『ジャンゴ 繋がれざる者』クエンティン・タランティーノ監督インタビュー

人気監督タラちゃんが憧れの西部劇に挑戦!

#クエンティン・タランティーノ

ずっと西部劇が好きでほかの映画にも西部劇の要素が入っている

南北戦争勃発前、奴隷制度が残るアメリカの深南部で、妻を奪われた黒人奴隷とドイツ人の賞金稼ぎが繰り広げる壮大な復讐物語を描いた『ジャンゴ 繋がれざる者』。人気監督クエンティン・タランティーノが放つバイオレンスアクションだ。

伝説的作品『パルプ・フィクション』(94年)をはじめ、『キル・ビル』(03年)、『イングロリアス・バスターズ』(09年)といった血みどろエンターテインメントで人々を魅了してきたタランティーノ監督が、初めて手がけた“西部劇”について語った。

──ずっと西部劇を作りたいと言い続けてきましたが、ようやく夢が叶いましたね。

監督:そうだね。でも、僕にとっては“映画が作れる”ということだけで夢が実現できたということなんだ。ジャンルは関係ない。僕は、いろんなジャンルにトライするのが好きなんだ。戦争映画、ギャング映画、マーシャルアーツ映画。そして今回は西部劇。
 ずっと西部劇が好きで、僕のほかの映画にも西部劇の要素は入っているんだ。もちろん本物の西部劇ができるのは嬉しいよ。とは言いつつも、この作品は、南部を舞台にした本物の西部劇ではないんだけどね。。

──解放される黒人奴隷をジェイミー・フォックスが演じていますが、起用の理由は?

監督:とにかく彼は最高だよ。物語を理解し、文脈を理解し、この映画の歴史的な意義も分かってくれている。彼は、僕のために演じ、映画のために演じ、自分のために演じたけれど、自分の祖先のためにも演じたと思う。祖先ができなかったことをやることになった。これは彼や、彼の周りの人に、そしてすべてのアメリカ人にとって、とても重要な物語なんだ。彼は、そのことを理解した。素晴らしい俳優だし、今回のキャラクターにぴったりの容貌でもあるけれど、彼がカウボーイである側面を忘れてはならない。彼には、カウボーイの資質があるんだ。ジェイミーは馬に乗るのも、カウボーイ姿もよく似合っている。

実生活では満足できる復讐なんてほとんどない
ローマでのプレミアの模様
クエンティン・タランティーノ監督は左から3番目

──その黒人奴隷の妻を奪う冷酷な白人をレオナルド・ディカプリオが演じていますね。その起用理由も教えてください。

監督:まず、レオの方から興味があると言ってきたんだ。脚本を書くとき、僕はあのキャラクターについて詳細を設定しないよう心がけた。でも、俳優はもう少し年上を考えていたんだ。そんななかでレオが脚本を気に入ってくれ、2人で会い、話をスタートさせた。
 “彼”の父親の父親の父親が綿花のビジネスを始め、父親の父親がそれを受け継いて利益を上げる。そして、彼の父親がさらに大もうけをする。ということで彼は、綿花ビジネスを引き継いだ4代目だ。でも、彼はビジネスには飽き飽きしていて、所詮は怒りっぽい子どもじみた君主に過ぎない。そんな状況は外から見ているだけで興味深い。農園を所有していて、白人の使用人や黒人奴隷が自分のために働き、その上広大な土地を所有していたら、王様のようになっても不思議はない。広大な邸宅は宮殿であり、人はすべて、自分の家来だ。王と同じ権力を持っているようなものだ。ということで僕は、南部に住むルイ16世を演じて貰いたいと考えたんだ。彼がこういったキャラクターを演じたことはないからね。

──『ジャッキー・ブラウン』に続き人種差別に踏み込んだ作品ですね。こういったテーマを扱うことに躊躇を感じたりはしませんか?

監督:まったく感じないね。何か言う人は必ずいるんだ。でも、それもいつかは消えるし、映画はあくまでも映画だ。誰にも自分がやりたいことを止めろとは言わせないし、どちらにしても僕はやるよ。だから、そんな事は気にならない。その手のことをしゃべり過ぎる奴には「そうだね、そりゃ本当だ。だが、こいつはクールな西部劇でもあるんだ」って言ってやるさ。

ジャパンプレミアでのクエンティン・タランティーノ監督

──あなたの映画ではいつも復讐がテーマになっています。復讐のどこに惹かれるのですか?

監督:この映画は、実際にはヒーローのロードムービーだ。彼は妻を救うために悪魔に直面しなければならず、ある種、地獄の口まで入り込んで行く。なので、復讐よりも、ヒーローの旅の物語だよ。とはいえ、奴隷が鞭を主人から取り上げ、主人へと向ける場面を見るのは、興奮が高まるものだ。復讐という感覚は、最もパワフルな感情を呼び起こして笑いを生むと思うんだ。復讐により、主人公たちが悪人を懲らしめたとき、観客は血塗られた殺人に歓声を上げ、興奮する。これは本当にパワフルなことだよ。そして、あくまでも映画のなかでの話だから安全だ。実生活では満足できる復讐なんてほとんどないからね。
 実生活で「誰かが病気になればいい」とか「報いを受ければいい」と望んでも、実際に現実となったら良い事なんてないよ。僕だったらさらに気分が悪くなるね。『キル・ビル』のなかで服部半蔵がこの気持ちをとても上手く言い表している。「復讐は森だ。行く先を見失うのはたやすく、森のなかで迷うのはたやすい」。しかし、観客に共感を呼び起こして貰う感情としては、復讐は素晴らしいと思う。

クエンティン・タランティーノ
クエンティン・タランティーノ
Quentin Tarantino

1963年3月27日生まれ、テネシー州出身。レンタルビデオショップの店員として膨大な映画に触れながら脚本家を目指し、カンヌ国際映画祭にも出品された『レザボア・ドッグス』(91年)で監督・脚本家デビュー。監督2作目となる『パルプ・フィクション』(94年)でカンヌ国際映画祭最高賞のパルムドールを受賞。一気に人気監督となる。その他の主な監督作は『ジャッキー・ブラウン』(97年)、『キル・ビル Vol.1』(03年)、『キル・ビル Vol.2』(04年)、『イングロリアス・バスターズ』(09年)など。

クエンティン・タランティーノ
ジャンゴ 繋がれざる者
2013年3月1日より丸の内ピカデリーほかにて全国公開
[監督]クエンティン・タランティーノ
[出演]レオナルド・ディカプリオ、ジェイミー・フォックス、クリストフ・ヴァルツ、ケリー・ワシントン、カート・ラッセル、サミュエル・L・ジャクソン
[原題]DJANGO UNCHAINED
[DATA]2012年/ソニー・ピクチャーズ