一家殺人事件に超常現象、『悪魔の棲む家』の舞台となった幽霊屋敷のその後
1974年11月13日、オーシャンアベニュー112番地の家で家族6人が死亡
ニューヨーク州ロングアイランドのアミティヴィル郊外にある“オーシャンアベニュー112番地の家”は、アメリカで最も有名な幽霊屋敷のひとつ。そして最も映画化された回数の多い幽霊屋敷でもある。ダッチコロニアル様式のこの家は、スチュアート・ローゼンバーグ監督作『悪魔の棲む家』(79年)を始め、その続編やリメイク、類似作の舞台になり、『死霊館 エンフィールド事件』(16年)の冒頭にも登場しているのだ。
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屋敷の因縁として実際に記録が残っているのは、1974年に起きた殺人事件だ。11月13日の夕方6時過ぎ、オーシャンアベニュー112番地に家族と住むロナルド・ジョセフ・デフェオ・ジュニアが、自分の両親が撃たれたとバーに駆け込んできた。その場にいた数人がデフェオの案内で家に向かったところ、家族6人がベッドで死んでいた。
犠牲者はデフィの両親に加え、4人の弟妹たち。全員が35口径のライフルで射殺されていた。一家の長男であり、唯一の生き残りであるデフォは、マフィアの殺し屋による犯行だと示唆したが、警察の事情聴取の結果、その供述に複数の矛盾があることが発覚。翌日には自分の犯行であることを自白した。
裁判の結果、デフォは第二級殺人で有罪となり、終身刑6回の判決を受けた。ただ、一家殺害の動機は不明のまま。裁判中の彼は心神喪失を装ってか、「頭の中にいる誰かに殺せと命じられた」と証言したという。
事故物件を買った夫妻は屋敷を逃げ出し『悪魔の棲む家』の主人公に
かくしてオーシャンアベニュー112番地の家は、重度の事故物件になった。当然のことながら、買い手がなかなか現れない。だが、75年12月にジョージ&キャシー・ラッツ夫妻が破格の8万ドルで家を購入、4人の子どもたちを連れて屋敷に引っ越した。彼らこそが後に累計1000万部を売り上げるベストセラー「アミティヴィルの恐怖」の登場人物であり、映画『悪魔の棲む家』の主人公一家である。
ラッツ一家は12月19日に越してきたが、それから1ヵ月後の76年1月14日、わずかな着替えだけを持って屋敷を飛び出した。それが話題なると、わざわざ記者会見を開き、何らかの超自然的力によって家を追い出されたと主張。そして76年9月にはルッソ夫妻のインタビューをもとにしたノンフィクション「アミティヴィルの恐怖」が刊行され、79年にその映画化『悪魔の棲む家』が公開されて大ヒットを記録する。
ラッツ夫妻は、『死霊館』シリーズのモデルになった心霊研究家のウォーレン夫妻に屋敷の調査を依頼している。ウォーレン夫妻は赤外線を使ったコマ撮り写真の1枚に霊が映っていると証言し、オーシャンアベニュー112番地の家に幽霊屋敷のお墨付きを与えた。この写真が公表されたのは、ラッツ夫妻が『悪魔の棲む家』の宣伝でTV出演した時だった。
ラッツ夫妻は80年代末に離婚し、04年に妻キャシー、06年に夫ジョージが他界した。ふたりは最後まで本に書かれていることは事実だと主張したが、彼らが体験したという超常現象の多くは否定されている。例えばポルターガイスト現象によって壊れたとされる扉や窓は、修理や付け替えた痕跡がなかったし、映画のクライマックスにも登場する赤い部屋は、ありふれた小さなクローゼットに過ぎなかったことが明らかになっている。
次の家主は、いわくつきの屋敷に10年間住んだが……。
実際に屋敷に住んだ人の証言もある。77年にこの家を5万5000ドルで購入し、10年間住み続けたクロマティ夫妻は、「映画のファンが来ることを除けば奇妙なことは何も起こらなかった」と語っている。1カ月で家から飛び出した夫婦と10年住んだ夫婦、どちらの言葉を信じるべきか考えるまでもないだろう。
オーシャンアベニュー112番地の家は、その後も度々家主が変わっている。2010年には希望価格115万ドルで売りに出されたが、95万ドルで地元住民に買い取られた。さらに16年初頭にも85万ドルで新たな家主の手に渡っている。現在もオーシャンアベニュー112番地の家は存在しているが、聖地巡礼の映画ファンを阻止するために改装されており、住所も変更されている。印象的だった扇型の窓も取り除かれたらしく、映画のイメージとは随分と趣の異なる外観になっているようだ。(文:伊東美和/ライター)
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