『ビブリア古書堂の事件手帖』黒木華インタビュー

糸役で好感度うなぎ登り! 話題作目白押しの演技派を直撃

#黒木華

私にとって本とは、自分を形成していくもの

鎌倉の片隅に佇むビブリア古書堂の店主・篠川栞子が、古書にまつわる謎を解き明かしていく姿を描いた、三上延の人気小説シリーズを実写映画化した『ビブリア古書堂の事件手帖』が11月1日より全国公開される。

50年前に隠された夏目漱石のサインの秘密と、現代を舞台に謎の人物から狙われる太宰治の希少本とが交錯する先に明らかになる真実。本に託した多くの人たちの思いを、感動的に描き出している。そんな極上のミステリー作品として注目を集める同作で、主演の篠川栞子を演じた黒木華に話を聞いた。

──原作はシリーズ累計680万部を突破する大ベストセラー小説ですが、改めてこの作品に関わっていかがでしたか?

黒木華

黒木:どういう風にしたら原作ファンの方にも違和感なく楽しんでいただけるのかな、ということは考えました。本が好きなところや、人としゃべるのが得意ではないところなどは栞子と似ていたので、そういう部分は難しく考えずにやれたと思います。原作ビジュアルの栞子は美人ですが、私はそうではないので(笑)、黒髪ストレートやメガネをかけるなど、細かいディテールを意識して近づけるようにしました。また、人見知りで普段は伏し目がちなんだけれど、本のことになると、夢中になって話し出すなど、仕草やクセも監督と相談しながら作っていきました。

──初対面の人とは話せないほどの人見知りでありながらも、古書に対する知識はずば抜けているという栞子さんという役柄は、黒木さんにピッタリだという声を多く聞きました。そんな中、イラストのビジュアルが広まっている大ベストセラー小説が原作ということで、やりづらい部分はなかったですか?

黒木:監督は、強い想いというのはその人が亡くなった後でも本に託されて誰かにきちんと伝わり、人生を変えることがあるということを、本作で一番つたえたかったとおっしゃっていました。もちろんプレッシャーはありましたが、ビジュアルを意識するよりも、その監督の想いを私なりの栞子として表現することが大事だと思って演じていました。

──本を朗読するシーンが印象的でしたが、やってみていかがでした?

黒木華

黒木:その朗読を通じて、(野村周平演じる)大輔との距離がどんどん近づいていくというシーンだったので、難しかったですね。ハキハキ話すというよりは、滑らかに、情感をもたせて話すように、心がけました。

──古書店のセットに入った時の雰囲気はいかがでしたか?

黒木:古書堂の本棚に並んでいる書籍も、実際に監督が選んだものなんです。小説の他に写真集などもあって、休憩時間には手にとって読んだりもしました。やはり役作りにおいては、衣裳やメイクもそうですけど、美術に助けられる部分もたくさんあるんです。今回でいうと、栞子はこういう本を集める人なんだと知ることができましたし、演じる上でたくさんヒントになりました。

──三島監督とは『繕い裁つ人』でもご一緒していましたよね。あの映画セットの雰囲気と、今回の映画セットの雰囲気が似ているなと思ったのですが。

黒木:そうですね。本に光があたった様子がとても美しいんです。

──三島監督と改めて組んでみていかがでしたか?

黒木華

黒木:今回はより密に三島監督とご一緒することができたので、とても楽しかったですし、いろいろな収穫がありました。

──収穫とは?

黒木:前回は出番がそんなに多い役ではなかったので、三島監督の演出方法や、作品に対してどうやってアプローチをされるかということをあまり知ることができなかったのですが、今回はそれをより深く知ることができたことが収穫でした。三島監督はサバサバした、男性っぽい方だというイメージを持っていたのですが、すごく女性らしい部分もある方で、それも発見でした。大輔の目線にも、栞子の目線にもなられているから、両方が感じたものや気持ちをとても繊細に表現されているんです。

──栞子さんは、本に助けてもらったと言っていましたが、黒木さんにとって、本を読むということはどういうものでしょうか?

黒木:自分を形成していくものですね。なので、本との出会いは大事にしています。時間があれば本を読んでいますし、台本に疲れたら全然違う本を読んで気分転換もしています。

──台本と本のストーリーが混乱したりはしないんですか?

黒木:むしろリセットされますね。新たな気持ちで台本を開くとセリフが入りやすくなったりもします。

みんなでイノシシ鍋を食べ、距離感が縮まった
──セットの中で出会った本で、印象に残った本は?

『ビブリア古書堂の事件手帖』
(C)2018「ビブリア古書堂の事件手帖」製作委員会

黒木:太宰治「晩年」のアンカット本(※袋とじのようになっているページを、ペーパーナイフなどで切りながら読み進む製本スタイル)というものを見たことがなかったので、なんて幸せな読み方ができる本なんだろうと思いました。袋とじなので、開いていく楽しみもありますよね。

──野村周平さんとは初共演だったと思うのですが、共演してみていかがでしたか?

黒木:とても明るく楽しい方でした。わたしは初対面の人と仲良くなるのには時間がかかるタイプなので、仲良くなれるのか最初は心配していたんですけど、野村さんは、すごく空気を読まれるというか、気を遣ってくださる方で、現場をとても盛り上げてくださいました。とても気さくで、積極的に話しかけてくださいましたし、皆さんが野村さんの人柄に惹かれる理由が分かったような気がします。三島監督とは初めてご一緒されたらしいのですが、姉弟のように仲良くされていました。

──撮影の合間とかは何をして過ごしていました?

黒木華

黒木:伊豆に撮影で行った時は、みんなでイノシシの鍋を食べました。監督ともご飯を食べに行かせていただきました。そういうところで、より距離が近くなったと思います。

──それでは最後に、これから作品をご覧になる方にオススメポイントを教えてください。

黒木:今作は、本によって過去と現在がつながり、それがミステリーになっていく、というストーリーになっています。その、過去と現在が交わっていくうねりも面白いですし、(過去パートに出演する)東出さんと夏帆さんが、純文学の本の中の登場人物のように美しいので、そこも注目していただきたいです。現代パートでは、栞子の謎解きの部分や、アクションも見所ですので、エンターテイメントとしても、楽しんでいただけると思います。

(text:壬生智裕/photo:小川拓洋)

黒木華
黒木華
くろき・はる

1990年3月14日生まれ、大阪府出身。2010年、NODA・MAP公演「ザ・キャラクター」で初舞台に立ち、同年のNODA・MAP番外公演『表に出ろいっ!』でヒロインを演じる。2011年から映画、TVドラマ、CMなどにも出演。『小さいおうち』(14)でベルリン国際映画祭銀熊賞を受賞。『浅田家!』(20)で日本アカデミー賞最優秀助演女優賞を受賞。主な映画出演作は『リップヴァンウィンクルの花嫁』(16)、『日日是好日』(18)、『先生、私の隣に座っていただけませんか?』(21)、『余命10年』(22年)、『イチケイのカラス』(23年)、『#マンホール』(23年)、『ヴィレッジ』は23年4月21日公開。