全米を蝕む医療用麻薬オピオイドの蔓延…その裏に見え隠れする大富豪の責任を問う

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『ALL THE BEAUTY AND THE BLOODSHED(原題)』
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手術の際の投与で中毒に…1人の写真家のドキュメンタリーがアカデミー賞ノミネート

日本での公開が予定されているドキュメンタリー映画『ALL THE BEAUTY AND THE BLOODSHED(原題)』が、1月24日に発表された第95回アカデミー賞において長編ドキュメンタリー賞へのノミネートを果たした。

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2015年、『シチズンフォー スノーデンの暴露』でアカデミー賞長編ドキュメンタリー映画賞を受賞したローラ・ポイトラスが監督を務めた本作は、写真家、そして活動家として知られるナン・ゴールディンの人生とキャリア、そして大富豪サックラー家がオーナーを務める製薬会社パーデュー・ファーマ社の医療用麻薬オピオイド蔓延の責任を問う活動を追ったドキュメンタリー作品だ。

姉の死を契機に10代の頃に写真家としてのキャリアをスタートさせたゴールディン。彼女は自分自身や家族、そして友人たちをとらえたポートレートのほか、薬物、セクシュアリティ、暴力、HIV/AIDSなど時代性が反映された作品で知られる。1986年に出版された写真集「The Ballad Of Sexual Dependency(性的依存のバラード)」は、彼女の名を世界に轟かせた。また、90年代には写真家・荒木経惟との共同プロジェクト「Tokyo Love」や、YMOの3人のニューヨークでの日常を収めた写真集「NOT YMO」を手掛けている。

ゴールディンは、手術を受けた際にオピオイド系の鎮痛剤オキシコンチンを投与されたのをきっかけに中毒となり、生死の境をさまよった。その後、復帰したゴールディンは、オキシコンチンを販売しているのがパーデュー・ファーマ社であることや、その背景に会社を所有するサックラー家がいることを知る。

彼女は2017年に支援団体P.A.I.N.を創設すると、アート界における自身の知名度を活かし、他者の苦しみから利益を得る強力な勢力と戦いはじめる。彼女は世界的に有名な美術館やギャラリーに家名が冠されたサックラー家や、彼らからの多額の寄付を受けた芸術界の責任を追及するのだが――。

第79回ヴェネツィア国際映画祭で披露された本作は、最高賞にあたる金獅子賞を受賞。監督のポイトラスは、受賞の際に「ナンの芸術とビジョンは長年にわたり私の仕事にインスピレーションを与え、また何世代もの映画制作者に影響を与えている」とゴールディンからの影響について述べた。

第95回アカデミー賞長編ドキュメンタリー賞へノミネートを果たした本作は、世界各国の映画賞で25もの賞を受賞しており、アカデミー賞本部門の受賞も有力視されている。