「息子を産むことが命より大事?」主人公の心の叫びは届くのか!? 中国で社会現象を巻き起こした感動作

#イン・ルオシン#シスター 夏のわかれ道#チャン・ツィフォン#中国映画#映画

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現代の日本社会にも存在する家父長制を背景にした家族の問題

中国全土を巻き込む社会現象となった感動作『シスター 夏のわかれ道』。11月25日より公開中の本作より、主人公が命に代えてでも長男を産もうとする夫婦に泣きながら訴える本編映像に加え、イン・ルオシン監督インタビュー&メッセージ映像を紹介する。

・中国で若者世代を中心に社会現象となる大ヒットを巻き起こした「奇跡の映画」

看護師として働くアン・ランは、医者になるために北京の大学院進学を目指していた。ある日、疎遠だった両親を交通事故で失い、見知らぬ6歳の弟・ズーハンが突然現れる。望まれなかった娘として、早くから親元を離れて自立してきたアン・ラン。一方で待望の長男として愛情を受けて育ってきたズーハン。

姉であることを理由に親戚から養育を押し付けられたアン・ランは、弟を養子に出すと宣言。養子先が見つかるまで仕方なく面倒をみることになり、両親の死すら理解できずワガママばかりの弟に振り回される。しかし、幼い弟を思いやる気持ちが少しずつ芽生え、アン・ランの固い決意が揺らぎ始める。自分の人生か、姉として生きるか。葛藤しながらも踏み出した未来への一歩とはー。

『シスター 夏のわかれ道』

本編映像は、看護師のアン・ラン(チャン・ツィフォン)が、妊娠を続ければ命に関わる妊婦を必死で説得するシーン。母体の危険を知りながらも、待望の長男の出産を産みたいとある夫婦。アン・ランは、救急車で搬送される妊婦とその夫に「息子を産むことが、命より大事なこと?」と訴えるが、「やっとできた子を堕ろせというのか? 邪魔をするな!」と突き飛ばされる。

その様子をただ悲しそうに見つめる、彼らの2人の幼き娘たち。自身が望まれない娘として育ったアン・ランは、人ごとには思えず、「死んでも息子を産ませるの? この人殺し!」と泣き叫ぶ。

中国の一人っ子政策は1979年に始まり2015年まで続いた。本作は、この時代を生きた86年生まれの新鋭の女性監督イン・ルオシンと女性脚本家のタッグで制作された。イン・ルオシン監督は中国安徽省出身、1986年生まれの36歳。2020年に『再見、少年』で長編映画デビューし、本作が監督2作目となる。

──この物語を撮ろうと思ったきっかけは?

監督:脚本にこんな描写がありました。弟が姉の部屋の窓に向かって外から石ころを投げ、生かじりの知識でイタズラっぽく大声で曹植の「七歩詩」を暗唱するのです。“豆の茎で豆を煮る。豆は釜の中で泣く。豆も豆殻も根は同じ。どうしていじめるの?”その光景は瞬時に私の脳裏に広がりました。

暗闇の中、窓の外では星がきらめき、2人の瞳は見つめ合い互いの心の中を探りあっている。短い時間で2人の間に無数の複雑な感情が湧き上がる。姉も弟も、心の中で密かに問いかけている。“あなたの存在は、自分にとって何を意味するのだろう?”と。このシーンが撮影を決意した決め手です。

──チャン・ツィフォンとダレン・キムのキャスティング経緯について。

監督:ツィフォンとは前作『再見、少年』で一緒に仕事をしたのですが、彼女の強靱さ、感覚の鋭さ、動揺しない所が、アン・ランの不屈の闘志を持ったタフなキャラクターと非常にマッチしていたのです。唯一の懸念は、彼女の年齢が、役柄より5歳以上も若いという点でした。しかしツィフォンと絶えず脚本や役柄についてディスカッションを重ね、徐々にアン・ランに入り込んでいた姿をみて、彼女がこの役を演じきれると確信をしました。

キムはオーディション動画を見た時、母親の指示に従いながらしぶしぶ演技している感じでした。しかし、その目はとても澄んでいて、つたない動作の中にみせる自然な姿が、とても印象的でした。面接で彼にゲームの中で演技の練習をさせてみると、非常にリラックスして、反応も素早く、高い集中力を見せました。すべてが素晴らしかったので、大勢の中から最終的に弟役に選びました。彼は撮影時4歳半で、役柄より幼かったのですが、見事に演じ切りました。

──この映画をつくる上で参考にした作品は?

監督:参考としたのは、エドワード・ヤン監督の『ヤンヤン 夏の想い出』(00年)、是枝裕和監督の『奇跡』(11年)、『海よりもまだ深く』(16年)です。何回も見返しました。

──中国での公開時、SNSで議論となった当時の反響は?

監督:観客からは、とても感動した、姉弟の関係、叔母と叔父のキャラクターについて議論が起こったり、姉弟の運命はどうなるのだろうか、といった多くの反響がありました。また自分の人生を歩もうとするアン・ランの気持ちを、身近に受け取った女性もいました。いろんな議論が起こり、それを感じて嬉しく思いました。

──観客に伝えたいメッセージは?

監督:本作は、劇中の人物にとって100日あまりの出来事です。私は最終的にオープン・エンディングを選びました。この結末で私が伝えたかったことは、家族によって心を傷だらけにされ、すでに“家を出る”決断をした女の子の固く閉ざされた心の扉が、歳の離れた弟との新たな姉弟関係によって、わずかに開いたとしたら、彼女はどんな選択をするのだろうか? 最終的な選択は、弟の手を取り、ひとまずその場から逃げ出すことでした。

この先の暮らしがどうなるか、私はクリエイターとして、彼女に絶対的な結末を与えることはできません。アン・ランに、そして観客に伝えたかったことは、世代間の隔たりに痛みは付き物であるということ。そして、我々は永遠に対立しながら、その複雑で親密な関係の中にいるということです。

共に生き、折り合う点を探すのか、あるいは消極的になるのか、または反抗して決裂するのか? アン・ランは羽ばたくことができる以上、羽ばたいてほしいと願うと同時に、この残酷で変化の多い世界でも愛を持ち続けて欲しいと願っています。

併せて紹介するメッセージ動画では、イン・ルオシン監督が日本で本作が公開される喜びと、この映画で感じて欲しい希望の思いを語った。


INTERVIEW