逮捕、排除、沈黙の強制…LGBTQ+を禁圧するロシアに立ち向かったクィア・アーティストの軌跡

クィア・アーティスト ジェナ・マービンを追ったドキュメンタリーが公開決定

LGBTQ+の活動が弾圧されるロシアに突如現れた次世代のクィア・アーティスト、ジェナ・マービンを追ったドキュメンタリー映画『クイーンダム／誕生』が、2026年1月30日より全国公開されることが決定。あわせて特報とティザービジュアルが解禁された。

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このドキュメンタリーの主人公は、ロシアの首都モスクワから約1万キロ離れた極寒の田舎町・マガダンで生まれ、祖父母に育てられたジェナ・マービン。撮影開始時はわずか21歳だった。かつて強制収容所があったその町は今も保守的で、ジェナは「クィア」であることを理由に暴力や差別の標的とされてきた。しかし、その痛みとトラウマを「アートという武器」へと昇華させたジェナの表現はTikTokで支持を集め、「VOGUE RUSSIA」にも登場するなど、一躍注目を浴びる存在となっていった。

ジェナは過激で独創的な衣装をまとい、ウクライナ侵攻への反対や、LGBTQ+の活動を禁止する法律・政治・社会への反抗を体現している。こうしたパフォーマンスは、現在のロシアでは命の危険を伴う行為だ。それでもジェナは、自らの存在を賭けてアートを通じた抗議を続け、社会の無関心と差別に一石を投じている。

だが、本作が映し出すのは、そんな“強さ”だけではない。まだ若く、将来への不安や自己との葛藤を抱えるジェナの姿、そして愛情を抱きながらもその在り方を完全には理解できない祖父母との関係。そこには、多くの人が共感しうる“世代間のすれ違い”が鮮明に浮かび上がる。

逮捕、排除、沈黙の強制──そのすべてを背負いながら、それでも前へ進む。恐怖と絶望を超え、痛みと美しさをまとった“孤高のクイーン”が誕生する瞬間を、ぜひスクリーンで目撃してほしい。

監督を務めるのは、ロシア出身でフランス在住のアグニア・ガルダノヴァ。当初はロシア各地のドラァグクイーンたちを追う映画を企画しており、取材の初期段階で出会った候補者のひとりがジェナだった。アグニアはジェナと時間を共にするなかで、彼女の類まれな芸術性と、抑圧的なロシア社会において“本当の自分”を貫く姿勢に強く心を動かされ、ジェナだけを主人公としたドキュメンタリーを制作することを決意した。

プロデューサーは『チェチェンへようこそ ―ゲイの粛清―』（20年）の共同プロデューサーを務めたイゴール・ミャコチン。2022年にはサンダンス・プロデュース・フェローに選出され、DOC NYCによって「ドキュメンタリー業界で活動する40歳未満の40人」にも選ばれている。

今回解禁されたティザービジュアルは、裸のジェナ・マービンを、ロシア国旗の色である「白」「青」「赤」をまとった人々が取り囲む、強烈な印象を残す1枚。こちらを見つめるジェナの瞳は強く、何かを訴えかけているように見える。映画から聞こえる“ジェナの剥き出しの叫び”を視覚化し、新たなアーティストの誕生を世界に予感させるビジュアルとなっている。

また特報映像は、白く塗られたスキンヘッドにハイヒール、身体を締め上げるテープ姿でモスクワの街を歩くジェナの姿から始まり、「これは私が人間になるための活動だ」という言葉が響く。「ジェナとなって外に出れば、いつでも最強になれる。まるで鎧を着た騎士さ」と語る一方で、「お前をぶっ殺してやる」と暴行を受けるLGBTQ+仲間の衝撃的な映像に、思わず涙があふれる。それでもジェナは、差別的な暴力に対し、仲間とともに団結して立ち向かっていく。

なお、主演のジェナ・マービン、監督アグニア・ガルダノヴァ、プロデューサーのイゴール・ミャコチンの3名は、公開日（1月30日）付近の来日が予定されている。

『クイーンダム／誕生』は2026年1月30日より全国公開。