹿島と、「舞台挨拶をたくさんして、見に来てくださる1人1人にちゃんとありがとうと伝えたい」と話すダースレイダー。泥臭いまでに一生懸命な姿に、応援したいと感じる人たちの輪が広がっているのも頷ける。これからも映画業界に染まることなく、独自の視点から映画や観客としての楽しみ方などを伝えていって欲しいと願うばかりだ。(text:志村昌美/photo:泉健也)【日本映画界の問題点を探る[YouTubeから映画界に殴り込み!? 3]/メディアの機能不全がYouTube人気を招いた?(2023年2月17日掲載予定)】に続く

『劇場版 センキョナンデス』は、2023年2月18日より全国順次公開。

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