国家の怠慢、製薬会社の偽造…死者64人の悲劇を追求した理由は、子を失った親の苦しみを目の当たりにしたから

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一命を取り留めたはずの患者が死亡…驚愕の理由とは?

ルーマニアを揺るがした癒着事件の実態に迫るドキュメンタリー映画『コレクティブ 国家の嘘』が全国公開中。ムビコレではアレクサンダー・ナナウ監督のインタビューを掲載中だ。

ルーマニア医療汚職の実態に迫るドキュメンタリー/アレクサンダー・ナナウ監督インタビュー

2015年にルーマニア・ブカレストにあるライブハウス「コレクティブ」で27名が死亡、180名が負傷する大火災が発生。その後、一命を取り留めたはずの入院患者が複数の病院で次々に死亡し、最終的に死者数は64名まで膨れ上がった。不審に思った新聞社が調査に乗り出すと、次第に製薬会社の偽造や政府の検査の怠慢などが次々に明らかになっていく。本作は、新聞社のオフィスにカメラをセットし、事件の真相を追っていくドキュメンタリー映画だ。

ルーマニア生まれのナナウ監督は、本作のタイトルにもなっているライブハウス「コレクティブ」での火災当時、ブカレストに住んでいたという。ナナウ監督は、火災の衝撃について、「民主的なヨーロッパ社会が受けた打撃の大きさを体験しました。コレクティブの火災は、国民的なトラウマとなりました」と述べた上で、こう話す。「心に傷を負った人間と同じように、心に傷を負った社会は操りやすく、嘘をつきやすくなります。私は火災の後、当局が悲劇を完璧に管理しているという組織的な嘘が、あらゆるメディアを通じて、悲嘆にくれる人々に繰り返し伝えられるのを目撃しました。人々を沈黙させ、質問をさせないように操っているのを目の当たりにしたのです。その間、病院では火災で負傷した若者たちが亡くなり続けていたというのに」。

ナナウ監督は、火災の1ヵ月~1ヵ月半後にはリサーチを始め、撮影も始めていたという。撮影で最初に試みたのは、「この悲劇が生存者や火災後に病院で子どもを失った家族の私生活に与えた、直接的な影響を理解することでした」と話す。コレクティブの生存者のひとりである映画監督のミハイ・グレチャも仲間に加わり、コレクティブの犠牲者たちの家族の中に飛び込んで取材を進めた。

自身も子どもを持つ親であるナナウ監督は、最も辛かったこととして「子どもを失った親の苦しみを目の当たりにしたこと」と話す。そして、「同じ状況が自分の人生を襲うかもしれないと考え、もっと理解し、深く掘り下げ、手を伸ばし、隠されていたものを撮影しよう」と考えたナナウ監督。事件における当局の役割を調査し始めた、ガゼタ・スポルトゥリロル紙に撮影の打診をし、事件の実態に迫っていく。

2017年公開のドキュメンタリー映画『トトとふたりの姉』では、あくまでニュートラルな視点で姉弟の成長を捉えた映像が評価されたナナウ監督。ナナウ監督は、自身の撮影スタイルを“観察型ストーリーテリング”と呼び、「人々の生活に入り込み、うまく自分をはめこんで、まったく介入することなく彼らを追っていく……そんな手法です」と話す。撮られる側も撮る側もカメラの存在を忘れることで、観客はより物語に引き込まれ、まるで自分が体感しているような感覚に陥る。

インタビューでは、本作が撮影されたあとのルーマニア社会についてや、タイトルの意味についても語られている。アレクサンダー・ナナウ監督のインタビュー全文はこちらから

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