吉沢亮「芝居している時が一番、生きている」 『国宝』ロサンゼルスとニューヨークで大反響
李相日監督と海外上映キャンペーン、満席続出&スタオベの熱狂が続く
吉沢亮を主演に迎え、李相日監督が吉田修一の傑作小説を映画化した『国宝』の上映キャンペーンが、映画の都・ハリウッドと演劇の聖地・ニューヨークで開催。吉沢と李監督が現地へ駆けつけた。
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アカデミー賞日本代表に選出された本作の特別上映会が、現地11月18日18時から、アカデミー・ミュージアム(映画博物館)内のTed Mann劇場にて、ジェトロ(日本貿易振興機構)ロサンゼルス事務所主催イベント「J-SCREEN」の一環として実施された。
上映前には李監督が登壇し、「こんばんは、ようこそお越しくださいました」と英語で挨拶。「ロサンゼルスに来て3日目ですが、やっと晴れました。ワールドシリーズが雨でなくてよかったです」と語り、満席の会場を沸かせた。幼い頃に見たアメリカ映画の原体験や、19歳の頃に訪れたハリウッドでの思い出も語り、この地で上映される喜びを表した。
エンドロールが始まると、会場からは割れんばかりの拍手と「ブラボー!」の声が上がり、その中を吉沢と李監督が登壇し、上映後の舞台挨拶を行った。

司会のレベッカ・サンが「李監督は、長い間、歌舞伎についての映画を撮りたいと考えていらっしゃいました。この世界に惹かれたのはなぜですか?」と質問すると、李監督は「僕は歌舞伎の中でも特にこの女形という存在に非常に魅了されました。美しさはもちろんのこと、ちょっとしたグロテスクさもあり、多分たくさんのものを失いながら一生涯をかけて芸を究めていく。非常に純粋で稀な生き物な気がしています。なぜ彼らがそこまで高みを目指すのか、彼らの人生の見えない部分を知りたい、解明したいと思ってこの企画に着手しました」と制作の原動力を明かした。
歌舞伎の稽古に1年半かけたことについて問われると、吉沢は「僕自身、歌舞伎を見たことはありましたが、深く理解していませんでした。そのため、基本的にはゼロからのスタートでした。稽古を始めて最初の 3〜4ヵ月は、『すり足』という歩行技術の練習だけでした。そして、基礎稽古の後、実際の踊りに移っていきました。その中で、本物の歌舞伎役者のレベルには決して到達できないだろうと悟りました。ですから、僕はただ、その芸術への献身に集中しました。それは喜久雄の中にも本当にある想いで、喜久雄という役を演じるうえでも相乗効果があったと思います」と語った。

また、「撮影監督であるソフィアン・エル・ファニと、どのように協力して異なる時代を視覚的に表現したのですか?」との問いに、李監督は「彼の美的感覚やその言葉がはっきり分からなくても、役者のお芝居を見抜くあの目、そういった力を信じて撮影をお願いしました。ソフィアンと相談して、基本的な考え方として、歌舞伎の撮り方を3つのレイヤーに設計を立てました。まずは、歌舞伎全体の美しさがしっかり伝わるように、その歌舞伎の様式美を捉える、しかも映画の観客がまるで舞台を観ているかのように体感できるようなショット。2つ目のレイヤーは、客席など、歌舞伎役者の世界から見た視点。3つ目が一番重要なのですが、その舞台にいる彼らの内面。例えば、喜久雄が今どんな重圧をかけられて、どういった自分の内面的な爆発を抱えながら舞台にいるかという、光と影で言うと影の部分まで映るように、クローズアップを撮る。その3つのレイヤーで設計しました」と語り、撮影の哲学を明かした。
さらに、「彼の人生の異なる段階で、キャラクターをどのように演じ分けましたか?」と問われた吉沢は、「李監督の演出として、踊りのシーンでも、お初として『曽根崎心中』を演じているシーンでも、ただただ稽古したことを美しく踊るということではなく、その時に舞台に立っている喜久雄の心境になって踊ってくれと言われました。『お初』という役ではなく、『お初を演じている喜久雄』でいてくれ、と。そのため、技術的な面で形を変えていくというよりは、そのシーンの前に起こったことや、今そこに喜久雄が立っている覚悟や恐怖、そういう感情によって内側から出てくるもので踊っていくということを意識していて。他の歌舞伎役者さんと手法は全然違うと思いますが、その時の喜久雄の心境によって少しずつニュアンスは変わっていたと思いますね」とコメントした。
会場には涙ぐむ観客や、吉沢、李監督の言葉を熱心にメモする観客も多く、舞台挨拶の最後にはスタンディングオベーションが起こり、吉沢と李監督は大きな拍手に包まれて会場を後にした。
翌日、吉沢と李監督は有名な観光名所ハリウッド・サインを訪れた。今回ロサンゼルスを初めて訪れた吉沢は、「写真などではよく拝見していましたが、実際に見ると違いますね」と、快晴の空の下で笑顔を見せた。

李監督は、「最初にハリウッド・サインを見たのが10代の頃。当時は驚きましたが、今は何か感慨深いものがあります。距離が不思議と近く感じます」とコメントした。
前日の上映会を振り返り、吉沢は「迎え入れてくださる時の拍手や僕たちが話している時に観客の皆さんが頷きながら聞いてくださっていて、すごく深いところで見てくださっているということが伝わってきました」と語った。
李監督も、「歌舞伎を題材にしているので、どこまで理解してくださるのかという懸念は少しありましたが、そういったものを超えて何か迫力を感じ取ってくれている。上映が終わり、我々が登壇した時、特に“喜久雄(吉沢)”が登壇した時の『本物が現れた!』と、空気がざわつく感じがあり、肌で感じるものがありました」と、アメリカでの上映の手応えを語った。
その後、来年の北米公開に先立ち、先行限定劇場公開をしているAMC Universal Cityでも舞台挨拶を行った。前日の上映会と同様に、吉沢が登壇すると「スクリーンで観ていた“喜久雄”が目の前にいる!」とばかりに、会場から大きな拍手が湧き起こった。
ここで李監督は、「歌舞伎を題材にした映画ですが、特にハリウッドで見てもらう意義、役者の人生そのもの、歌舞伎役者もハリウッドの映画スターも同じように自分の人生を犠牲にしながら芸術家として高みを目指して、何かその狂気を含め畏怖心と美しさを感じる。それは日本のみならず、世界的に普遍的な感動をもたらすと思っています。今日、ここアメリカで皆さんの顔を見ながら、その反応を見ることができ、とても有難く思っています」と語った。
吉沢は、「(日本での大ヒットを受け)これほど日本のお客様が歌舞伎を題材にした映画を愛してくれると想像もしていませんでした。芸事に対する愛憎、ひたむきに向かっていく人間たちがものすごく美しく、お客様に観ていただけたのかと思っています。それは日本だけではなく、アメリカでも、世界中で共感してもらえることではないかと思います。世界の皆さまに見ていただける機会が増えればいいなと思っております。ぜひお力添えをいただければ非常に嬉しく思います」とコメントした。
一行はロサンゼルスから約3900kmのアメリカ大陸を横断し、ニューヨークに到着した。現地時間11月22日、多くの映画ファンに愛される歴史ある劇場・Angelika Film Centerで本作が先行限定劇場公開中で、上映前から多くの観客が詰めかけ、熱気に満ちた会場で上映がスタートした。

上映後、会場は大きな拍手と歓声に包まれ、その中を吉沢と李監督が登壇して舞台挨拶を行った。司会者が「吉沢さんのこの映画でのパフォーマンスは本当に素晴らしいですね。誰かの一生が目の前で繰り広げられるのを見ているようです。これまでに経験したことのある中で、最も大変な挑戦でしたか?」と問いかけると、吉沢がゼロから始めて1年半に及んだ歌舞伎の稽古について語り、会場からは「1年半…」と驚きのため息が漏れた。
また、「今回歌舞伎役者を演じ、彼らのアイデンティティや他の誰かになって演じること、また常に自分自身であり続けることの間で意識したこと」について問われた吉沢は、「僕自身はオンオフがはっきりしていると思いますが、喜久雄は日常と舞台の境界線がどんどんなくなってしまう役だと思います。舞台に立てば立つほど、日常の幸せが舞台に吸い取られてしまうイメージで演じていました。喜久雄ほどの、ある種狂気じみた覚悟は自分にはありません。ただ歌舞伎役者さんも我々のような役者も、芝居をしている時にしか感じられない幸せの瞬間というのは非常にわかります。結局、芝居している時が一番生きている実感があり、そういう部分は理解できるなと思いながら演じていました」とコメントした。
さらに司会者は、「この映画は、喜久雄というキャラクターに対して曖昧な態度を保っています。彼を神聖化したり、悪魔化したりせず、彼の感情や行動を裁きません。そして彼は、最後まで少し捉えどころのない、神秘的なままでいます。喜久雄を少し捉えどころのないままにしておいたのは、なぜですか?」と、日本ではあまり聞かれないタイプの質問を投げかけた。
李監督は「自分の人生を顧みることより、芸術に進んでいく、その中にめり込んでいく。そちらのほうを選択せざるを得ない、そういった業みたいなものが、表現者として、のしかかっていると思います。だからこそ、喜久雄にしか、彼のような人間にしか到達できない境地というものがあり、彼を通して観客である我々は何かを見せてもらっている。それが、芸術家の意義のような、何か業を背負って生きる人の苦難ではないかと想像しました」と答え、観客たちは熱心に耳を傾けていた。
翌11月23日には、ジャパン・ソサエティー・ニューヨークにて本作が上映された。ジャパン・ソサエティー・ニューヨークは創設から115年の歴史を持つ日米交流促進の民間非営利団体で、草間彌生、オノ・ヨーコ、チームラボをはじめ、多くの日本の美術・文化を支えてきた団体である。会場は上映前から熱気に包まれ、補助席が出るほどの盛況で、ニューヨークでも本作への高い期待が感じられた。

14時からの上映後の舞台挨拶で、吉沢は「『国宝』は喜久雄の50年に渡る物語で、若い時代から高齢期まで演じました。歳月を重ねる中で喜久雄を変化させていくというのはどのような感覚でしたか?」と問われ、「年齢を重ねれば、重ねるほど、日常生活にその女形が染み付いてくる、例えば姿勢や話し方、目線の動かし方という部分に、普段からその女形としての生き方が出てしまうということを意識しながら演じました」と答えた。
さらに「最も難しかった、あるいは最も誇りに思っているシーンはありますか?」と聞かれると、吉沢は「困難ではないシーンはないので(笑)」と返し、観客の笑いを誘った。そして続けて、「喜久雄としてお初を演じたり、踊ったりすることが一番難しく、最初に李監督からその演出を受けた時、何を言っているのかわからなかったのですが、それまでの喜久雄の人生、今そこに置かれている状況を含めてお芝居してくれ、ということでした。実際の歌舞伎役者さんに比べて非常に感情的になる部分も多いですし、様式美として見せるところをあえてエモーショナルなお芝居で演じる部分は特にドラマチックになっていて、作品を見て李監督が言っていることが分かったと同時に、歌舞伎役者さんではなく、我々のような役者が選ばれた意味が分かりました」と胸の内を明かした。
李監督は、米国アカデミー賞国際長編映画賞日本代表に選ばれ、日本での社会現象的ヒットについて問われると、「非常にたくさんの方が映画館に来てくださり、何度も見てくださる方がいらっしゃいます。3時間の映画で歌舞伎を題材にして、まさかこういう風に広がっていくとはなかなか予想していませんでした。映画館には時間を忘れさせてくれる没入感があり、この美しさ、それと歌舞伎を演じる俳優、それはアーティストであり、芸術を突き詰める人間の生き方みたいなものを劇場で浴びてくれているのかなと思います。またその浴びたものが何なのかを確認したくて、何度も劇場に行ってくださっているような気がします」と分析した。
19時からの上映会では上映前に舞台挨拶が行われ、この回も満席。観客全員がスタンディングオベーションで吉沢と李監督を迎えた。
李監督は「約25年前に学生時代の卒業制作で作った作品(『青〜chong〜』)が日本代表になり、NYUの学生映画祭に参加した時に初めてニューヨークを訪れました。そして、今回アカデミー賞国際長編映画賞日本代表の作品という形で、またこの地に戻ることができたことを喜び、また同時に興奮と責任を感じています」と語った。
吉沢は、「20歳くらいの時にニューヨークに来て以来大好きになり、そこからほぼ毎年1回は訪れています。今回初めて仕事で呼んでいただき、またニューヨークの皆様と直接お会いできて、こうして僕らの映画が届けられることを非常に嬉しく思っています。最後まで楽しんでください」と締めくくり、感謝を伝えた。
『国宝』は現在公開中。
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