青臭い青春がいい! 人気BL作家、秀良子の「宇田川町で待っててよ。」

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「宇田川町で待っててよ。」秀良子
「宇田川町で待っててよ。」秀良子 著 祥伝社
「宇田川町で待っててよ。」秀良子
『宇田川町で待っててよ。』レンタル専用DVD

実写映画化された人気作「宇田川町で待っててよ。」

今年で画業10周年を迎え、BLコミック誌「オンブルー」の最新号(「on BLUE vol.49」2020年10月24日発売)では特集も組まれている人気BL作家・秀良子。キラキラと派手な絵柄でポップなエロシーンが登場する今流行りのBLとは真逆と言えるほどの作風だが、読み応えのある作品を好むBL好きから支持される実力ある作家だ。

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「STAYGOLD」や「年々彩々」といった代表作もあるが、実写映画化された「宇田川町で待っててよ。」もファンから人気の高い作品。今回は、映画化されるほど人を惹きつけるパワーがあり、秀良子という作家の魅力の詰まったこの作品を紹介しよう。

まず「宇田川町で待っててよ。」というタイトルだが、関東以外にお住まいでこの地名を知らない方の中には文学的なイメージの町を想像する方もいるようだが、宇田川町とは渋谷のセンター街を含む繁華街のある地名。都会の雑多な駅前の人混みで、主人公の百瀬はクラスメートの八代が女装して佇んでいるのを見かける。音楽好きで陰キャな百瀬と違って八代はクラスで派手なグループにいるコミュ力高い男子だ。女装と八代のイメージが結びつかない百瀬だが、八代のことが気になって仕方なくなる。街で再び女装した八代を見つけた百瀬は八代に声をかけ、積極的に近づいてゆく。

葛藤する女装男子とそんな彼に惹かれていく陰キャ男子がかわいい

クラスでは接点のなさそうな男の子2人がふとしたきっかけで繋がり、恐る恐る手探りで距離を縮めてゆく。その青臭い青春の姿にこちらまでドキドキしてきてしまう。

八代は自分の性癖に気づき始めたばかりのようす。前に付き合っていた彼女と遊びで女装したことから八代の中で何かが目覚める。百瀬は恋愛未経験のようだが、八代のことは言うなれば一目惚れのようなもの。雑踏の中で他の人の目には止まらなくても百瀬の目には八代がポンと飛び込んできて、百瀬の心の中に住み続けてしまうのだ。

その様子が秀良子の作品は手に取るようにわかる。百瀬は恋愛慣れしていないからこそ、ピュアでまっすぐで八代が引くほどぐいぐいと八代に近づいていく。八代は百瀬の気持ちどころか、自分の性癖を受け入れることにも葛藤し、百瀬からも逃げ腰になる。教室ではおとなしそうな百瀬のほうが積極的で、「かわいい」と言って、葛藤している八代を真っ向から肯定してくるところがカッコいい。八代が飛び越えられない垣根を百瀬は軽々と飛び越えてゆく。突っ走ってしまって雄な顔を見せるところはドキリとさせる。

八代は八代で自信のありそうなリア充なのに、本当の自分の核の部分であろう女装した自分には自信を持てずにおずおずとしているところがいじらしくてかわいい。彼らの間に生まれたばかりの恋は戸惑いながら揺れながらどうなっていくのだろうと固唾を飲んで見守ってしまう。

心の変遷を巧みに表現、秀良子の技量が光る作品

相手のちょっとした仕草や表情で登場人物が何を感じ取ってどう動いていくのか、秀良子は繊細な心の変化を表現するのが上手い。まだ自分の形も定まっていない思春期の男の子たちの微妙な心の変遷を的確に紡ぎだしてゆく。

絵の面でも体のラインなども含めて的確で、のっそりとした陰キャの百瀬の猫背な姿勢はキャラクターの特徴がよく出ているし、何と言っても八代の女装が女性っぽくなくて男性の体を感じさせるのがいい。百瀬もはじめに気づくようにフェミニンな服を着ていても骨っぽい男らしさが滲み出していて、決して可愛らしいわけではないのが逆にいいのだ。

『宇田川町で待っててよ。』は絵でもストーリーでもキャラクター性を際立たせ、彼らだからこその心の揺らぎをすくい取って見せる秀良子の作家の技量が光る逸品だ。

黒羽麻璃央×横田龍儀、イケメンの共演が嬉しい実写版も必見!

実写映画化では百瀬役をミュージカル「刀剣乱舞」など2.5次元で絶大な人気を誇る、あの黒羽麻璃央が好演。陰キャな百瀬を雰囲気そのままに演じている。八代役もミュージカル「刀剣乱舞」などで活躍する横田龍儀が扮し、女っぽくはないところがかわいい女装を披露。イケメンたちのよる共演を楽しみたい方は実写映画版『宇田川町で待っててよ。』を見てみてはいかがだろう。(文:牧島史佳/ライター)

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