『マルガリータで乾杯を!』ショナリ・ボース監督&カルキ・ケクラン インタビュー

障害者、同性愛などインドでタブーに挑戦した本作への思いを語る!

#カルキ・ケクラン#ショナリ・ボース

これは障害者の映画ではなく、10代の悩みを抱えた少女の物語(ボース監督)

近年、インド映画への注目度が高くなっている。“ボリウッド”と称される作品群は、明快なストーリーとアクションやダンス、歌などを交えた娯楽映画として広く認識されている一方、人の心に宿る普遍的なテーマをじっくりと描く人間ドラマも増えている。そんなインドからまた魅力的な作品がやって来た。

映画『マルガリータで乾杯を!』は、障害を抱えながらも前向きに生きる少女の成長を描いた物語。障害者の性や恋愛、同性愛など、きわどいテーマも内在しており、やや「硬質」な作品ではあるが、鑑賞後には、明るく元気で前向きな気持ちになれるとても爽やかな映画だ。PRのために来日したショナリ・ボース監督と主演女優のカルキ・ケクランに話を聞いた。

──生まれつき障害があり、身体が不自由な少女を描いた物語ですが、どこから着想を得たのでしょうか?

ボース監督:私の1歳年下にマリニと言う従妹がいるのですが、彼女が障害を持っていました。彼女とはずっと一緒に暮らしていたのですが、私よりも恋愛にも興味を持っているぐらいだし、何ら私たちと違いがなかった。でも世の中の人にとってマリニは恋愛の対象ではなかった。理由は車イスに乗っていたり、障害を持っていたから。彼女が思っているように、世の中は彼女のことを見ていなかったと気づき、このテーマを描こうと思ったのです。

インドで育ったフランス人のカルキ・ケクラン

──障害を持った主人公が、明るく元気に前向きに生活する姿を描いていますが、どんな思いを作品に込めたのでしょうか?

ボース監督:作品を数分見ていただければわかると思いますが、これは障害者の映画ではなく、障害を離れた部分で、10代の悩みを抱えた少女の物語なんです。障害者、健常者関係なく、若い頃はみんな同じ喜びや悲しみを抱えているんだということが描きたかった。障害者を持つ家族は、常に人目にさらされているということは自分でも体験しています。だから障害者が同情を誘うようなシーンは映画に入れたくなかったんです。

──ケクランさんは障害を抱えるライラという少女を好演していました。どんな心構えで作品に臨んだのでしょうか?

ケクラン:台本を読んで一番最初に感じたのは恐怖心です。ちゃんとリアルに障害者を演じられるかということは私にとって重要でした。だからボース監督には、準備期間をしっかり設けていただくという条件でお話を受けました。そこで納得いく演技が出来なければやめようと。スクリーンテストを何度も行い、専門家のお医者さんにもちゃんと見てチェックをしていただきました。

──テーマ的にインドでの公開には大変な苦労があったとお聞きしました。

ボース監督:インドでの公開は難しいと予測していました。インドでは同性愛が法律で禁止されていますので、そういうテーマが内在しているこの作品は、そもそも上映出来ないか、出来ても何らかの団体が圧力をかけてくるんではないかと考えていました。元々、私の処女作『Amu(アムー)』という映画では「反体制だ」と言われ、(日本の映倫のような)組織で検閲され、嫌な思いをしていました。同じインド映画業界なので、この作品もそういう色眼鏡で検閲されるのではないかと心配していました。

──当局とはどんなやり取りがあったのですか?

ボース監督:この映画もライラが中指を立てているシーンなど15シーンの検閲が入りました。そもそも成人指定を受けている映画なのに、何でそういう指摘が入るのか納得いかなかったので、結構対抗しました。その結果、いくつかのシーンは切らずに済みました。それでも自分の撮った映画がズタズタに切り刻まれてしまうのは悲しいので、もう世に出すのはやめようと思ったこともありました。そんな時、検閲を担当した7人のうち4人が女性だったのですが、私の作品に感動してくれて、異議申し立てができる場所があることを教えてくれたんです。そこで主張したら、カットしろと言われた部分はすべてOKになったんです。ただ1点、ライラのセックスシーンだけは、インドではヌードがダメなので短くしました。でも、同性愛の部分は何も言われなかった。私の勝利だと思います(笑)。

撮影前は障害者に対する知識がまったくなく緊張した(カルキ・ケクラン)
『マルガリータで乾杯を!』
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──念願の公開、インドではどんな反応でしたか?

ボース監督:昨年の4月にインドで公開された時は、約250館での上映でした。前評判では「1週間で打ち切りになるだろう」なんて言われていましたが、上映期間はほぼ満員という結果になりました。同性愛者への偏見を持っている方にも多く見てもらい「感動した」という感想を持っていただきました。タブーを扱っている映画なので、反対勢力やデモなどが起こるかもと思っていましたが、全くそういう動きはなかったんです。逆に「騒いでくれた方が話題になったんじゃないか」ってプロデューサーががっかりしていたぐらいです(笑)。

──ライラという女性を演じてケクランさんは障害者やセクシャルマイノリティの人々への考え方や接し方は変わりましたか?

ケクラン:この作品に接する前は、全く障害を持った人に対する知識がなく『マイ・レフトフット』で脳性マヒのことを知っているぐらいでした。マリニと会うときもすごく緊張したし、手を貸すべきなのかどうか……という迷いがあったぐらい。ただ今回の撮影を経験して、障害を持った人やセクシャルマイノリティの人たちがいかに普通で、同じ感情を持っているかを知りました。性に対しても私たちと同じ欲求なんです。ただパートナーを探すのがいかに大変かということは考えさせられました。インドでは障害を持った人たちがあまり表に出ないので、知る機会や接する機会がないのです。もっとお互いを知り合わないとダメなんだと実感しました。

『マルガリータで乾杯を!』
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──ケクランさんは初めての日本だということですが、来日してみていかがですか?

ケクラン:たまたま学生時代のルームメイトが日本人だったのと、兄のフィアンセが日本人なので、多少日本という国に接する機会はあったんです。黒澤明監督の作品は見ていますし、(北野武監督の)『菊次郎の夏』も好きな映画なので、何となく日本のイメージは持っていました。でも、実際訪れて、新宿を歩いてみたのですが、すごく人が多くて、活気に満ち溢れているなと感じました。人は親切ですし、とても丁寧で温かく歓迎していただいてうれしかったです。あとお寿司やうどんも美味しかったです(笑)。

──文化や風習の違う日本で本作が公開されます。

ボース監督:インド以外で初めてこの作品を買ってもらったのが日本でした。トルコやイスラエルなど、すでに国際映画祭で15くらい賞をいただいていますが、この映画をイギリスやアメリカ、オーストラリアなどより先にアジアの国で公開できるということは素晴らしい! 日本映画は、映画学を勉強した時に黒沢明監督などの作品に触れました。ぜひ映画館に足を運んでほしいです。騙されたと思って来てください! 決して後悔はさせません!

ケクラン:10代の人や青春を経験した人に見ていただきたいです。当時の苦しみや、周囲に受け入れてもらいたいという欲望、成長する過程での悩みなどを経験した人には共感してもらえる作品だと思います。

(text&photo:磯部正和)

カルキ・ケクラン
カルキ・ケクラン
Kalki Koechlin

1984年1月10日生まれ。インド出身。フランス人両親のもと、南インド・ポンディシェリで生まれる。ロンドン大学に進学後、演劇を学び、劇団で女優として活動を開始。その後インドに戻り、アヌラーグ・カシャプ監督作『デーヴ D』(09年)でスクリーンデビュー。日本でも映画祭上映された『人生は一度だけ』(11年)、『シャンハイ』(12年)、『若さは向こう見ず』(13年)等にも出演し女優としての地位を築く。

ショナリ・ボース
ショナリ・ボース
Shonali Bose

1965年6月3日生まれ。インド・コルタカ出身。デリー大学在籍時から政治活動を始めるかたわら、演劇活動も続ける。大学卒業後、ニューヨークのコロンビア大学で政治学の博士号を取得。UCLAの演劇・映画・テレビ学校で監督コースを専攻後、短編映画やドキュメンタリー映画の監督を務める。05年に映画『Amu(アムー)』で長編劇場作品の監督デビュー。本作はシク教徒虐殺事件を題材にし話題を呼ぶ。その後も、反イギリス闘争を描いた『Chittagong(チッタゴン)』の助監督や共同脚本を担当する。本作ではトロント国際映画祭2014でNETPAC賞(最優秀アジア賞)を受賞するなど、世界中で高い評価を受けている。