音楽から見る宮崎駿作品の魅力・後編/久石譲が“ジブリらしさ”の確立に大きく貢献

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『スタジオジブリ 宮崎駿&久石譲 サントラBOX』
徳間ジャパンコミュニケーションズ
『スタジオジブリ 宮崎駿&久石譲 サントラBOX』
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宮崎駿と高畑勲の猛反対により使用されなかった
安田成美の歌う「風の谷のナウシカ」

その一方で、作品に合う/合わないの判断はもちろんシビアだ。よく知られるのが、当時“シンボルテーマソング”として扱われた、安田成美の歌う「風の谷のナウシカ」。実は今回の『サントラBOX』にも入っていない。広告代理店が主導となり進めた『ナウシカ』上映前のキャンペーンの一環として、“ナウシカガール”なるものを選ぶコンテストが開催され、グランプリを獲得した安田成美が歌った曲である。映画公開に先立って主題歌として先行リリースされたが、なぜか本編では使用されず。宮崎監督と高畑勲プロデューサーが「作品の内容と合っていない」という理由で、本編での使用を強く反対したためと言われている(エンドロールでは“シンボルテーマソング”としてクレジットのみ記載されている)。結局、同じく先行リリースされた『ナウシカ』のイメージアルバムを担当していた久石の作風を宮崎&高畑が気に入り、久石が本編の音楽も担当。エンディングテーマは久石の作曲によるインスト「鳥の人」が使われることになった。

音楽から見る宮崎駿作品の魅力・前編

個人的には安田成美の「風の谷のナウシカ」は好きな曲だ。当時、松田聖子のヒット曲などを世に送り出していた松本隆(作詞)と細野晴臣(作曲)の黄金コンビによる作品で、長調と短調を自在に行き来する曲調はとても技巧的で、いまも古さを感じさせない。ただよく言われるように、安田成美のヴォーカルが稚拙であることは否めないし、何よりシンセサイザーによる打ち込み系の硬質なサウンドは、やはり『ナウシカ』の世界観とは乖離している。当初は本編の音楽も細野晴臣が担当する予定だったというが、このタイミングで久石譲を選んだことがその後の“ジブリらしさ”とか“宮崎アニメらしさ”の確立に大きく影響していったことは間違いない。

宮崎作品はエンディングテーマ以外にも記憶に残る名曲が多い。『ナウシカ』で、久石が当時4歳だった娘=麻衣の歌声を使った「ナウシカ・レクイエム」、『ラピュタ』でパズーがトランペットで独奏する「ハトと少年」、いまや『トトロ』のオープニングというだけでなく「ジブリがいっぱいCOLLECTION」シリーズのサウンドロゴとしても使われている「さんぽ」、『魔女宅』で、キキのポータブルラジオから流れ出す「ルージュの伝言」、加藤登紀子の演じるジーナが『紅の豚』で歌う「さくらんぼの実る頃」などなど。それらをひとまとめに手にすることができる『サントラBOX』は、“絵が見えてくるほど映像的”と称される久石作品の真髄を伝えてくれるに違いない。(文:伊藤隆剛/ライター)

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